54 / 180
第四環「フックスグロッケン」
④-7 在りし日の面影③
しおりを挟む
ぱちぱちと心地の良い木片が燃える音が耳に響く。辺りは薄暗く、そしてぼうっと赤い炎が揺らめいていた。
少年ティトーは目を覚ましたが、体が重くて動けずにいた。すぐそばにいる見慣れたグリットと、兄と呼んでいいのか迷うアンリが居る。
「何も話していないのか」
アンリは悲しそうな、感情を押し殺したような声色で訪ねている。尋ねられた男は、何も答えようとはしない。
「君がそうなら、僕に出来る事はないな」
ぱちぱちと轟く音だけが、グリットの返答として返ってきているようだった。アンリは返答を理解しているようで、そのまま話を続けている。
「鐘の町を通って、アドニス司教に会おう」
「…………司教は、信用できるのか」
「司教に懐いているのは、君の方だろう。グリット」
「別に懐いているわけじゃ」
グリットはおぼろげに目を開けてぼんやりしているティトーと目が合うと、すぐに近寄ってきて屈むと優しく額を撫でた。
「気付いたか」
パチパチと火が勢いよく音を鳴らし、アンリが木片を魔法で動かし始めた。目線はそれでも、ティトーの方へ向いている。
「ぼんやりする」
「また起きていたのに、声も上げずに盗み聞ぎしていたか」
「アンリ!」
「アンリ様だろう、グリット。雇い主は誰だ」
「お前なあ……」
「ううん。黙っていたのは僕だから」
ティトーはそういうと、グリットの腕の力を借りてゆっくりと起き上がった。すぐによろけたが、グリットが上手く支えている。
「ありがとう」
「いや。それより、体は大丈夫か」
「うん。怪我の治療って、結構エーテルを使うんだね」
「そんなことは無い」
アンリは吐き捨てると、直ぐに言葉をつづけた。
「お前が軟弱なんだ」
「アンリ! ティトーは、まだ六歳で……」
「年齢なんて関係ないだろう。内に秘めたる力がそれだけあって、何故」
「アンリ…………」
アンリは静かに立ち上がると、ティトーの元へ歩んできて屈んだ。表情は言葉とは裏腹に優しく、痛々しい程に微笑んでいる。
「ティトー。その力は、沢山の人が欲しがっても手に入れられない力なんだ」
「…………治癒? と、法術?」
「そうだ」
「どうして、僕なんかが」
「………………もし、君の母上が俺と同じなら、ティトーはもしかしたら巫女の素質があるかもしれない」
「み、こ?」
ティトーは首を傾げた。ルゼリア領内で聞いたことがあるのだ。それでも、詳しい事などは何一つと知らなかった。
「俺の母は、巫女。それも大巫女だったんだ。巫女は治癒術を使い、教会の聖女は法術を使うんだ。その上位の存在が、大巫女なんだ」
「治癒は自然治癒力を高める補佐、支援魔法に近いんだ。逆に治癒法術となると、女神に祈りを捧げて女神の力を借りて他者を癒す」
「じゃあ僕は、どっちも使えてる、ってこと?」
「そうなる」
「おおみこ……。僕に巫女の素質があったら、どうなるの?」
アンリは先ほどのように、優しく痛々しく微笑むと自身の胸を掴むように、祈るように首を垂れた。
「巫女選定の儀を、受けることが出来る」
少年ティトーは目を覚ましたが、体が重くて動けずにいた。すぐそばにいる見慣れたグリットと、兄と呼んでいいのか迷うアンリが居る。
「何も話していないのか」
アンリは悲しそうな、感情を押し殺したような声色で訪ねている。尋ねられた男は、何も答えようとはしない。
「君がそうなら、僕に出来る事はないな」
ぱちぱちと轟く音だけが、グリットの返答として返ってきているようだった。アンリは返答を理解しているようで、そのまま話を続けている。
「鐘の町を通って、アドニス司教に会おう」
「…………司教は、信用できるのか」
