【完結】暁の草原

Lesewolf

文字の大きさ
上 下
6 / 228
第一環「春虹の便り」

①-3 では、ひとつのやくそくを③

しおりを挟む
 女将は男よりもくねった癖毛であるが、刺繍の入ったリボンと髪を編んで、後頭部に団子をつくって束ねている。
 セシュールでは最近になって流行してきたスタイルだ。セシュールの民にとって、髪型に男女は関係ない。ほとんどの部族民が髪を長く伸ばし、部族のシンボルである守護獣を刺繍したリボンを用いるのだ。その為、ただ束ねるだけでなく、よりリボンが目立つ編み込みヘアが流行るのだという。

 女将はカウンター越しに、厨房で忙しくする大旦那へ男が来たことを伝えると、大旦那は肩をすくめながら男を横目で見た。

「おそよう」

 大旦那のその声に、周囲の客が呆れたように笑っている。男が町へきてから四日間はもれなく見られたものだ。旧知の夫妻と男は、結局のところは腐れ縁というもので繋がっていたのだ。
 女将は大旦那からパンとサラダを受け取ると、ココアを入れたカップにお湯を注いで運んできた。

「はいはい、いつものね。ただし、砂糖は二つで許して頂戴。なんでも砂糖の出荷量が減って、また入手しにくくなるらしくてね」
「砂糖が? いや、でもこれはヴァジュトール産だろう。島国は遠いし、そこまでの農作物被害があるとは聞いていない」
「それがねぇ、敬愛する隣島への献上品に、砂糖を選んだみたいなのよ」

 ヴァジュトールとは、ルゼリア大陸からみて南東にある南国の島国の事だ。そのヴァジュトール島からさらに北東、海を進んだ先に小さな小さな島国がある、それが景国だ。どういうわけか、ヴァジュトール国は隣島・景国を敬愛し、王家の次に尊いとしている。

「ああ、ヴァジュトール国は大戦に不参加と言っておきながら、王家に近い古参名家が出しゃばってたんだからな」
「それも、裏でかなり首を突っ込んでいたな。国家の威信をかけて取り潰したところで、事実が変わることはない」
「隣の景国は、当然面白くなかっただろう。景国はいつだって、大陸には無関心なんだ」

 癖毛の男は笑みを浮かべたが、多くの者はそれを誤解しただろう。

「じゃあ、ご機嫌取りに砂糖を献上するっていうの? それで出荷量が減ったって・・・・そんなのあんまりじゃないか」
「景国だって、いい顔はしないだろうな。いつだって閉鎖的な国だ。だからこそ、あまいあまい砂糖なんだろう」

 彼らの話を聞いていた大柄な男が、カウンター席からこちらを振り返った。
 頭上には可愛らしい獣耳と長い頬髭が見えることから推察するに、セシュールの東にあるフェルド共和国から出稼ぎにきた獣人族だ。男とは何度か食堂で顔を合わせている。

「ヴァジュトール島民は、本当に変わっているよね。なんであんな陰気な島が好きなのかねぇ~」
「普段は商売好きの島国で、金儲けの事しか考えちゃいないのに。それにもかかわらず、景国、景国……あの国のためなら、出し惜しみはしないんだろう」

 この言葉に、同じくカウンター席にいた青年が「呆れた話だ」と、呟いた。
 青年はセシュール国の山岳地帯に住む、二大部族の一つ、タウ族の者だ。髪色は若干薄い茶髪だが、長い髪を後ろで束ねている。そのリボンは、タウ族ご自慢の鮮やかな黄色い糸による見事な刺繍が施されているであろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夜明けのブルーメンヴィーゼ

Lesewolf
恋愛
 「暁の草原」の続編になります。 かつて守護竜の愛した大陸、ルゼリアがある。  暁の草原から数年。かつて少女だったティトーは成人し、大人になっていた。ある時、ヴァジュトール国へ渡ろうとしていた青年ロウェルと出会う。行先で待っていたのは・・? 不定期18時更新です。 ===== この物語はフィクションであり、実在の人物、国、団体等とは関係ありません。 ===== 他、Nolaノベル様、カクヨム様、なろう様にて投稿しておりますが、執筆はNola様で行っております。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

グリフォンとちいさなトモダチ

Lesewolf
児童書・童話
 とある世界(せかい)にある、童話(どうわ)のひとつです。  グリフォンという生き物(いきもの)と、ちいさな友達(ともだち)たちとのおはなしのようなものです。  グリフォンがトモダチと世界中(せかいじゅう)をめぐって冒険(ぼうけん)をするよ!  よみにくかったら、おしえてね。 ◯グリフォン……とおいとおい世界《せかい》からやってきたグリフォンという生《い》き物《もの》の影《かげ》。鷲《わし》のような頭《あたま》を持《も》ち、おおきなおおきな翼《つばさ》をもった獅子《しし》(ライオン)の胴体《どうたい》を持《も》っている。  鷲《わし》というおおきなおおきな鳥《とり》に化けることができる、その時《とき》の呼《よ》び名《な》はワッシー。 ◯アルブレヒト……300年《ねん》くらい生《い》きた子供《こども》の竜《りゅう》、子《こ》ドラゴンの影《かげ》。赤毛《あかげ》の青年《せいねん》に化《ば》けることができるが、中身《なかみ》はかわらず、子供《こども》のまま。  グリフォンはアルブレヒトのことを「りゅうさん」と呼《よ》ぶが、のちに「アル」と呼《よ》びだした。  影《かげ》はドラゴンの姿《すがた》をしている。 ☆レン……地球《ちきゅう》生《う》まれの|白銀《はくぎん》の少《すこ》しおおきな狐《きつね》。背中《せなか》に黒《くろ》い十字架《じゅうじか》を背負《せお》っている。いたずら好《ず》き。  白髪《はくはつ》の女性《じょせい》に化《ば》けられるが、湖鏡《みずうみかがみ》という特別《とくべつ》な力《ちから》がないと化《ば》けられないみたい。 =====  短編作品↓「グリフォンとおおかみさんのやくそく」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/317452050/395880002 ふりがながないから、お父さん、お母さんに読んでもらってね! =====  この物語はフィクションであり、実在の人物、国、団体等とは関係ありません。  げんじつには、ないとおもうよ! =====  アルファポリス様、Nolaノベル様、カクヨム様、なろう様にて投稿中です。 ※別作品の「暁の荒野」、「暁の草原」と連動しています。 どちらから読んでいただいても、どちらかだけ読んでいただいても、問題ないように書く予定でおります。読むかどうかはお任せですので、おいて行かれているキャラクターの気持ちを知りたい方はどちらかだけ読んでもらえたらいいかなと思います。 面倒な方は「暁の荒野」からどうぞ! ※「暁の草原」、「暁の荒野」共に残酷描写がございます。ご注意ください。 =====

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜

櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。 パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。 車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。 ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!! 相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム! けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!! パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!

素材採取家の異世界旅行記

木乃子増緒
ファンタジー
28歳会社員、ある日突然死にました。謎の青年にとある惑星へと転生させられ、溢れんばかりの能力を便利に使って地味に旅をするお話です。主人公最強だけど最強だと気づいていない。 可愛い女子がやたら出てくるお話ではありません。ハーレムしません。恋愛要素一切ありません。 個性的な仲間と共に素材採取をしながら旅を続ける青年の異世界暮らし。たまーに戦っています。 このお話はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。 裏話やネタバレはついったーにて。たまにぼやいております。 この度アルファポリスより書籍化致しました。 書籍化部分はレンタルしております。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...