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 マリーの言葉に私は倒れそうになる思いを抑えて、何とかその場にとどまった。
 彼女の目は真剣そのもので嘘を言っているようには思えない。 
 ならば本当にお腹の子はアレンの子ではないということになるが……。

「サラさん。私を信じて! この子はアレンの子じゃないの?」

「ちょっと待ってマリー……どういうこと? じゃあその子は誰の子なのよ」

「そ、それは……」

 マリーは再び顔を青くすると、そのまま俯いてしまう。
 歯切れの悪い態度にイライラを感じながらも、私は彼女が話し始めるのを待った。
 ふと耳を澄ますと、同級生の騒がしい声が耳に飛び込んでくる。
 こんな所に呼び出されていなければ、私は今頃その輪の中にいたのだろうか。

「私の浮気相手の子です……」

 あまりにも小さな声でマリーが言ったので、私は危うく聞き逃す所だった。
 
「浮気相手……つまり、あなたの方もアレンではない男性と関係を持っていたのね?」

「はい……」

 申し訳なさそうにいうマリーは、まるで小動物のようで、もしかしたらこんな所にアレンは惚れたのかなと今になって思う。
 しかし彼に全く未練など感じていないので、その考えはすぐに思考の外へと消えていく。
 私の顔を伺うようにマリーは言葉を続ける。

「その……アレンさんと関係を持ったのは最近なので、どう考えてもこんなにお腹が大きくなるはずはないんです。アレンさんは気づかなかったみたいですけど……」

 そういえばアレンの成績は学年最下位を争う程に低かった。

「でも、この子の父親かなと思う人に振られてしまって……その……そんな時、アレンさんが手を差し伸べてくれて……男女の仲になってしまいました」

「なるほど。アレンと関係を持った時には自分が妊娠していると気づかなかったの?」

「はい……その時はこんなにお腹が膨れてはいませんでしたから」

 私は小さくため息をつく。
 
 父にアレンとの婚約破棄を認めてもらえなかった半年前。
 そこから私は秘かに友人の手も借りてアレンのことを調べ始めた。 
 だから彼がどんな女性と関係を持っているのかはあらかた調べたつもりだったが、女性の方の調査は怠っていたみたいだ。

「分かった。マリー、あなたの話は信じるわ」

 私がそう言うと、マリーはぱっと明るい表情になった。

「ありがとうございますサラさん! じゃあ慰謝料も無しですよね?」

「はい? そんなわけないでしょう。慰謝料は請求するわよ」

「え……」

 そんなことだろうと思っていた。
 マリーはアレンとの妊娠の事実が消えれば慰謝料が消えると思っていたみたいだが、そんなことあるわけがない。
 
「マリー。あなたはアレンと関係を持った時点で終わりなのよ。妊娠についての慰謝料は請求しないけど、男女の仲になったことについての慰謝料は請求するから。覚悟しておいてね?」

「そんな……」

 マリーは絶望に顔を染めると、その場に膝をついた。
 そういえば、アレンといつも成績で最下位を争っていたのは、マリーだったと思いだす。
 
「じゃあねマリー。お腹冷やさないようにね」

 最後に私はそう言うと、屋上を立ち去った。
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