「司教に懐いているのは、君の方だろう。グリット」
「別に懐いているわけじゃ」
グリットはおぼろげに目を開けてぼんやりしているティトーと目が合うと、すぐに近寄ってきて屈むと優しく額を撫でた。
「気付いたか」
パチパチと火が勢いよく音を鳴らし、アンリが木片を魔法で動かし始めた。目線はそれでも、ティトーの方へ向いている。
「ぼんやりする」
「また起きていたのに、声も上げずに盗み聞ぎしていたか」
「アンリ!」
「アンリ様だろう、グリット。雇い主は誰だ」
「お前なあ……」
「ううん。黙っていたのは僕だから」
ティトーはそういうと、グリットの腕の力を借りてゆっくりと起き上がった。すぐによろけたが、グリットが上手く支えている。
「ありがとう」
「いや。それより、体は大丈夫か」
「うん。怪我の治療って、結構エーテルを使うんだね」
「そんなことは無い」
アンリは吐き捨てると、直ぐに言葉をつづけた。
「お前が軟弱なんだ」
「アンリ! ティトーは、まだ六歳で……」
「年齢なんて関係ないだろう。内に秘めたる力がそれだけあって、何故」
「アンリ…………」
アンリは静かに立ち上がると、ティトーの元へ歩んできて屈んだ。表情は言葉とは裏腹に優しく、痛々しい程に微笑んでいる。
「ティトー。その力は、沢山の人が欲しがっても手に入れられない力なんだ」
「…………治癒? と、法術?」
「そうだ」
「どうして、僕なんかが」
「………………もし、君の母上が俺と同じなら、ティトーはもしかしたら巫女の素質があるかもしれない」
「み、こ?」
ティトーは首を傾げた。ルゼリア領内で聞いたことがあるのだ。それでも、詳しい事などは何一つと知らなかった。
「俺の母は、巫女。それも大巫女だったんだ。巫女は治癒術を使い、教会の聖女は法術を使うんだ。その上位の存在が、大巫女なんだ」
「治癒は自然治癒力を高める補佐、支援魔法に近いんだ。逆に治癒法術となると、女神に祈りを捧げて女神の力を借りて他者を癒す」
「じゃあ僕は、どっちも使えてる、ってこと?」
「そうなる」
「おおみこ……。僕に巫女の素質があったら、どうなるの?」
アンリは先ほどのように、優しく痛々しく微笑むと自身の胸を掴むように、祈るように首を垂れた。
「巫女選定の儀を、受けることが出来る」
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
【完結】お父様に愛されなかった私を叔父様が連れ出してくれました。~お母様からお父様への最後のラブレター~
山葵
恋愛
「エリミヤ。私の所に来るかい?」
母の弟であるバンス子爵の言葉に私は泣きながら頷いた。
愛人宅に住み屋敷に帰らない父。
生前母は、そんな父と結婚出来て幸せだったと言った。
私には母の言葉が理解出来なかった。
暁の荒野
Lesewolf
ファンタジー
少女は、実姉のように慕うレイスに戦闘を習い、普通ではない集団で普通ではない生活を送っていた。
いつしか周囲は朱から白銀染まった。
西暦1950年、大戦後の混乱が続く世界。
スイスの旧都市シュタイン・アム・ラインで、フローリストの見習いとして忙しい日々を送っている赤毛の女性マリア。
謎が多くも頼りになる女性、ティニアに感謝しつつ、懸命に生きようとする人々と関わっていく。その様を穏やかだと感じれば感じるほど、かつての少女マリアは普通ではない自問自答を始めてしまうのだ。
Nolaノベル様、アルファポリス様にて投稿しております。執筆はNola(エディタツール)です。
Nolaノベル様、カクヨム様、アルファポリス様の順番で投稿しております。
キャラクターイラスト:はちれお様
婚約者の幼馴染?それが何か?
