【完結】暁の草原

Lesewolf

文字の大きさ
上 下
41 / 228
第三環「また平凡な約束を君と」

③-6 でもそれは、とても幸せな③

しおりを挟む
 その後、何度も魔物に遭遇したが攻撃や防御を経て、魔物の衰弱はグリットが担った。ティトーはすぐに魔物を見ると、コアからエーテルの状態を視ていった。

 炎以外の属性の揺らぎもあったものの、簡単な攻撃魔法を試したティトーはすぐに初級の風と地属性の魔法を使えるようになったため困らなかった。水属性に至っては他の属性を少しずつ中和する形で補った為に時間がかかった。

「いいぞ、ティトー! その調子だ」
「で、でも痛そうで可哀想だよ」
「そこで辞めたら、もっと痛みが増して暴走してしまう。ちゃんとコアのエーテルを平定できれば、今までの魔物たちは喜んでいただろう?」
「それはそうだけど。ねえ、どうして魔物さんはエーテルがこんなに乱れちゃってるの?」
「それは」

 グリットは遠い目でセシュールが誇る、霊峰ケーニヒスベルクを見つめると、すぐにティトーに向き直った。ティトーは不安そうにしているが、取り乱すことは無い。

「大戦終結時、フェルド平原に光の柱が立ったんだ。いや、降り注いだといっていい。闇のエーテルとの興和が乱れ、それが大地のエーテルを乱してしまったんだ。魔物はエーテルに敏感でな。……フェルド共和国の獣人たちも、酷いエーテル酔いを起こしていた。暴れるやつもいたんだが、消滅させるわけにはいかないからな。ラダ族がタウ族と共に、フェルド共和国入りして、収めたんだ。お前のお兄さんが先陣を切った」

 ティトーは胸をぎゅっと抑えると、眼を閉じた。そして、そこに在るであろう銀時計を服の上から握った。重苦しい重圧が大地を支配しようと企んだが、すぐにティトーは瞳を見開くと、その瞳からは青い煌めきを放った。

「そうか。そこで、浄化じゃなくて、浄化というエーテルの平定が行われたんだね」
「そうだ」
「ルゼリア領内で噂になってた、フェルドの獣人暴動事件かなって思ったの」
「そんな事件として伝わっていたのか、あれは」
「ルゼリアって」

 ティトーは俯くと、煌めいていた瞳は虚ろになり、その煌めきは鈍く色濃く落ちていく。グリットはしゃがみこむと、ティトーの肩をそっと寄せた。泣いてはいないものの、やはり前から思っていたことが確信に変わったのだろう。だからこそ、ルゼリア領民は他国へ出向いて生活すると、途端に移住してしまうのだ。

「ルゼリアだけ、おかしいんだね」
「……ルゼリアの民たちは、何も知らないだけなんだ」
「そうだね」
「妖精たちを含めた獣人たちを、ルゼリアの人がどう思って接しているのかは知っている。お前はそれも可笑しいと思っていたんだろう」
「うん」

 ティトーは煌めきを戻しつつあった瞳で、グリットを心配させまいと微笑で見せた。


「へへ。文化とかだけの違いじゃないんだね。こういうのって。どうして差別、区別するんだろうって、ずっと思っていたの」
「大丈夫か。無理はするなよ。無理、したら分かるからな」
「……うん。領主さま、コルネリア様はそんなことはしなかったから」

 目線を逸らして俯いた少年は、グリットを見上げると改めて笑って見せた。
 
「うん、大丈夫」
「よし、それじゃあ」
「それじゃあ?」


 グリットは荷物を落とすと、簡易結界バリアの書かれた布を大地に広げた。

「ここで野宿だな」
「おおおお! お泊りですね!」
「ははは。楽しみだったのか」
「うん!」

 ティトーは煌めきを煌めかせると、万遍の笑みで歯を見せて笑った。

「この結界、数時間持つんですよね。教会が描いてるって聞いてます!」
「そうなんだ。聖女が描いてるんだ」
「こんなに可愛い結界バリアの魔法陣なんだね」

 布には狼の様な生き物が描かれているが、斜め左右の上には羽根が描かれている。

「聖獣というものらしい。今の聖女が始めたんだ。結界っていうか、厳密には魔物が嫌う神聖魔法が掛かっていてな。広げてから数時間しかもたないが、無駄な戦闘を避けたい旅人や商人は持ったまま旅をしてるぞ」

 ティトーはハッとしてグリットに振り返ると、グリットの手を両手でつかんだ。

「道中に掲げてなかったのは、魔物さんを助けるためだったんだ!」
「そうだ。まさかあんな直ぐにとは思わなかったが。さすがに怖い思いをさせたな。説明する時間があると思っていたんだ」
「ううん、大丈夫だよ! 大丈夫だったもの! それで、どうするの?」

 ティトーはワクワクを抑えきれず、手を握ったまま目を煌めかせた。その瞳の煌めきが更に増していく。グリットは楽しそうにする少年に昔の主を重ねていた。

「テントは直ぐに建つから、食事に動物を狩って」
「狩って……。狩って? ……………………ええええ!! た、助けたのに!」
「いや、肉は食べるだろう?」
「そ、そうか……」

 ティトーはリュックを下ろすと、すぐに植物図鑑を取り出した。見れば角が何か所も折られている。

「ぼ、ぼくは……。結界の周りで、僕は食べられる野草を採取してるね。その、狩るのは……」
「ああ。それは大丈夫だ。仕込みもしてくるからな」
「ごめんです」
「いや、子供にそんなことはさせられないよ。ただ、大地の恵みには感謝をして、粗末にしないようにしような」
「うん。ありがとう」

