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第二輪「例え鳴り響いた鐘があったとしても」
②-13 金色を持つ②
しおりを挟むアルベルトは、あれだけの落ち着きを放ち、冷静に考えられる思考を持ちながら、ティニアを前に気持ちが抑えられないのだ。そう、今のティニアと同じだ。居ても立っても居られず、男はティニアを求めたのだろう。ティニアも男に対して、並々ならぬ感情がある。
それは重い執着であり、激しい依存であり、
――――そして、淡く身勝手な期待だ。
ティニアの様子は普通では無い。止まってしまう症状とは違う。今の彼女は、1人の女性だ。
(まるで、引き裂かれ生き別れた恋人同士みたい。どうしよう、私、思い込みでなんてことを……。ティニアにとって、大切な存在の筈なのに………………)
「ティニア。その人は、赤茶毛色の、背の高い人、だよね?」
ティニアは何も言わない。
「瞳が青くて、それから……」
「…………あお、い……?」
ティニアはマリアではなく、ただ前を向き、目を見開き、口を開けたまま首をかしげる。彼女が何故呆然としてしまったのか、マリアには理解できなかった。
ティニアは顔を上げたものの、マリアの方を見ない。必死で記憶を思い出そうとしている様だった。まるで、愛おしい記憶を想い出すかのように。そしてその記憶が、苦痛を伴うかのように。
「何か、話したの?」
「うん。大通りを、外れたところで会って」
「………………」
「あのね、広場でアンナさんと会って。ザンクト・ガレンに引っ越したアンナさんよ、わかる?」
「うん。広場で、話をしてたの」
「…………本をね、渡そうと思ってたらしいの。でも、ティニアに渡せなかったみたいで、男に渡すように頼んだみたいなの。多分、家の場所も、アンナさんが。それで……」
「…………」
「これ、渡してくれって、頼まれたって。ヘッセだったの。これよ」
ティニアの目線は下を向いており、その目線に2冊の本の表紙を見せるように並べた。
「ティニア、ごめんなさい」
「え?」
「私ね、あの男が、ティニアに何かすると思ってたの。ミュラーさんだって、警戒してたじゃない。でも、私の思い込みだったの。知り合いに似てるから、声を掛けようと思って、聞いてたみたいなの」
「………………しり、あい……?」
ティニアは顔を上げたものの、酷くショックを受けたように青ざめている。
「凄く、似てるんだって。その人に。でも、全然違うように見えてた、みたいで。多分、違うだろうとは思ってるって言ってたの」
ティニアが発言のどこで安堵したのか、マリアにはわからなかった。表情に感情を露わにして、考え込むように黙り込むのは、らしくない。
「イタリアのね、シチリアで育ったって、言ってた」
「…………そんなことまで話したの? え、大丈夫なの?」
「うん、大丈夫よ。でも今はね、凄く嬉しいけど、今はね。ティニアは、自分のこと、心配して……?」
ティニアは澄んだ瞳をマリアに合わせると、ゆっくりと微笑んだ。
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