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ヴァルハラは天に昇る太陽のように、真っ赤な顔をしていた。
「ヴァルハラ様。私は不倫などしておりません。この庭師とは話をしていただけです」
正直にそう言うも、彼は一切信じようとはせず、私を睨みつけた。
「嘘をつけ! ここ最近、お前がこの男と親し気にしていることは知っている。どうせ僕に隠れて不倫をしているんだろ!」
「そんなことはしていません!」
私の声に、庭師も続く。
「旦那様。命にかけて、奥様には指一本触れてはおりません。僕達はここで話をしていただけなのです。それ以外に何もしておりません」
私たち二人の主張を聞いても、ヴァルハラは納得のいっていない顔つきだった。
「ニル……正直に白状したならばこの男には何もしないでやろう。しかしこれ以上しらばっくれるつもりなら、即刻解雇してやる」
「はい?」
ヴァルハラの言い分はあまりにも横暴だった。
私たちを不倫していると言い張り、挙句の果てには不倫を認めなければ彼から仕事を奪う。
とても子供には見せられないような、汚い大人のお手本のような姿に、私は呆れた。
「あの、ヴァルハラ様。いくら何でもそれはおかしいですよ。だってあなたはその目で私が不倫をしている所を見たわけでもないのですよね? それなのに、一方的に不倫だと言い張り、それを認めろと脅す始末。何が狙いなのかは知りませんが、正直言って見苦しいです」
全てを言い終わってから、少し言いすぎたかなと反省する。
ヴァルハラは案の定顔色を悪くすると、取り繕うように大声を出した。
「黙れ! 僕が不倫だと言っているんだ! それ以外の真実などない! 潔く罪を認めろ!」
あぁ、どこまでこの人は愚かなのだろうか。
こんなだったら、私に鉄仮面のあだ名をつけた人の方が数倍マシだ。
私はわざとらしく大きなため息をはくと、堂々と言い放つ。
「ヴァルハラ様。ではこちらの庭師は解雇致しましょう。しかしその後、私の実家で雇います。もちろんあなたと離婚した後で」
「な、何を言うんだ……」
「ご自分で言ったじゃありませんか。庭師は解雇だって。それに離婚の件も、もう待つことはできません。あなたのお父上に全てを話しに行って参ります。今から」
「今から!?」
私は足を踏み出した。
そのままヴァルハラの横を通り、馬車へと向かおうとするが、彼にガシっと腕をつかまれる。
「や、やめろ……そんなことは許さない……」
「離してください。本来ならもっと早くにこうするべきでした。しかしあなたの懇願をせめてもの情けで承諾したのです。その恩を仇で返す気ですか?」
ヴァルハラは焦っているようだった。
「うるさい……も、もし不倫の件がバレたら……僕は終わりだ……頼む……まだ父には言わないでくれ」
「嫌です。もう十分待ちました」
私は残酷にそう言うと、ヴァルハラの手を振り払う。
彼は再び私を腕をつかもうとするが、逆に庭師に腕をつかまれた。
「旦那様……いえ、ヴァルハラ様。ニル様が不倫したことにして、ご自分の罪を消し去りたいようですが、もう遅いですよ。ニル様に言われるまでも、この家の人間は旦那様の不倫に気づいていますから」
「……え?」
そうだったのか。
奇しくも、ヴァルハラと同じように私も驚く。
「ヴァルハラ様のことは直に貴族中に広まるでしょう。もう諦めてください」
「そんな……」
庭師がヴァルハラの腕を離すと、彼はその場に崩れ落ちた。
「ニル様。ここは僕に任せて、行ってください」
「……ありがとう」
私が頷くと、彼は驚いた顔をした。
そして嬉しそうに言う。
「ニル様の笑顔、初めて見ました」
「ヴァルハラ様。私は不倫などしておりません。この庭師とは話をしていただけです」
正直にそう言うも、彼は一切信じようとはせず、私を睨みつけた。
「嘘をつけ! ここ最近、お前がこの男と親し気にしていることは知っている。どうせ僕に隠れて不倫をしているんだろ!」
「そんなことはしていません!」
私の声に、庭師も続く。
「旦那様。命にかけて、奥様には指一本触れてはおりません。僕達はここで話をしていただけなのです。それ以外に何もしておりません」
私たち二人の主張を聞いても、ヴァルハラは納得のいっていない顔つきだった。
「ニル……正直に白状したならばこの男には何もしないでやろう。しかしこれ以上しらばっくれるつもりなら、即刻解雇してやる」
「はい?」
ヴァルハラの言い分はあまりにも横暴だった。
私たちを不倫していると言い張り、挙句の果てには不倫を認めなければ彼から仕事を奪う。
とても子供には見せられないような、汚い大人のお手本のような姿に、私は呆れた。
「あの、ヴァルハラ様。いくら何でもそれはおかしいですよ。だってあなたはその目で私が不倫をしている所を見たわけでもないのですよね? それなのに、一方的に不倫だと言い張り、それを認めろと脅す始末。何が狙いなのかは知りませんが、正直言って見苦しいです」
全てを言い終わってから、少し言いすぎたかなと反省する。
ヴァルハラは案の定顔色を悪くすると、取り繕うように大声を出した。
「黙れ! 僕が不倫だと言っているんだ! それ以外の真実などない! 潔く罪を認めろ!」
あぁ、どこまでこの人は愚かなのだろうか。
こんなだったら、私に鉄仮面のあだ名をつけた人の方が数倍マシだ。
私はわざとらしく大きなため息をはくと、堂々と言い放つ。
「ヴァルハラ様。ではこちらの庭師は解雇致しましょう。しかしその後、私の実家で雇います。もちろんあなたと離婚した後で」
「な、何を言うんだ……」
「ご自分で言ったじゃありませんか。庭師は解雇だって。それに離婚の件も、もう待つことはできません。あなたのお父上に全てを話しに行って参ります。今から」
「今から!?」
私は足を踏み出した。
そのままヴァルハラの横を通り、馬車へと向かおうとするが、彼にガシっと腕をつかまれる。
「や、やめろ……そんなことは許さない……」
「離してください。本来ならもっと早くにこうするべきでした。しかしあなたの懇願をせめてもの情けで承諾したのです。その恩を仇で返す気ですか?」
ヴァルハラは焦っているようだった。
「うるさい……も、もし不倫の件がバレたら……僕は終わりだ……頼む……まだ父には言わないでくれ」
「嫌です。もう十分待ちました」
私は残酷にそう言うと、ヴァルハラの手を振り払う。
彼は再び私を腕をつかもうとするが、逆に庭師に腕をつかまれた。
「旦那様……いえ、ヴァルハラ様。ニル様が不倫したことにして、ご自分の罪を消し去りたいようですが、もう遅いですよ。ニル様に言われるまでも、この家の人間は旦那様の不倫に気づいていますから」
「……え?」
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「そんな……」
庭師がヴァルハラの腕を離すと、彼はその場に崩れ落ちた。
「ニル様。ここは僕に任せて、行ってください」
「……ありがとう」
私が頷くと、彼は驚いた顔をした。
そして嬉しそうに言う。
「ニル様の笑顔、初めて見ました」
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