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 エミリアは真面目で融通が利かない女だった。
 婚約した子供の時から妙に落ちついていて、それが鼻について、僕はすぐに彼女のことが嫌いになった。

 しかし公爵家の長男である僕が、自分の結婚相手を自由に選ぶことなんて出来るはずもなかった。
 両親が決めた婚約者であるエミリアと結婚する以外の道はあり得ないのだ。

 そんなエミリアと結婚式を終えて夫婦になった。
 しかし僕はまだ彼女のことが好きになれないでいた。
 言葉では愛を囁くものの、心の中ではそれが嘘偽りであることが分かっていた。
 罪悪感はなかったものの、エミリアと過ごす時間が僕には苦痛だった。

 そんな時、僕は男爵令嬢ローラと出会った。
 パーティー会場で会った彼女はどこか儚げで、声をかけずにはいられなかった。
 話をしてすぐに意気投合した。
 女性を話すのがこんなに楽しいとは夢にも思わなかった。

 しかしよくよく話を聞いてみると、彼女は第三王子の婚約者らしかった。
 第三王子といえば、王子の中でも厳しいと評判で、曲がったことが大嫌いな性格をしているらしい。
 そんな彼の婚約者と話してしまい、僕は自分が処罰されてしまわないか不安になった。
 しかしそんな不安を和らげるように、ローラは僕に言う。

「ダリア様。あなただけが私の希望の光なの。王子なんて捨てて、あなたと人生を共にしたい」

 彼女の言葉に僕は胸を打たれた。
 こんなにも自分を愛してくれている人がいるのかと感動した。
 気づいたらローラを抱きしめていた。
 エミリアの夫である僕も、第三王子の婚約者であるローラもそこにはいなかった。

 僕達はそれから逢瀬を重ねるようになった。
 時間はいつも短かったが、愛が深いからか、濃密な時間を過ごすことができた。
 
 しかしそれを半年ほど繰り返した後、僕たちの逢瀬は突然に終わりを告げた。
 妻であるエミリアとその幼馴染にバレてしまい、その後第三王子にもバレた。
 僕は兵士に捕らえられ、地下牢に入れられた。

 現在、僕はまだ地下牢にいた。

「ダリア。久しぶりだな」

 鉄格子を挟んだ向こうには、護衛の兵士を連れた第三王子がいた。
 彼は厳しい目で僕を睨みつけ、拳を堅く握っている。

「俺の婚約者を襲ったお前を、できることならこの手で殺してやりたい……だが、それをしては俺も悪人の仲間入りだ。寿命が延びてよかったな」

「ち、違います……僕たちは愛しあっていた……僕とローラは愛し合っていたんだ!!!」

 叫び鉄格子を掴むも、それが外れるわけはない。
 ガタガタと音を立てるだけで、第三王子には指一本触れることもできなかった。

「ふん……この期に及んでまだそのようなことを言うか。恥を知れ、この外道が」

 やはり僕の言葉は信じてもらえなかった。
 あんなに僕を愛してくれたローラも、身の危険を感じ、王子側に手の平を返した。
 おかげで僕は第三王子の婚約者を襲った犯罪者だ。
 諦めてその場に膝をついた僕に、王子は冷たい声で言う。

「お前の処罰は来週には決まるだろう。それまで人生でも振り返って贖罪の言葉でも練習しているんだな」

 王子はそう言うと、護衛の兵士と共に僕の元から去っていく。
 姿が見えなくなると、僕は思い切り床を拳で叩きつけた。

「くそぉぉ!」

 その一週間後。
 僕の打ち首が決まった。
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