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私は魔女の家に生まれた。
父は私が生まれる前に他界して、家族は母しかいなかった。
しかし、それでも私は幸せだった。
母はとても力の強い魔女だった。
他の魔女や魔法使いなんて寄せ付けないほどの、圧倒的な力を持っていた。
民はそれを怖れたが、王宮は違った。
母のために豪華絢爛な神殿を建設し、そこで住むように告げた。
代わりにこの国を敵国と魔物から守って欲しいと。
母は喜んでこの条件を受け入れた。
母は昔から王宮と協力関係になることを望んでいたから。
それがこの国の聖女の始まりだった。
第一代目の聖女として、母は力の限りを尽くした。
国に巨大な防護結界を張って、何物も寄せ付けない壁を作り上げた。
まだ力の弱かった少女の私は、母の隣でいつもその雄姿を見ていた。
母は私の憧れで、こんな女性になりたいと本気で思っていた。
ある時、ドラゴンが国を襲った。
しかし母は得意の魔法でドラゴンを跡形もなく消し去った。
またある時には敵国の軍団が攻めてきた。
しかしまた母は魔法でその軍団を返り討ちにした。
なぜか命は奪わなかった。
理由を聞いた母は、真剣な顔で私に言った。
「人間の命は奪ってはいけないの。彼等も守るべきもののために戦っているのだから」
私にはその言葉の意味がよく分からなかったが、素敵な言葉に思えて、心に刻んだ。
この神殿で母と永遠に生きていくのだと思っていた。
しかしそんな幸せは突然に崩れ去った。
母は歳をとり、魔法を使えなくなったのだ。
後継者として私が聖女の仕事を引き継ぐことになったが、私の力はあまり強くはなかった。
母はこのままでは国が危ういと思ったのか、素質ある女性を神殿に連れてきた。
彼女は私よりも魔法の力で劣っている平民の女性だった。
しかし私よりも一生懸命に修行に明け暮れた。
気づいた時には、彼女の方が私よりも優れた聖女になっていた。
母は私に悲しそうな顔で言う。
「もう大丈夫よ。これからはあの子が聖女になるわ」
私はその日から聖女でなくなった。
王宮はそんな私に容赦はしなかった。
直ちに神殿から追い出され、母と離れ離れにされただけでなく、東の森へと追放された。
母は何も言わずにずっと俯いていた。
東の森で私は孤独に泣いた。
涙が枯れても、なおも泣き続けた。
そして復讐を誓った。
私から全てを奪ったあの国を滅亡させてやるのだ。
私が唯一まともに使えた魔法は魅了だけだった。
だからそれを使い、東の森にいる魔物を手なずけて仲間にした。
しかしそれだけでは国に復讐をすることは叶わなかった。
母が作ったあの防護結界が邪魔だった。
幸いなことに、私にはあまりある時間があった。
防護結界の理論は理解していたから、時間をかければあれを解く方法も見つかると考えた。
そして悠久のような長い時をかけて、私はついに結界を解く方法を見つけ出した。
そのためには私の手足となって動く人間が必要だ。
あの結界を通れる人間が。
そんなことを思っていたちょうどその時、森に侵入者が入った。
どうやら今の第一王子のエレンとその護衛兵らしい。
私は母のように護衛兵を消すと、エレンだけを自分の住処におびき寄せた。
彼は私が魅了を使うまでもなく、私に惚れているようだった。
私はそれが少しだけ嬉しくて、思わず誘ってしまった。
彼はその誘いに乗り、私たちは体を重ねた。
そして私は彼を魅了にかけた。
私を追い出したこの国に復讐を遂げるために……
父は私が生まれる前に他界して、家族は母しかいなかった。
しかし、それでも私は幸せだった。
母はとても力の強い魔女だった。
他の魔女や魔法使いなんて寄せ付けないほどの、圧倒的な力を持っていた。
民はそれを怖れたが、王宮は違った。
母のために豪華絢爛な神殿を建設し、そこで住むように告げた。
代わりにこの国を敵国と魔物から守って欲しいと。
母は喜んでこの条件を受け入れた。
母は昔から王宮と協力関係になることを望んでいたから。
それがこの国の聖女の始まりだった。
第一代目の聖女として、母は力の限りを尽くした。
国に巨大な防護結界を張って、何物も寄せ付けない壁を作り上げた。
まだ力の弱かった少女の私は、母の隣でいつもその雄姿を見ていた。
母は私の憧れで、こんな女性になりたいと本気で思っていた。
ある時、ドラゴンが国を襲った。
しかし母は得意の魔法でドラゴンを跡形もなく消し去った。
またある時には敵国の軍団が攻めてきた。
しかしまた母は魔法でその軍団を返り討ちにした。
なぜか命は奪わなかった。
理由を聞いた母は、真剣な顔で私に言った。
「人間の命は奪ってはいけないの。彼等も守るべきもののために戦っているのだから」
私にはその言葉の意味がよく分からなかったが、素敵な言葉に思えて、心に刻んだ。
この神殿で母と永遠に生きていくのだと思っていた。
しかしそんな幸せは突然に崩れ去った。
母は歳をとり、魔法を使えなくなったのだ。
後継者として私が聖女の仕事を引き継ぐことになったが、私の力はあまり強くはなかった。
母はこのままでは国が危ういと思ったのか、素質ある女性を神殿に連れてきた。
彼女は私よりも魔法の力で劣っている平民の女性だった。
しかし私よりも一生懸命に修行に明け暮れた。
気づいた時には、彼女の方が私よりも優れた聖女になっていた。
母は私に悲しそうな顔で言う。
「もう大丈夫よ。これからはあの子が聖女になるわ」
私はその日から聖女でなくなった。
王宮はそんな私に容赦はしなかった。
直ちに神殿から追い出され、母と離れ離れにされただけでなく、東の森へと追放された。
母は何も言わずにずっと俯いていた。
東の森で私は孤独に泣いた。
涙が枯れても、なおも泣き続けた。
そして復讐を誓った。
私から全てを奪ったあの国を滅亡させてやるのだ。
私が唯一まともに使えた魔法は魅了だけだった。
だからそれを使い、東の森にいる魔物を手なずけて仲間にした。
しかしそれだけでは国に復讐をすることは叶わなかった。
母が作ったあの防護結界が邪魔だった。
幸いなことに、私にはあまりある時間があった。
防護結界の理論は理解していたから、時間をかければあれを解く方法も見つかると考えた。
そして悠久のような長い時をかけて、私はついに結界を解く方法を見つけ出した。
そのためには私の手足となって動く人間が必要だ。
あの結界を通れる人間が。
そんなことを思っていたちょうどその時、森に侵入者が入った。
どうやら今の第一王子のエレンとその護衛兵らしい。
私は母のように護衛兵を消すと、エレンだけを自分の住処におびき寄せた。
彼は私が魅了を使うまでもなく、私に惚れているようだった。
私はそれが少しだけ嬉しくて、思わず誘ってしまった。
彼はその誘いに乗り、私たちは体を重ねた。
そして私は彼を魅了にかけた。
私を追い出したこの国に復讐を遂げるために……
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