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第二輪「例え鳴り響いた鐘があったとしても」
②-7 緋色を赤と呼ぶべきか②
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「なんだい、こっちは取り込み中だよ」
アンナは不機嫌そうに男を睨みつけたが、その表情は一瞬でまばゆく恍惚にかえった。
「申し訳ありません。貴女のスーツは今話題のあのブランドのものですね。美しい貴女にとてもお似合いですよ」
「あらまあ。ありがとう。よく知ってるわね」
一見紳士のような振る舞いと褒め言葉に、アンナは照れた表情を浮かべた。言葉には発言のような軽さはなく、感情がこもっていたためアンナは逆に罪悪感を抱いてしまった。
「あの、大変申し訳ないのですが」
「? どうしたんだい?」
長身の男は、アンナの背後に手のひらを広げる。アンナが振り返ると、先程まで会話をしていた金髪碧眼の女性の姿が消えていた。
「あれ? ……ティニア?」
慌ててキョロキョロ見渡すアンナを尻目に、男は更に感情を込めて彼女の名を口にした。
「…………ティニア、と仰るのですか」
「あの子、何処へ…………」
「……申し訳ありません。美女たちの談笑を邪魔してしまい」
男は申し訳ないと言わんばかりに、丁寧なお辞儀をて見せた。
「やめとくれ、美女だなんて! あの子は判るが、さすがにあたしは……」
「いえ、貴女は大変美しいですよ。その麗しの瞳がそれを物語っています。大変お優しい心を御持ちとお見受けします。ところで、先程の女性なのですが……」
「あ、ああ、ティニアね。ティニアは綺麗だろう?」
「ええ、綺麗ですね」
男は頷きながら、胸に手を当てたが、直ぐにキョロキョロと目線を飛ばしながらティニアを探した。
「だろ? 浮いた話はとんと無いんだが、まああの子は見た目とは違う性格をしていてねえ」
「違う……性格、ですか」
男は目線を目の前のハデな美女へ向けると、すぐに不思議そうな表情を浮かべた。
「そうなんだよ。男に声を掛けられたって、適当に言いくるめて、お道化てやってね。要するに、更に心を奪っていっちまうんだ」
「なるほど。物静かで淑やかそうに見て近付いた卑しい下心のある男相手に、無邪気に返してやった上に愛らしく微笑んでしまうと」
「そこまでは言ってないけど。まあ、そうさね。そういうことさ」
少し考え込んだ男は、麗しの瞳を持ち合わせた美しいアンナに一つの質問を投げかけた。
「ティニア嬢がどちらに向かったのか、ご存じではありませんか?」
アンナは不機嫌そうに男を睨みつけたが、その表情は一瞬でまばゆく恍惚にかえった。
「申し訳ありません。貴女のスーツは今話題のあのブランドのものですね。美しい貴女にとてもお似合いですよ」
「あらまあ。ありがとう。よく知ってるわね」
一見紳士のような振る舞いと褒め言葉に、アンナは照れた表情を浮かべた。言葉には発言のような軽さはなく、感情がこもっていたためアンナは逆に罪悪感を抱いてしまった。
「あの、大変申し訳ないのですが」
「? どうしたんだい?」
長身の男は、アンナの背後に手のひらを広げる。アンナが振り返ると、先程まで会話をしていた金髪碧眼の女性の姿が消えていた。
「あれ? ……ティニア?」
慌ててキョロキョロ見渡すアンナを尻目に、男は更に感情を込めて彼女の名を口にした。
「…………ティニア、と仰るのですか」
「あの子、何処へ…………」
「……申し訳ありません。美女たちの談笑を邪魔してしまい」
男は申し訳ないと言わんばかりに、丁寧なお辞儀をて見せた。
「やめとくれ、美女だなんて! あの子は判るが、さすがにあたしは……」
「いえ、貴女は大変美しいですよ。その麗しの瞳がそれを物語っています。大変お優しい心を御持ちとお見受けします。ところで、先程の女性なのですが……」
「あ、ああ、ティニアね。ティニアは綺麗だろう?」
「ええ、綺麗ですね」
男は頷きながら、胸に手を当てたが、直ぐにキョロキョロと目線を飛ばしながらティニアを探した。
「だろ? 浮いた話はとんと無いんだが、まああの子は見た目とは違う性格をしていてねえ」
「違う……性格、ですか」
男は目線を目の前のハデな美女へ向けると、すぐに不思議そうな表情を浮かべた。
「そうなんだよ。男に声を掛けられたって、適当に言いくるめて、お道化てやってね。要するに、更に心を奪っていっちまうんだ」
「なるほど。物静かで淑やかそうに見て近付いた卑しい下心のある男相手に、無邪気に返してやった上に愛らしく微笑んでしまうと」
「そこまでは言ってないけど。まあ、そうさね。そういうことさ」
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