暁の草原

Lesewolf

文字の大きさ
上 下
57 / 159
第四環「フックスグロッケン」

④-10 バルカローラ②

しおりを挟む
「ぴぎゃああああああああああ」

 朝の森に少年の悲鳴がこだましたころ、グリットは兎を串焼きにすると調理を完了して焼きだしていた。


「せっがく、ぢりょう、ぢたのに!」
「同じ兎じゃないって言っても、駄目なんだろうな」
「こいつ、本当に俺の弟か?」
「ぴぎゃああああああああああああああああああああ」


 更にもう一度、悲鳴が上がったところで、ティトーは涙を袖で拭うと、感謝の言葉を唱えた。

「ごめんなさい、グリットさんがこんなひどい事を。ありがとう、兎さん。命を戴きます」
「お前、俺を何だと思ってんだ」
「ロリコン」

 兎肉を頬張りながら、アンリが言い放ったために、グリットは飲みかけのスープを吹き出した。

「お前それ、意味わかってんのかよ!」
「知らないが、父は君の事を、よくそう呼んでいた」
「くっそ。親父さんめ……」

 ティトーは涙を流しながら、もくもくと兎の肉を頬張っている。夢中に食べだした姿を見ると、アンリはグリットへ声を掛ける。

「本当に、親父には何も言っていないんだな」
「ああ。何も言っていないよ」
「あのタウ族は」
「あいつも復興事業で、ずっと再会の町にいるんだろう? 無理だ」
「そうか」

 ティトーは会話は聞こえていたものの、兎の柔らかなお肉に舌鼓を打ちつつ、ごめんなさいを唱えるのに必死であった。



 ◇

「この後はどこにいくんですか!」

 兎肉を頬張ったティトーは目を輝かせながら、地団駄を踏んだ。

「早く行くですよー!!」
「ティトー、手をこれで拭きなさい。まずはメサイア、鐘の町へ向かう」
「拭きましたです!! あの! 地図を見てもいいですか」
「俺が見せる」

 グリットは地図を広げると、現在地の森を指さした。ここからはまだもう一泊程すると、鐘の町に到着するという。

「ルゼリアと違って、セシュールは町と町が離れているんだ」
「どうしてなの?」
「魔物が出るからなんだ」
「でも、エーテルが不安定なだけなんだよ」

 ティトーは荷物を持ちながら、不安を漏らした。少年は当たり前のことを云っただけだったのだ。

「そうだな。でも、ティトーは全部の魔物をすぐに治せないだろう」

 ティトーはしょんぼりすると、兄アンリへ助けを求めた。

「またすぐに気を失うぞ」
「ガーン! で、でも他に出来る人はいないの? 聖女さまとか。聖女っていうくらいなんだから、慈愛に満ちた人なんでしょう?」
「法術では、魔物は浄化されて消滅してしまうだろう」
「あ」

 ティトーは立ち止まると、悲しそうにガッカリして項垂れてしまった。

「だから、巫女なんだね」
「そうだ。それでも、今は巫女が不在なんだ」

 前を歩きだし、ティトーは振り返りながら二人を見据えた。力強い、目線を添えて。

「僕が選定されていないから?」
「そうなのかもしれない」

 グリットは俯きながら、しかしティトーから目線を外せずに話したが、ティトーは怯むことは無い。

「お兄様は、出来ないの?」
「俺はそこまで、法術も治癒の力の強くないんだ。巫女選定の儀は受けたが、能力不足だと言われている」
「でも、お兄様は凄くお強いのに!」

 ティトーは剣を抜く仕草を真似ると、えいえいやー!と元気よく発言したが、アンリは笑えなかった。

「俺は、瑠竜血値が0なんだ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【第一部完結】こちらは在アルス・メリア日本大使館ですが、何か御用でしょうか?

呑兵衛和尚
ファンタジー
【第一部完結です】  2030年。  今年は北海道冬季オリンピックが開催される年。  札幌を始め、日本各地では競技会場や応援観光など、様々な催し物が開催されている。  そのオリンピックの開会式まであと3ヶ月後の11月6日。  北海道は札幌市で、その事件は起こった。  北海道庁正面広場に突然現れた、異世界と繋がっている|転移門《ゲート》。  そこから姿を現したのは、異世界アルス・メリアのとある国の外交使節団。   その外交使節団の提案により、日本は世界に先駆けて異世界との国交を開始されたのだが。 「私、調理師ですよ? なんで異世界にいって仕事しないといけないんですか?」 異世界適性があるというだけで、普通の調理師からアルス・メリア在住の異世界大使館の職員になってしまった加賀美春(かが・みはる) 。  この物語は、彼女が異世界と現実世界の間でおこるハチャメチャな日常を書き綴ったものである。

