夫の愛は偽りです。

杉本凪咲

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「私にはあなただけよ? ね? 信じて?」

 あんなに好きだったウェンディの笑顔も、今は微塵も魅力を感じない。
 
「信じられるわけがないだろう」

 エリザベスに髪飾りを渡した後、僕たちは自室で話をしていた。
 彼女は終始、焦っているようで、青白い顔で僕を見上げている。

「お前のせいで全部台無しだ」

 冷たい声を出す僕に、ウェンディの顔が強張る。

「そんなことないわ! 元はと言えばあなたが悪いんじゃない!」

「なんだと!?」

 足を踏み鳴らし、一歩ウェンディへと近づく。
 彼女は怯えたように後退すると、急にニヤリと笑みを浮かべた。

「ふん、ま、まあいいわ。あなたとの関係が無くなったって、私は別に困らないもの」

「そ、それはこっちのセリフだ! お前みたいな尻軽女、こっちから願い下げだ! 即刻この家を出ていけ!」

「も、もちろんよ! こんな家出て行ってやる!」

 ウェンディは怒りそのままに部屋を飛び出すと、一目散に駆けていった。
 その荒々しい後ろ姿を見つめ、僕は大きなため息をはく。

「くそっ……どうしてこうなるんだ」

 髪飾りを返したはいいものの、浮気に関しての慰謝料をエリザベスに払わなくてはいけない。
 とても少なくはない額に、将来への不安が脳裏をよぎる。

「金がいる……」

 ふと机に目を向けると、机上に紙が置かれていた。
 そういえば朝に使用人から渡された。
 金山の買い手を募集しているとか何とか……ん?金山?

「そうだ!」

 僕は高揚した声でそう言うと、紙をバッと掴む。

「金がないなら作ればいい……ふふっ……見てろよ、エリザベス……すぐに大金持ちになってやる」

 金山を購入するため、僕は部屋を飛び出した。

 ……しかしそれから三か月後。
 金山からは一向に金になるような鉱石は出ず、費用だけが募っていった。
 慰謝料の期限も近づいてきて、僕の精神状態は限界に達していた。

「どうしてこうなるんだ……」

 理想の生活は全て塵と化した。
 僕はその場に崩れ落ちると、ただただ絶望する。

 一体どこから間違っていたのか。
 エリザベスと結婚したあの時からだろうか。

「ふっ、今更遅いか……」

 どうしてこんなに馬鹿なことをしてしまったのか。
 愚かな自分がたまらなく嫌に思えた。
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