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実家の近くに建てられた立派な屋敷は、私が大会を優勝した際に頂いたものだ。
あの大会から半年が経ち、私はライトと結婚を果たしていた。
「シャル。また空を見ているのかい?」
自室で窓から昼の空を見ていた私に、ライトが言った。
振り返ると、いつの間にか部屋の扉が開いていて、愛しい旦那様が立っていた。
「ええ。今日みたいな雲一つない時は特にね。あの予選の日を思い出すの」
「そうか……」
ライトは私の隣に立つと、手を握る。
彼の手はお日様の光のように温かい。
「……そろそろ昼食にしよう。食堂で一緒に……」
と、その時だった。
部屋の外からメイドの声がした。
「奥様。リリアナ様が参られています。今までのことを謝りたいと」
「え? リリアナが?」
あの大会以来、リリアナとは疎遠になってしまった。
その彼女が謝りたいだなんて……もしかして今までのことを本当に反省したのだろうか。
「ライト、先に食堂へ行っていて。リリアナと話したらすぐに行くから」
……応接間へ入ると、リリアナがソファから立ち上がった。
しかしその目はとても謝罪をするようには見えず、むしろ私に非難を浴びせようとしている濁ったものだった。
「お姉様。相変わらず馬鹿ですねぇ、私の嘘にも気づけずにここまで来て」
「……用件はなに?」
もうため息すらも出なかった。
リリアナは私を一瞥すると、悔しそうに言う。
「全部お姉様が悪いのですよ……お姉様が優秀だから、私が迷惑を被るんです……メビウスが私に離婚を提案してきました。子供っぽい私は嫌いですって」
「はい?」
「た、大会で予選で敗退したのも原因です……あの一件がなかったら、私はメビウスと幸せになれていたのです……だ、だから……全部お姉様が悪いのです……謝ってください……私に謝れ!!!」
獣のように目つきを鋭くさせたリリアナは、私に掴みかかってきた。
しかし私は寸での所でかわし、妹は無残にも床にそのまま倒れこんでしまう。
死んだように動かない妹を、私は同情を込めて見下ろした。
「リリアナ……確かに私が悪かったわ。あなたを甘やかしすぎたのかもしれない」
私はリリアナといつか仲良くなれると思っていた。
彼女が家族であり、私の妹であるからだ。
しかし、それは私の身勝手な勘違いだった。
妹の愚行を咎めない方が、罪だったのだ。
「リリアナ。あなたの自業自得よ。さっさと離婚しなさい」
私はそれだけ言うと、リリアナを助ける素振りも無しに、応接間を後にした。
扉を閉める直前、リリアナの悲痛な泣き声が聞こえたが、私は扉を閉めた。
心がズキリと痛んだ。
しかし、これもまた愛情だ。
彼女のために私は喜んで鬼となろう。
食堂に行くと、ライトが笑顔で迎えてくれた。
彼の顔を見たら思わず安堵の息が出てきて、私は自分の席に座る。
「シャル。お疲れ様」
「うん」
リリアナと話しただけなのに、酷く疲れていた。
しかし、心が少しだけ軽くあったような気がする。
……その後、リリアナはメビウスと離婚して、実家に帰ってきた。
一方私はライトとの子供を産み、幸せな日々を過ごしている。
あの大会から半年が経ち、私はライトと結婚を果たしていた。
「シャル。また空を見ているのかい?」
自室で窓から昼の空を見ていた私に、ライトが言った。
振り返ると、いつの間にか部屋の扉が開いていて、愛しい旦那様が立っていた。
「ええ。今日みたいな雲一つない時は特にね。あの予選の日を思い出すの」
「そうか……」
ライトは私の隣に立つと、手を握る。
彼の手はお日様の光のように温かい。
「……そろそろ昼食にしよう。食堂で一緒に……」
と、その時だった。
部屋の外からメイドの声がした。
「奥様。リリアナ様が参られています。今までのことを謝りたいと」
「え? リリアナが?」
あの大会以来、リリアナとは疎遠になってしまった。
その彼女が謝りたいだなんて……もしかして今までのことを本当に反省したのだろうか。
「ライト、先に食堂へ行っていて。リリアナと話したらすぐに行くから」
……応接間へ入ると、リリアナがソファから立ち上がった。
しかしその目はとても謝罪をするようには見えず、むしろ私に非難を浴びせようとしている濁ったものだった。
「お姉様。相変わらず馬鹿ですねぇ、私の嘘にも気づけずにここまで来て」
「……用件はなに?」
もうため息すらも出なかった。
リリアナは私を一瞥すると、悔しそうに言う。
「全部お姉様が悪いのですよ……お姉様が優秀だから、私が迷惑を被るんです……メビウスが私に離婚を提案してきました。子供っぽい私は嫌いですって」
「はい?」
「た、大会で予選で敗退したのも原因です……あの一件がなかったら、私はメビウスと幸せになれていたのです……だ、だから……全部お姉様が悪いのです……謝ってください……私に謝れ!!!」
獣のように目つきを鋭くさせたリリアナは、私に掴みかかってきた。
しかし私は寸での所でかわし、妹は無残にも床にそのまま倒れこんでしまう。
死んだように動かない妹を、私は同情を込めて見下ろした。
「リリアナ……確かに私が悪かったわ。あなたを甘やかしすぎたのかもしれない」
私はリリアナといつか仲良くなれると思っていた。
彼女が家族であり、私の妹であるからだ。
しかし、それは私の身勝手な勘違いだった。
妹の愚行を咎めない方が、罪だったのだ。
「リリアナ。あなたの自業自得よ。さっさと離婚しなさい」
私はそれだけ言うと、リリアナを助ける素振りも無しに、応接間を後にした。
扉を閉める直前、リリアナの悲痛な泣き声が聞こえたが、私は扉を閉めた。
心がズキリと痛んだ。
しかし、これもまた愛情だ。
彼女のために私は喜んで鬼となろう。
食堂に行くと、ライトが笑顔で迎えてくれた。
彼の顔を見たら思わず安堵の息が出てきて、私は自分の席に座る。
「シャル。お疲れ様」
「うん」
リリアナと話しただけなのに、酷く疲れていた。
しかし、心が少しだけ軽くあったような気がする。
……その後、リリアナはメビウスと離婚して、実家に帰ってきた。
一方私はライトとの子供を産み、幸せな日々を過ごしている。
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