【中華ファンタジー】天帝の代言人~わけあって屁理屈を申し上げます~

あかいかかぽ
キャラ文芸
注意*主人公は男の子です 屁理屈や言いがかりにも骨や筋はきっとある!? 道士になるべく育てられていた少年、英照勇。 ある冬の夜、殺し屋に命を狙われて、たまたま出会った女侠に助けられたものの、彼女が言うには照勇は『皇孫』らしいのだ……。 は? そんなの初耳なんですけど……?。 屁理屈と言いがかりと詭弁と雄弁で道をひらく少年と、わけあり女侠と涙もろい詐欺師が旅する物語。 後宮が出てこない、漂泊と変転をくりかえす中華ファンタジー。 一応女性向けにしています。

異世界で婿養子は万能職でした

小狐丸
ファンタジー
 幼馴染の皐月と結婚した修二は、次男という事もあり、婿養子となる。  色々と特殊な家柄の皐月の実家を継ぐ為に、修二は努力を積み重ねる。  結婚して一人娘も生まれ、順風満帆かと思えた修二の人生に試練が訪れる。  家族の乗る車で帰宅途中、突然の地震から地割れに呑み込まれる。  呑み込まれた先は、ゲームの様な剣と魔法の存在する世界。  その世界で、強過ぎる義父と動じない義母、マイペースな妻の皐月と天真爛漫の娘の佐那。  ファンタジー世界でも婿養子は懸命に頑張る。  修二は、異世界版、大草原の小さな家を目指す。

イベントへ行こう!

呑兵衛和尚
ライト文芸
小さい頃に夢見ていた、ヒーローショーの司会のお姉さん。 その姿に憧れて、いつか自分もイベントのMCになろうと思った女性は、いつしか大学生となり、MCになるべくアルバイトを始める。 【ぬいぐるみアトラクター、イベント設営業務】と書かれたバイト先に応募して、ようやく一歩を踏み出したと思ったのに、なぜか作業は設営業務? あれ?  MCはどこに? 私の夢はイベントのMCであって、設営のプロじゃないのですけど? そんな勘違いから始まった、イベントの裏方を頑張る御子柴優香の、はちゃめちゃなストーリーです。 ●定期更新予定日:月、木曜日

春風の香

梅川 ノン
BL
 名門西園寺家の庶子として生まれた蒼は、病弱なオメガ。  母を早くに亡くし、父に顧みられない蒼は孤独だった。  そんな蒼に手を差し伸べたのが、北畠総合病院の医師北畠雪哉だった。  雪哉もオメガであり自力で医師になり、今は院長子息の夫になっていた。  自身の昔の姿を重ねて蒼を可愛がる雪哉は、自宅にも蒼を誘う。  雪哉の息子彰久は、蒼に一心に懐いた。蒼もそんな彰久を心から可愛がった。  3歳と15歳で出会う、受が12歳年上の歳の差オメガバースです。  オメガバースですが、独自の設定があります。ご了承ください。    番外編は二人の結婚直後と、4年後の甘い生活の二話です。それぞれ短いお話ですがお楽しみいただけると嬉しいです!

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

黄土と草原の快男子、毒女に負けじと奮闘す ~泣き虫れおなの絶叫昂国日誌・3.5部~

西川 旭
ファンタジー
バイト先は後宮、胸に抱える目的は復讐 ~泣き虫れおなの絶叫昂国日誌・第一部~ https://www.alphapolis.co.jp/novel/195285185/437803662 の続編。 第三部と第四部の幕間的な短編集です。 本編主人公である麗央那に近しい人たち、特に男性陣の「一方その頃」を描く、ほのぼの&殺伐中華風異世界絵巻。 色々工夫して趣向を変えて試しながら書き進めているシリーズなので、温かい気持ちで見守っていただけると幸い。 この部の完結後に、四部が開始します。 登場人物紹介 北原麗央那(きたはら・れおな) 慢性的に寝不足なガリ勉 巌力奴(がんりきやっこ)    休職中の怪力宦官 司午玄霧(しご・げんむ)    謹直な武官で麗央那の世話人 環椿珠(かん・ちんじゅ)    金持ちのドラ息子 応軽螢(おう・けいけい)    神台邑の長老の孫 司午想雲(しご・そうん)    玄霧の息子で清廉な少年 馬蝋奴(ばろうやっこ)     宮廷で一番偉い宦官 斗羅畏(とらい)        北方騎馬部族の若き首領 他

悪妃と愚王

東郷しのぶ
恋愛
 ナテン王国の王妃アリエットは、王のフレデリックより年齢が12歳も上だ。  そして王国の歴史においてフレデリックとアリエットは「愚劣な国王と悪辣な王妃」として、後世に名を残している。 ※「小説家になろう」様など、他サイトにも投稿しています。

処理中です...