【完結】暁の草原

Lesewolf

文字の大きさ
上 下
11 / 228
第一環「春虹の便り」

①-8 風の知らせ④

しおりを挟む

「外が暗いの、これは一雨来るわよ。早めに夕食の食材を仕入れてきたいのだけど、戸締はお願いできる?」

 気付けば外は薄暗く、雲も空を覆いつくそうとしている。外では生ぬるい風が吹いているだろう。女将はグリットにウインクした。グリットは席を立ち、制止した。カップから手を雑に離したため、中身が少しこぼれた。

「待ってくれ。女将は様子見に行くっていうんだろ、必要ない、やめてくれ」
「でも、もしそうなら詳しい話を聞く必要があるじゃない」
「いや、グリット、俺たちだってそう思いたいんだ。それでも、万が一があるだろ。お前に何かあれば……」


 グリットは窓の向こうを見つめた。先ほどより風が出てきているようで、カウンター席から見える窓には、民家に干されたシーツを慌ててしまいこんでいる女たちが見て取れる。

「もし、そうだとしたのなら」

 グリットは一瞬の間を置いた。自身には必要な間だった。窓の外を遠目で見つめたが、無意識であった。


「すぐに反応して声をかけるのは、きっと俺だ。俺しかいない。将軍はそれをわかって送り出した」

 グリットはカップとり、残っていたココアを飲み干した。上手く混ざっていなかった砂糖が、底でじゃりじゃりしている。非常に甘みを感じ、自然に口元が緩んだ。


「腐っても将軍と親父さんは親友同士なんだろ」

 グリットは親父さんの事も、信頼しているのだ。


「そりゃあな。さすがに俺も二人の仲を裂くなど、到底無理だと知っているさ」
「どうやって連絡を取ったのかは知らないが、俺が親父さんと連絡を取ったのは最近だ。親父さんだって、まさか俺から連絡が来るとは思ってなかっただろ」
「お前、連絡を取っていたのか!」
「さすがに驚いていたさ。だからこそ、先に親友の将軍に連絡を取った可能性はある。将軍はに、銀時計を渡して俺を探し出すように送り出した。俺が接触すれば、当然。俺がお兄様と一緒に居ることを、あの二人は疑わなかったってわけだ」

 グリットは外を眺めた。風は先ほどより一層強くなってはいるが、恐らく風は何かを知らせたいのだ。
 それが何故なのか。知る者は、物理法則だけであろう。

 過去における選択と、封じたはずの後悔の念が押し寄せてくる。それでも、今は古き友からの知らせであると、信じてみるべきだと、本能で感じることにしたのだ。

「まあさすがに、弟が居たっていうのは信じられないから、どうしてそういうことにしようとしたのか、まったくわからん」
「いや、弟って、お前そいつが誰なのかは」
「適当に弟って、そういえって言われているんだろ。それに5,6歳なら、大戦前に生まれている。もしそうであるなら、どうやって隠し通せた? 俺も、あいつの親父さんも知らないはずだ、そんな素振はなかった。どうせ他人の空似だ」
「お前……」

 大旦那の言葉には、僅かながらの願いが込められている。グリットがその話を信じようとする気がないのは、女将も分かっている。例えそうだとしても、二人は願わずにはいられない。グリットにも、それはよくわかっている。


 グリットは無言で席を立ち、扉の鍵を開けて出ていった。女将はカップ見ると一瞬顔を曇らせたが、いつも通りカップを洗った。混ぜるの忘れてたわ、と呟きつつ。

 大旦那は扉に鍵をかけると、一服するためいつも通り厨房の裏へ出た。雨粒が見えたとき、大旦那は思い出して、一言呟いた。


「あ、たまごないんだった」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

【悲報】人気ゲーム配信者、身に覚えのない大炎上で引退。~新たに探索者となり、ダンジョン配信して最速で成り上がります~

椿紅颯
ファンタジー
目標である登録者3万人の夢を叶えた葭谷和昌こと活動名【カズマ】。 しかし次の日、身に覚えのない大炎上を経験してしまい、SNSと活動アカウントが大量の通報の後に削除されてしまう。 タイミング良くアルバイトもやめてしまい、完全に収入が途絶えてしまったことから探索者になることを決める。 数日間が経過し、とある都市伝説を友人から聞いて実践することに。 すると、聞いていた内容とは異なるものの、レアドロップ&レアスキルを手に入れてしまう! 手に入れたものを活かすため、一度は去った配信業界へと戻ることを決める。 そんな矢先、ダンジョンで狩りをしていると少女達の危機的状況を助け、しかも一部始終が配信されていてバズってしまう。 無名にまで落ちてしまったが、一躍時の人となり、その少女らとパーティを組むことになった。 和昌は次々と偉業を成し遂げ、底辺から最速で成り上がっていく。

最前線

TF
ファンタジー
人類の存亡を尊厳を守るために、各国から精鋭が集いし 最前線の街で繰り広げられる、ヒューマンドラマ この街が陥落した時、世界は混沌と混乱の時代に突入するのだが、 それを理解しているのは、現場に居る人達だけである。 使命に燃えた一癖も二癖もある、人物達の人生を描いた物語。

僕と精霊

一般人
ファンタジー
 ある戦争から100年、魔法と科学は別々の道を歩みながらも共に発展したこの世界。  ジャン・バーン(15歳)は魔法学校通う普通の高校生。    魔法学校でジャンは様々な人や精霊と巡り会い心を成長させる。  初めて書いた小説なので、誤字や日本語がおかしい文があると思いますので、遠慮なくご指摘ください。 ご質問や感想、ご自由にどうぞ

勇者パーティを追放された聖女ですが、やっと解放されてむしろ感謝します。なのにパーティの人たちが続々と私に助けを求めてくる件。

八木愛里
ファンタジー
聖女のロザリーは戦闘中でも回復魔法が使用できるが、勇者が見目麗しいソニアを新しい聖女として迎え入れた。ソニアからの入れ知恵で、勇者パーティから『役立たず』と侮辱されて、ついに追放されてしまう。 パーティの人間関係に疲れたロザリーは、ソロ冒険者になることを決意。 攻撃魔法の魔道具を求めて魔道具屋に行ったら、店主から才能を認められる。 ロザリーの実力を知らず愚かにも追放した勇者一行は、これまで攻略できたはずの中級のダンジョンでさえ失敗を繰り返し、仲間割れし破滅へ向かっていく。 一方ロザリーは上級の魔物討伐に成功したり、大魔法使いさまと協力して王女を襲ってきた魔獣を倒したり、国の英雄と呼ばれる存在になっていく。 これは真の実力者であるロザリーが、ソロ冒険者としての地位を確立していきながら、残念ながら追いかけてきた魔法使いや女剣士を「虫が良すぎるわ!」と追っ払い、入り浸っている魔道具屋の店主が実は憧れの大魔法使いさまだが、どうしても本人が気づかない話。 ※11話以降から勇者パーティの没落シーンがあります。 ※40話に鬱展開あり。苦手な方は読み飛ばし推奨します。 ※表紙はAIイラストを使用。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

処理中です...