仏白目
恋愛
タバサは学園で婚約者のリカルドと食堂で昼食をとっていた
「あ〜、リカルドここにいたの?もう、待っててっていったのにぃ〜」
目の前にいる私の事はガン無視である
「マリサ・・・これからはタバサと昼食は一緒にとるから、君は遠慮してくれないか?」
リカルドにそう言われたマリサは
「酷いわ!リカルド!私達あんなに愛し合っていたのに、私を捨てるの?」
ん?愛し合っていた?今聞き捨てならない言葉が・・・
「マリサ!誤解を招くような言い方はやめてくれ!僕たちは幼馴染ってだけだろう?」
「そんな!リカルド酷い!」
マリサはテーブルに突っ伏してワアワア泣き出した、およそ貴族令嬢とは思えない姿を晒している
この騒ぎ自体 とんだ恥晒しだわ
タバサは席を立ち 冷めた目でリカルドを見ると、「この事は父に相談します、お先に失礼しますわ」
「まってくれタバサ!誤解なんだ」
リカルドを置いて、タバサは席を立った
「魔物肉は食べられますか?」異世界リタイアは神様のお情けです。勝手に召喚され馬鹿にされて追放されたのでスローライフを無双する。
太も歩けば右から落ちる(仮)
ファンタジー
その日、和泉春人は、現実世界で早期リタイアを達成した。しかし、八百屋の店内で勇者召喚の儀式に巻き込まれ異世界に転移させられてしまう。
鑑定により、春人は魔法属性が無で称号が無職だと判明し、勇者としての才能も全てが快適な生活に関わるものだった。「お前の生活特化笑える。これは勇者の召喚なんだぞっ。」最弱のステータスやスキルを、勇者達や召喚した国の重鎮達に笑われる。
ゴゴゴゴゴゴゴゴォ
春人は勝手に召喚されながら、軽蔑されるという理不尽に怒り、王に暴言を吐き国から追放された。異世界に嫌気がさした春人は魔王を倒さずスローライフや異世界グルメを満喫する事になる。
一方、乙女ゲームの世界では、皇后陛下が魔女だという噂により、同じ派閥にいる悪役令嬢グレース レガリオが婚約を破棄された。
華麗なる10人の王子達との甘くて危険な生活を悪役令嬢としてヒロインに奪わせない。
※春人が神様から貰った才能は特別なものです。現実世界で達成した早期リタイアを異世界で出来るように考えてあります。
春人の天賦の才
料理 節約 豊穣 遊戯 素材 生活
春人の初期スキル
【 全言語理解 】 【 料理 】 【 節約 】【 豊穣 】【 遊戯化 】【 マテリア化 】 【 快適生活スキル獲得 】
ストーリーが進み、春人が獲得するスキルなど
【 剥ぎ取り職人 】【 剣技 】【 冒険 】【 遊戯化 】【 マテリア化 】【 快適生活獲得 】 【 浄化 】【 鑑定 】【 無の境地 】【 瀕死回復Ⅰ 】【 体神 】【 堅神 】【 神心 】【 神威魔法獲得 】【 回路Ⅰ 】【 自動発動 】【 薬剤調合 】【 転職 】【 罠作成 】【 拠点登録 】【 帰還 】 【 美味しくな~れ 】【 割引チケット 】【 野菜の種 】【 アイテムボックス 】【 キャンセル 】【 防御結界 】【 応急処置 】【 完全修繕 】【 安眠 】【 無菌領域 】【 SP消費カット 】【 被ダメージカット 】
≪ 生成・製造スキル ≫
【 風呂トイレ生成 】【 調味料生成 】【 道具生成 】【 調理器具生成 】【 住居生成 】【 遊具生成 】【 テイルム製造 】【 アルモル製造 】【 ツール製造 】【 食品加工 】
≪ 召喚スキル ≫
【 使用人召喚 】【 蒐集家召喚 】【 スマホ召喚 】【 遊戯ガチャ召喚 】
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
婚約者の浮気相手が子を授かったので
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。
ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。
アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。
ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。
自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。
しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。
彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。
ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。
まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。
※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。
※完結しました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる