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第二環「目覚めの紫雲英は手に取るな」
②-13 再生の紫雲英③
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少年は無邪気に微笑むと、思いっきり背伸びをした。頬や手首、足の痣はすでに消え去り、痕跡も見て取れない。
「残りの料理、食べれそうか?」
「うん。安心したら、またお腹がすいちゃった!」
「そうだろう。足りなかったら、またもらってくるからな」
「うん! グリットさんも食べようよ、半分にしよ」
「わかったよ」
ティトーはグリットの座っていた椅子へ回り込むと、ふわりと持ち上げた。そのままテーブルの横まで移動させ、音もなく着地させて見せた。
「もう一つ椅子、ないかな」
キョロキョロする少年だったが、部屋に椅子は見当たらない。
「俺の部屋のを持って来よう。先に食べてな」
「わかった!」
グリットは自室の椅子を持ち上げると、ティトーの座る横へ並べた。それを見たティトーは嬉しそうに笑うと、大きな口を開けてごちそうに齧り付いた。
「ゆっくり噛んで、飲み込んでからでいいんだが」
「もごごご……」
「悪かった。飲み込んだら話すよ」
「ごくん。なあに?」
「当たり前のように魔法を使ってたが、どのくらい習ってるんだ」
ティトーは呆然と男を眺めた後、指を折り始めたが片手を突破したところでやめてしまった。
「あ、そうか。数じゃなくて、か」
「そうだなあ。その方がいいな」
「初歩的な補助魔法と、支援魔法? あれどっちも同じだったかな。後は初歩的な解呪、解毒魔法と……。治癒魔法かな」
「魔法の専門家じゃないが、補助や回復の初歩的なのは一通り使えそうだな」
「うん。全部、風と地の属性だけだけど。解毒は魔法の毒だけだから、薬の毒なら利かない、でしたっけ?」
「そうだな。だから解呪も魔法のみだな」
「うんうん。初歩的なことはマスターしてると思う。攻撃のは、何も習ってないんですけど」
申し訳なさそうに話すものの、ティトーはすぐに蜂蜜の輝きに目を輝かせ、口へと頬張った。
「もうひー!」
「そうか、美味しいか。よかったな」
ティトーが飲み込み終えるのを待ってから、グリットは左ポケットから折りたたまれた地図を取り出した。少年は開いた皿を重ねるとその地図を広げるのを手伝った。
「手を拭きながら見てくれ。口も良く拭いてな」
グリットはハンカチを手渡すと、少年は口を拭き、手を一生懸命拭きながら地図を眺めた。
「今、ここだよね」
拭き終わって満足そうにすると、地図を指して見せた。
「そうだ。ここが噴水の町だ。ここから北上して、まずは隣の再会の町を目指す。それから、ここの時計の町へ向かう」
「僕も、一緒に行っていいんですか?」
恐る恐る見上げる少年だったが、再び聞こえた雄たけびと、大旦那の怒号が追い打ちをかけた。
「はあ。まああれは放っておいて、ティトーも一緒だからな」
「うん。でも僕、攻撃魔法わかんないよ。魔物とか、出るんだよね」
「道中は俺が何とかするが、今まではどうやってたんだ」
「今まで…………」
首を捻りながら、ティトーは地図を指さした。
「ここと、あとここに、結晶で出来た大きな石が置いてありました」
「ああ。そうか、シュタイン領からか」
「魔物避けなんだよね、名前は忘れちゃった」
「俺も詳しいことは忘れたが、そうだな。結界を張ってるんだ。それがあるから、シュタイン家は色々と面倒な目に遭ってたんだ」
「当主様、元気かな」
「知らせる術はないが、心配はしてるだろうな。それでも、きっと大丈夫だ」
「どうして?」
何か言葉を言いかけると、グリットは窓の方へ移動し、少年を手招きした。窓の向こうには、霊峰がそびえ立っていた。
「信じてるんだ、あの山を」
「御山を?」
「そうだ」
