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「エリーゼ……」

 ミリアは氷のように冷たい瞳を私に向けた。
 
「なんで、あんたがここにいるのよ……ダリオンは……」

「ダリオン兄様は快く私を送り出してくれたわ。あなたとの作戦を全て白状してね」

「エリーゼ! どういうことなんだい!?」

 レイブンはソファから立ち上がると、小走りに私の元へ駆け寄ってくる。
 私はミリアを睨みつけたまま、言葉を続けた。

「ダリオン……私の兄とミリアは結託して、私たちを婚約破棄させようとしていたの。兄がミリアに大金を渡して、ミリアがレイブンを不当に脅してね」

 ミリアの悔しそうな舌打ちが部屋に響く。

「本当にあの馬鹿は全部ばらしたのね……それで? 私を脅しにきたのかしら?」

「……私にそんな趣味はない。それよりも、なんであなたが兄に協力しようと思ったかの方が気になるわ。お金なんてたくさん持っているでしょう?」

 するとミリアは急に不意を突かれたような顔になり、静かに言った。

「……レイブンの絵の才能に一番初めに気づいたのは私なのよ。彼がその才能を埋もれさせないように私が影で彼の面倒を見てきたのよ。それなのに、レイブンはそんな馬鹿な女と婚約して……」

「つまり、あなたはレイブンのことが好きだったのね?」

「違う! そんな陳腐な言葉で片付けないで!」

 ミリアは立ち上がると、苦しそうに言葉を続けた。

「好きよりも、もっと崇高で誇り高い言葉よ……私はレイブンを愛していた。でも、彼はそんなことにちっとも気づかない。私なんか見てくれない……私が一番なのに……」

 彼女はついに泣き出してしまった。
 
「ミリア……ごめん……」

 レイブンは小さな声でそう言うと、俯いた。 
 私は同情の眼差しを向けながら、最後の言葉を放つ。

「あなたと兄を訴えることはしないわ。二人には自分で罪を告白して欲しいと思っているから。兄は両親に全てを話して、警察に行くそうよ。ミリア、あなたを信じているから」

 目をこすりながら、ミリアが頷いた気がした。
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