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「リチャード。お前は私の顔に泥を塗ってくれたな」

アナと婚約破棄をした後、俺は父親にこっぴどく説教をされていた。
自分の浮気を棚に上げ、アナに虚偽の罪をかけたのだ。
当然といえば当然の報いである。

「父さん。で、でも仕方なかったんだ……ギャンブルで借金もしていたし、全てを丸く収めるためにはこうするしか……」

必死に言い訳をする俺に父の鋭い視線が飛んできた。
蛇に睨まれた蛙のように、俺はぶるっと体を震わす。

「何が丸く収めるだ! 余計に悪化させておるじゃないか! そもそもお前が身勝手な理由で借金など作るからこうなったのだろ! 潔く罪を認め、謝罪することすらできんのか! このバカ息子め!」

「ひっ……」

こんなに怒った父を見るのは久しぶりだった。
子供の時、友人と遊んでいて隣の家の窓ガラスを割ってしまった時くらい恐ろしい。
いや、もっとかもしれない。

「リチャードよ。私がいつも言っていることを覚えているか?」

「ま、まぁ……」

当たり前だ。
耳にタコができるほど何回も聞かされたのだから。
父の目が「言え」と告げていて、俺はゴクリと唾を呑み込むと口を開く。

「明日死ぬとしたら、今日をどう生きる……ですよね?」

へらっと無理矢理に笑みを作るも、父は機嫌が直らないようで、眉を寄せたまま返事をした。

「そうだ……お前は最期の時くらい人に感謝して死のうとは思わんのか? ゴミクソ野郎のまま死んでいって本当にいいのか?」

「しかし俺は明日死ぬわけじゃ……」

「そういうことを言っておるのではない! たわけが!!!」

父が机をバンと叩いた。
あまりの衝撃音に、部屋が揺れたような気さえしてくる。
頭から血の気が引くのが分かり、今すぐここから逃げ出したい衝動にかられた。

「……リチャード。これから半年間お前には奉仕作業を命じる。街のゴミ拾いや土木作業に従事するのだ。分かったな?」

死ぬほど嫌だった。
そんな社会のゴミしかやれないような仕事を、なぜ貴族の俺がやらなければいけないのか。
しかし、ここで断れるほどの勇気を俺は持ち合わせていない。

「……分かりました」

俺は諦めて肩を落とした。
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