「そうなんだ」
二人はぼんやりと山を眺めながら、今後の日程について詳しく話し合った。
お互い、胸に銀の懐中時計を秘めて――――――。
「残りの料理、食べれそうか?」
「うん。安心したら、またお腹がすいちゃった!」
「そうだろう。足りなかったら、またもらってくるからな」
「うん! グリットさんも食べようよ、半分にしよ」
「わかったよ」
ティトーはグリットの座っていた椅子へ回り込むと、ふわりと持ち上げた。そのままテーブルの横まで移動させ、音もなく着地させて見せた。
「もう一つ椅子、ないかな」
キョロキョロする少年だったが、部屋に椅子は見当たらない。
「俺の部屋のを持って来よう。先に食べてな」
「わかった!」
グリットは自室の椅子を持ち上げると、ティトーの座る横へ並べた。それを見たティトーは嬉しそうに笑うと、大きな口を開けてごちそうに齧り付いた。
「ゆっくり噛んで、飲み込んでからでいいんだが」
「もごごご……」
「悪かった。飲み込んだら話すよ」
「ごくん。なあに?」
「当たり前のように魔法を使ってたが、どのくらい習ってるんだ」
ティトーは呆然と男を眺めた後、指を折り始めたが片手を突破したところでやめてしまった。
「あ、そうか。数じゃなくて、か」
「そうだなあ。その方がいいな」
「初歩的な補助魔法と、支援魔法? あれどっちも同じだったかな。後は初歩的な解呪、解毒魔法と……。治癒魔法かな」
「魔法の専門家じゃないが、補助や回復の初歩的なのは一通り使えそうだな」
「うん。全部、風と地の属性だけだけど。解毒は魔法の毒だけだから、薬の毒なら利かない、でしたっけ?」
「そうだな。だから解呪も魔法のみだな」
「うんうん。初歩的なことはマスターしてると思う。攻撃のは、何も習ってないんですけど」
申し訳なさそうに話すものの、ティトーはすぐに蜂蜜の輝きに目を輝かせ、口へと頬張った。
「もうひー!」
「そうか、美味しいか。よかったな」
ティトーが飲み込み終えるのを待ってから、グリットは左ポケットから折りたたまれた地図を取り出した。少年は開いた皿を重ねるとその地図を広げるのを手伝った。
「手を拭きながら見てくれ。口も良く拭いてな」
グリットはハンカチを手渡すと、少年は口を拭き、手を一生懸命拭きながら地図を眺めた。
「今、ここだよね」
拭き終わって満足そうにすると、地図を指して見せた。
「そうだ。ここが噴水の町だ。ここから北上して、まずは隣の再会の町を目指す。それから、ここの時計の町へ向かう」
「僕も、一緒に行っていいんですか?」
恐る恐る見上げる少年だったが、再び聞こえた雄たけびと、大旦那の怒号が追い打ちをかけた。
「はあ。まああれは放っておいて、ティトーも一緒だからな」
「うん。でも僕、攻撃魔法わかんないよ。魔物とか、出るんだよね」
「道中は俺が何とかするが、今まではどうやってたんだ」
「今まで…………」
首を捻りながら、ティトーは地図を指さした。
「ここと、あとここに、結晶で出来た大きな石が置いてありました」
「ああ。そうか、シュタイン領からか」
「魔物避けなんだよね、名前は忘れちゃった」
「俺も詳しいことは忘れたが、そうだな。結界を張ってるんだ。それがあるから、シュタイン家は色々と面倒な目に遭ってたんだ」
「当主様、元気かな」
「知らせる術はないが、心配はしてるだろうな。それでも、きっと大丈夫だ」
「どうして?」
何か言葉を言いかけると、グリットは窓の方へ移動し、少年を手招きした。窓の向こうには、霊峰がそびえ立っていた。
「信じてるんだ、あの山を」
「御山を?」
「そうだ」
「そうなんだ」
二人はぼんやりと山を眺めながら、今後の日程について詳しく話し合った。
お互い、胸に銀の懐中時計を秘めて――――――。
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