 ティトーは別に袋を広げると、本を眺めた。野草を探して入れていくつもりなのだろう。結界から離れないようにしている。が、すぐにキョロキョロして怯えている。風が草木を揺らすのだ。

「やっぱり、心配から……」
「ぴぎゃあああああああああああああああああ」

 グリットが直ぐに戻ってきたが、ティトーはびっくりして叫び声をあげた。賑やかな光景に、グリットは思わず大笑いした。

「だ、大丈夫だもん」
「でも、ほら、お前まだ六歳だろう、ぷはは」
「………………そんな笑わなくてもいいじゃん! びっくりしたんだもん。やっぱり、一緒にお願いします」
「うん。摘んだら、狩りに行ってくるからな」
「うん」

 ティトーは安堵した表情を浮かべると、グリットに植物図鑑を見せてきた。この日常が少しでも安らぎとなればいい。グリットは少年から主へと思いを馳せたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

独身おじさんの異世界ライフ~結婚しません、フリーな独身こそ最高です~

さとう
ファンタジー
 町の電気工事士であり、なんでも屋でもある織田玄徳は、仕事をそこそこやりつつ自由な暮らしをしていた。  結婚は人生の墓場……父親が嫁さんで苦労しているのを見て育ったため、結婚して子供を作り幸せな家庭を作るという『呪いの言葉』を嫌悪し、生涯独身、自分だけのために稼いだ金を使うと決め、独身生活を満喫。趣味の釣り、バイク、キャンプなどを楽しみつつ、人生を謳歌していた。  そんなある日。電気工事の仕事で感電死……まだまだやりたいことがあったのにと嘆くと、なんと異世界転生していた!!  これは、異世界で工務店の仕事をしながら、異世界で独身生活を満喫するおじさんの物語。

バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界―― 田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。 暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。 仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン> 「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。 最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。 しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。 ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと―― ――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。 しかもその姿は、 血まみれ。 右手には討伐したモンスターの首。 左手にはモンスターのドロップアイテム。 そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。 「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」 ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。 タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。 ――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

【完結】追放された生活錬金術師は好きなようにブランド運営します!

加藤伊織
ファンタジー
(全151話予定)世界からは魔法が消えていっており、錬金術師も賢者の石や金を作ることは不可能になっている。そんな中で、生活に必要な細々とした物を作る生活錬金術は「小さな錬金術」と呼ばれていた。 カモミールは師であるロクサーヌから勧められて「小さな錬金術」の道を歩み、ロクサーヌと共に化粧品のブランドを立ち上げて成功していた。しかし、ロクサーヌの突然の死により、その息子で兄弟子であるガストンから住み込んで働いていた家を追い出される。 落ち込みはしたが幼馴染みのヴァージルや友人のタマラに励まされ、独立して工房を持つことにしたカモミールだったが、師と共に運営してきたブランドは名義がガストンに引き継がれており、全て一から出直しという状況に。 そんな中、格安で見つけた恐ろしく古い工房を買い取ることができ、カモミールはその工房で新たなスタートを切ることにした。 器具付き・格安・ただし狭くてボロい……そんな訳あり物件だったが、更におまけが付いていた。据えられた錬金釜が1000年の時を経て精霊となり、人の姿を取ってカモミールの前に現れたのだ。 失われた栄光の過去を懐かしみ、賢者の石やホムンクルスの作成に挑ませようとする錬金釜の精霊・テオ。それに対して全く興味が無い日常指向のカモミール。 過保護な幼馴染みも隣に引っ越してきて、予想外に騒がしい日常が彼女を待っていた。 これは、ポーションも作れないし冒険もしない、ささやかな錬金術師の物語である。 彼女は化粧品や石けんを作り、「ささやかな小市民」でいたつもりなのだが、品質の良い化粧品を作る彼女を周囲が放っておく訳はなく――。 毎日15:10に1話ずつ更新です。 この作品は小説家になろう様・カクヨム様・ノベルアッププラス様にも掲載しています。

貴方の隣で私は異世界を謳歌する

紅子
ファンタジー
あれ?わたし、こんなに小さかった?ここどこ?わたしは誰? あああああ、どうやらわたしはトラックに跳ねられて異世界に来てしまったみたい。なんて、テンプレ。なんで森の中なのよ。せめて、街の近くに送ってよ!こんな幼女じゃ、すぐ死んじゃうよ。言わんこっちゃない。 わたし、どうなるの? 不定期更新 00:00に更新します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?

猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」 「え?なんて?」 私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。 彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。 私が聖女であることが、どれほど重要なことか。 聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。 ―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。 前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。

幼女に転生したらイケメン冒険者パーティーに保護&溺愛されています

ひなた
ファンタジー
死んだと思ったら 目の前に神様がいて、 剣と魔法のファンタジー異世界に転生することに! 魔法のチート能力をもらったものの、 いざ転生したら10歳の幼女だし、草原にぼっちだし、いきなり魔物でるし、 魔力はあって魔法適正もあるのに肝心の使い方はわからないし で転生早々大ピンチ! そんなピンチを救ってくれたのは イケメン冒険者3人組。 その3人に保護されつつパーティーメンバーとして冒険者登録することに! 日々の疲労の癒しとしてイケメン3人に可愛いがられる毎日が、始まりました。

処理中です...