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 目を覚ますと、地下牢に入れられていた。
 服も変わっていて、自分が一瞬誰であったのか忘れてしまうようだった。
 僕は毛布のない汚いベッドから起き上がると鉄格子を掴んだ。

「なんで僕は……」

「やっと起きましたか」

 近くで忌々しい声がした。
 声のした方向を見ると、ロードが壁にもたれかかってこちらを見ていた。
 エルの浮気相手だ。

「お前……この僕にこんなことをしてタダで済むと思っているのか!?」

 声に凄みを効かせたが、全く響いていないようで、ロードは眠たそうに欠伸をする。

「あなたって、それしか言えないんですか?」
 
 そして皮肉っぽくそう言うと、凝りをほぐすように頭を左右に振った。 
 コキコキと気持ちの良い音が鳴り、ロードは言葉を続ける。

「とりあえず一か月くらいあなたをそこに幽閉します。心の底から反省をするのなら、そこから出してあげますよ。もちろん一か月後に」

「ふん、そんなこと僕がするわけがないだろう。悪いのは全部エルだ、僕じゃない」

「はぁ……一体彼女のどこに非があるというのですか? エルはあなたが思っているような女性じゃありません。完璧で優しい女です」

「はっ! じゃあお前はあいつに騙されているんだな。あいつの本性は悪さ」

 ロードは話すのも面倒になったのか、大きなため息をつくと、階段に歩いていった。
 彼が完全に闇に消えると、僕はその場に腰を下ろした。
 
「くそ……」

 一体どうしてこうなってしまったのだろう。
 既にエルと離婚をしていたこともそうだし、あいつの恋人がロードだというのも誤算だ。
 僕はただフローラを救いたいだけなのに、どうしてこんなに上手くいかないんだ。

 フローラには今回の計画を伝えてあるから、今頃自分の家で僕が来るのを待っているに違いない。
 せめて彼女に手紙でも送れれば、今の状況を伝えることができるのに。

 考えていると、階段を下りてくる足音がした。
 どうやら巡回の兵士が来たらしい。
 ここに拘束される日数が伸びても嫌なので、僕は鉄格子から離れると、堅いベッドに座った。
 そして俯き反省している様子を醸し出していると、兵士が僕の牢屋の前でピタリと止まる。

「ハモンドさんですね。俺はフローラの仲間です」

「……え?」

 思いがけない言葉に兵士の方を見ると、彼はニヤッと笑う。

「あなたが二日も帰ってこないからこっそり忍び込みました。何かフローラに伝えるべきことはありますか?」

「あ、ああ……エルとは既に離婚したが……」

 コツン、コツン。

 慌てて事情を説明しようとするが、階段の方から再び足音がした。
 フローラの仲間だという兵士は口に指を当てると、小さく頷き、その場を去っていく。
 彼を目で追っていくと、階段の所で背の高い兵士と入れ違う。
 そして階段を上っていってしまった。

 背の高い兵士は僕を見て、訝し気な表情をした。

「まさか脱走でも考えているのですか?」

「あ、いや……違う! そんなわけないだろ! も、もう寝るよ!」

 僕は慌ててベッドに横になる。
 そして背の高い兵士に見えないようにため息をはいた。

 フローラの仲間には全てを伝えることはできなかった。
 しかし離婚したことは事実であるので、それだけ伝えられただけでも良しとするか。
 彼女の弟のことはいずれ何とかしよう。

 僕は無理やりに未来に願いを込めると、ぎゅっと目を瞑った。
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