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 友人たちと話していると、サラが私に近づいてきて小声で言った。

「エレナ様。オーレン様が部屋で渡したいものがあるから一人で来てくれと……」

「え?」

 なんだろう。
 もしかして結婚一周年のプレゼントだろうか。
 期待に胸が膨らむ。

「ごめんなさい、少し失礼するわね」

 友人たちに断りを入れ、私は会場を後にした。

 ……長い廊下にはいつもいるはずの警備の兵がいなかった。
 灯りも少しだけ暗い気がする。

「いやいや、きっと気のせいよね」

 最近読んだ幽霊が出てくる物語が、唐突に頭に思い出された。
 その話でも、貴族令嬢がこうして暗い道を歩いていた。
 まるで自分がその令嬢になってしまったかのような錯覚を覚えて、私は身震いをする。

 カタ。

「え……」

 背後から物音がした。
 私は恐る恐る背後を振り返る。
 しかし、そこにはネズミ一匹もいやしない。

「そ、そうよね……きのせいよね……」

 私が再び前を向いて歩き出したその時だった。
 タッタッという足音がして、それに気づいた瞬間には、胸に強烈な痛みが走った。

「え……」

 胸に目を落とすと、そこからナイフのようなものの刃先が飛び出していた。
 途端に体が鉛のように重くなり、その場に私は崩れ落ちた。

「なに、これ……」

 強烈な痛みが体全体に広がっていき、意識が消えていく。
 それに追従するように走り去る足音が、だんだんと遠くなる。

 あぁ、私は殺されたのか。
 そう思った時には、音と視界は消えていた。


「エレナ様。起きてください。今日は結婚式ですよ」

 ……結婚式? 誰の?
 私はもう死んだはずじゃ。

 目を開けると、馴染みのある天井が目に映る。
 どうやらここは、実家の私の部屋みたいだ。

「やっと起きましたね。ほら、支度致しますよ」

 侍女が呆れたように私を見下ろしていた。
 私は上半身をベッドから起こすと、彼女に問いかける。

「結婚式って……誰の?」

 彼女はため息をはくと、腰に手を当て口を開いた。

「もう、しっかりしてくださいよ! エレナ様とオーレン様に決まっているじゃないですか! ほら、早くしないと間に合いませんよ!」

 私は困惑しながらも、ベッドから降りる。
 ふと窓から外の景色を見ると、綺麗な青空が広がっていた。

「夢かしら……?」

 ……オーレンとの結婚式は、記憶通りに行われた。
 終始困惑していた私だったが、それを表に出すことを出来るはずもなく、ただ心の中で必死にこの状況のことを考えていた。
 皆はそんな私の心中に気づくはずもなく、朗らかな笑みを見せつけてくる。
 
 式が終わり家に帰ると、私は一目散に自室に駆け込んだ。
 部屋の中を歩きながら、今の状況を整理する。

「私……死んだはず……でも、今日はオーレンとの結婚式で……もしかして、これって……」

 そんなことあるはずがないと思っていた。
 本の世界ではたまにそういう話もあったが、現実になんてあるわけがないと思っていた。

「私……タイムリープしたの?」
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