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ダルクとの離婚はあっさりと成立した。
彼に離婚を宣言された一週間後、私の両親が彼の両親の家に向かい、そこで正式に離婚が決定されたのだ。
当初の契約通り、ダルクの家への金銭的な援助は打ち切り、金山も手に入れることができた。
ダルクとナターシャに請求した慰謝料は、とりあえず半分だけ返ってきた。
残りの半分は、二人が一生懸命に働き返すらしい。
金に細かく用心深い父がそれに納得したみたいなので、私が異議を唱えることはなかった。
「エルザ。そろそろお前も新しい婚約者でも作ったらどうだ?」
離婚して半年が経ち、ダルクとナターシャからの慰謝料もぼちぼち返ってきたころ、父は私に言った。
「しかし……まだそういう気分にはなれなくて」
本心だった。
ダルクとは政略結婚であったとはいえ、まさか離婚になるとは予想していなかった。
彼に離婚を切り出されるまでは、この人と一生を共にするのだと本気で思っていた。
だからこそ、彼との離婚は、私に結婚への不安を植え付けた。
またダルクみたいな人に出会ってしまったら、そう思ったら一歩を踏み出せずにいたのだ。
父は私の表情からそれを悟ったらしく、無理強いはしなかった。
「分かった。お前が落ち着くまで待つことにしよう。ただし時間は有限だ。お前がいくら落ち込もうと時は進んでいく。チャンスを逃さないようにするんだぞ」
「はい……」
チャンス……ね。
私にそんなものが本当に訪れるのだろうか。
つい後ろ向きに考えてしまうので、何かを変えようと出かけることにした。
……馬車が家を出発すると、私は窓から街の景色を見やった。
見慣れた街並みがどんどん横に流れていく。
時の流れもこんな風にあっという間に過ぎていくのだろうか。
「考え過ぎね」
自分に言い聞かせるように私は呟く。
私が何を思うにしろ、結婚という未来へ進むためには、どこかで一歩踏み出さなくてはいけないことは分かっていた。
きっと踏み出せば、私が不安に思っているようなことは何もなく、明るい未来が待っている。
「そんなことは分かっているんだけどね……」
と、窓の景色を見ていたら、一人の男性が目に飛び込んできた。
装いからしてどこかの貴族みたいだが、子供と一緒に地面に膝をつけ、何かを探しているようだった。
「と、止めて!!!」
なぜかその言葉が咄嗟に出た。
言ってから、なんで自分は馬車を止めたのかと不思議になる。
馬車が止まり、私は馬車から降りた。
後方の先ほどの男性はまだ地面に膝をついていた。
近くの女の子は彼とは対照的に、ボロボロの服を着ていて、涙すら流していた。
きっとその子のために探し物をしているのだろうが、貴族なのにこんなことをするなんて珍しい人だと思った。
「あ、あの……!」
父の言葉が蘇る。
『お前がいくら落ち込もうと時は進んでいく。チャンスを逃さないようにするんだぞ』
これがそのチャンスなのかは分からないが、私は放っておくことができなかった。
二人に声をかけると、膝をついた男性が顔だけあげる。
端正な顔立ちに、水晶のような綺麗な瞳を持っていた。
「あの、落とし物ですか? わ、私も一緒に探します!」
彼の顔を見ていると、なぜだか心臓がドキドキした。
彼はふっと優しい笑みを浮かべると、立ち上がり言った。
「ありがとう。是非お願いします」
彼に離婚を宣言された一週間後、私の両親が彼の両親の家に向かい、そこで正式に離婚が決定されたのだ。
当初の契約通り、ダルクの家への金銭的な援助は打ち切り、金山も手に入れることができた。
ダルクとナターシャに請求した慰謝料は、とりあえず半分だけ返ってきた。
残りの半分は、二人が一生懸命に働き返すらしい。
金に細かく用心深い父がそれに納得したみたいなので、私が異議を唱えることはなかった。
「エルザ。そろそろお前も新しい婚約者でも作ったらどうだ?」
離婚して半年が経ち、ダルクとナターシャからの慰謝料もぼちぼち返ってきたころ、父は私に言った。
「しかし……まだそういう気分にはなれなくて」
本心だった。
ダルクとは政略結婚であったとはいえ、まさか離婚になるとは予想していなかった。
彼に離婚を切り出されるまでは、この人と一生を共にするのだと本気で思っていた。
だからこそ、彼との離婚は、私に結婚への不安を植え付けた。
またダルクみたいな人に出会ってしまったら、そう思ったら一歩を踏み出せずにいたのだ。
父は私の表情からそれを悟ったらしく、無理強いはしなかった。
「分かった。お前が落ち着くまで待つことにしよう。ただし時間は有限だ。お前がいくら落ち込もうと時は進んでいく。チャンスを逃さないようにするんだぞ」
「はい……」
チャンス……ね。
私にそんなものが本当に訪れるのだろうか。
つい後ろ向きに考えてしまうので、何かを変えようと出かけることにした。
……馬車が家を出発すると、私は窓から街の景色を見やった。
見慣れた街並みがどんどん横に流れていく。
時の流れもこんな風にあっという間に過ぎていくのだろうか。
「考え過ぎね」
自分に言い聞かせるように私は呟く。
私が何を思うにしろ、結婚という未来へ進むためには、どこかで一歩踏み出さなくてはいけないことは分かっていた。
きっと踏み出せば、私が不安に思っているようなことは何もなく、明るい未来が待っている。
「そんなことは分かっているんだけどね……」
と、窓の景色を見ていたら、一人の男性が目に飛び込んできた。
装いからしてどこかの貴族みたいだが、子供と一緒に地面に膝をつけ、何かを探しているようだった。
「と、止めて!!!」
なぜかその言葉が咄嗟に出た。
言ってから、なんで自分は馬車を止めたのかと不思議になる。
馬車が止まり、私は馬車から降りた。
後方の先ほどの男性はまだ地面に膝をついていた。
近くの女の子は彼とは対照的に、ボロボロの服を着ていて、涙すら流していた。
きっとその子のために探し物をしているのだろうが、貴族なのにこんなことをするなんて珍しい人だと思った。
「あ、あの……!」
父の言葉が蘇る。
『お前がいくら落ち込もうと時は進んでいく。チャンスを逃さないようにするんだぞ』
これがそのチャンスなのかは分からないが、私は放っておくことができなかった。
二人に声をかけると、膝をついた男性が顔だけあげる。
端正な顔立ちに、水晶のような綺麗な瞳を持っていた。
「あの、落とし物ですか? わ、私も一緒に探します!」
彼の顔を見ていると、なぜだか心臓がドキドキした。
彼はふっと優しい笑みを浮かべると、立ち上がり言った。
「ありがとう。是非お願いします」
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