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第二輪「例え鳴り響いた鐘があったとしても」
②-3 白銀の太陽を求めて③
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もうすぐペラルゴを切り盛りしているミュラー夫人が、ドイツやオランダへ勉強のための渡航予定がある。
正直なところ、マリアはこの渡航には反対している。
何故なら、ドイツの情勢が良くないからだ。特にミュラー夫人は単身で渡ろうとしていたのだ。
さすがに止めようと思い、説得のためにティニアの元へ連れていった程だった。ところが、肝心のティニアは肯定的であり、財団で責任をもって対応するというのだ。既にミュラーの旦那の許可も得ているという。
「ミュラーさん。出張に行く側が心配ですって、顔に書いてあるわ」
「おはよう、マリア。当然でしょう、心配よ」
「心配なのは、ティニアでしょ?」
「何を言ってるの。あなたのことだって心配なのよ? もう、マリアったら……」
「ふふふ。ごめんなさい」
ミュラー夫人は体格が良く、旦那より3cm高いという。時に豪快であり、陽気な彼女はマリアが好きだと感じるまで、さほど時間がかからなかった。時に乙女になる夫人は、その相手の旦那と仲が良い。いつまでたっても新婚そのものだ。
「予備の鍵は念のために旦那へ渡しておくから」
「うん。本当に気を付けて行ってきてくださいよ」
「わかってますよ。あの人に怒られてしまうしね」
「本当に、気を付けてよ? 私も、怒るどころですまさないから」
「そうね。マリアが怒ったら怖そうだし、気を付けるわ」
本当なら行かせたくはない。夫人がドイツへ行くのは、フローリストの仕事のためだけではない。それはただの直感に過ぎないものの、恐らく的は得ている。ティニアが気にしているドイツの情報を探りに行くのであろうことは、明白であった。
「見送り、本当に行かなくていいの?」
「それは、なんというか……。旦那が、ちょっと、ね」
「あぁ……」
マリアは夫人と同じくげんなりしたように見せながら、大笑いした。
「ああ妻よ、行かないでおくれ。ずっと私の傍に……」
「もう、やめてマリア。本当にそうなんだから……」
マリアは以前見かけた劇のまねごとのように、手を上に掲げて見せた。ミュラー夫人の旦那であれば、恐らく本当にそうやってのけるのだろう。確かに恥ずかしすぎる。
「ティニアのことも、お願いね。でも、マリアも体には気を付けて」
「もちろんよ。任せて! これから迎えに行って、また一緒に肉を食らうわ」
「ふふ。そうね、また行ってらっしゃい」
夫人は名残惜しそうにぺラルゴを下から上へ見上げると、マリアへ微笑んでくれた。
「メアリーの花露店でも、色々学べると思うわよ」
花屋は夫人の不在中、マリアが一人で切り盛りする自信がなかったため、ひと月程の休業となる。その間、夫人の知人女性であるメアリーの花露店に厄介になるのだ。
メアリーは40代後半の女性であり、年齢の割に体が丈夫ではないのだという。
正直なところ、マリアはこの渡航には反対している。
何故なら、ドイツの情勢が良くないからだ。特にミュラー夫人は単身で渡ろうとしていたのだ。
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本当なら行かせたくはない。夫人がドイツへ行くのは、フローリストの仕事のためだけではない。それはただの直感に過ぎないものの、恐らく的は得ている。ティニアが気にしているドイツの情報を探りに行くのであろうことは、明白であった。
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「それは、なんというか……。旦那が、ちょっと、ね」
「あぁ……」
マリアは夫人と同じくげんなりしたように見せながら、大笑いした。
「ああ妻よ、行かないでおくれ。ずっと私の傍に……」
「もう、やめてマリア。本当にそうなんだから……」
マリアは以前見かけた劇のまねごとのように、手を上に掲げて見せた。ミュラー夫人の旦那であれば、恐らく本当にそうやってのけるのだろう。確かに恥ずかしすぎる。
「ティニアのことも、お願いね。でも、マリアも体には気を付けて」
「もちろんよ。任せて! これから迎えに行って、また一緒に肉を食らうわ」
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