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エリーとの婚約が決まった時、僕は絶望した。
両親から見せられた彼女のプロフィールは、平々凡々な女性と何ら変わりはなく、彼女の容姿も別段優れているわけではない。
一体なんでこんな女と婚約しなくてはいけないのか疑問だった。
不服そうな顔をしたのに父は気づいたのか、怒ったように言った。
「なんだフィル。文句があるのか?」
「あ、いえ……そういうわけでは……しかし、お父様がなぜ彼女を選んだのか気になりまして……」
僕の両親は厳しい人だった。
公爵家の名に恥じない息子に育てるために、僕には友達を作る暇すら与えられなかった。
父は僕を睨むようにみると、ゆっくりと言った。
「彼女の両親とは古い付き合いでな……彼らの娘ならばお前の妻として不足はないと思った」
「しかし、このエリーという令嬢は特に何かに秀でているわけでもありませんし……」
「確かにそうだ。だが、夫婦になるというのは、そんなに単純な話ではないのだ。お前にもいつか分かるよ」
父の隣で母がニコッと笑った。
その有無を言わせない笑みが昔から大嫌いだった。
結局僕は、この縁談を受け入れるしか選択肢はなかった。
「分かりました」
……僕は思っていた通り、エリーは本当につまらない女だった。
美しいわけでもないので連れて歩くだけで恥ずかしいし、毎日うざったいくらいに僕の家を訪ねてくる。
僕のことが心配だの愛しているだの自分勝手なことを言って、僕の大切な時間を奪っていく。
エリーが妻になる未来が嫌で嫌で仕方がなかった。
そんな時、僕は街でレベッカと出会った。
噴水の前に佇む彼女は、まるで天使のような美しさを放っていた。
僕よりもブサイクで位の低そうな貴族二人に絡まれていて、僕は反射的に彼女を助けていた。
二人組は僕が公爵令息だと知ると、真っ青になって去っていった。
僕はレベッカに微笑みかける。
「大丈夫だったかい?」
「は、はい……助けていただいてありがとうございました……」
服は所々汚れていたが、上等な繊維で作られていた。
礼儀作法をわきまえているようで、頭の下げ方がエリーの百倍美しい。
「もしよかったら、僕の恋人になりませんか?」
考えるよりも先に口が開いていた。
彼女は驚いたように目を見開いたが、すぐに嬉しそうに微笑んだ。
こうしてレベッカは僕の浮気相手になった。
よくよく話を聞いてみると、彼女は幼馴染の女と一緒に隣国から逃げてきたらしい。
幼馴染の女は大して綺麗でもなかったので、家の侍女として雇うことにした。
そして僕は日を追うごとにレベッカにのめりこみ、彼女こそ自分の妻に相応しいと考えるようになった。
エリーに婚約破棄を告げ、勢い余って谷に突き落とした時も、後悔はなかった。
あの一件は事故として処理され、僕は悲しみに暮れるフリをした。
婚約者の痛ましい死に、皆が同情してくれた。
それから半年がたち、レベッカが正式に妻になった。
全ては上手く進んでいた。
僕は最愛の人との幸せを手に入れたのだ。
しかしレベッカと夫婦となってちょうど一年。
彼女に僕は応接間に呼び出された。
そこにはレベッカと彼女の侍女の女がいた。
「レベッカ。それで、話ってなんだい?」
二人が座るソファの向かいに僕は座った。
レベッカはどこかいつもとは違う冷たい瞳を僕に向けていた。
「フィル様。私と離婚してください」
「……は?」
両親から見せられた彼女のプロフィールは、平々凡々な女性と何ら変わりはなく、彼女の容姿も別段優れているわけではない。
一体なんでこんな女と婚約しなくてはいけないのか疑問だった。
不服そうな顔をしたのに父は気づいたのか、怒ったように言った。
「なんだフィル。文句があるのか?」
「あ、いえ……そういうわけでは……しかし、お父様がなぜ彼女を選んだのか気になりまして……」
僕の両親は厳しい人だった。
公爵家の名に恥じない息子に育てるために、僕には友達を作る暇すら与えられなかった。
父は僕を睨むようにみると、ゆっくりと言った。
「彼女の両親とは古い付き合いでな……彼らの娘ならばお前の妻として不足はないと思った」
「しかし、このエリーという令嬢は特に何かに秀でているわけでもありませんし……」
「確かにそうだ。だが、夫婦になるというのは、そんなに単純な話ではないのだ。お前にもいつか分かるよ」
父の隣で母がニコッと笑った。
その有無を言わせない笑みが昔から大嫌いだった。
結局僕は、この縁談を受け入れるしか選択肢はなかった。
「分かりました」
……僕は思っていた通り、エリーは本当につまらない女だった。
美しいわけでもないので連れて歩くだけで恥ずかしいし、毎日うざったいくらいに僕の家を訪ねてくる。
僕のことが心配だの愛しているだの自分勝手なことを言って、僕の大切な時間を奪っていく。
エリーが妻になる未来が嫌で嫌で仕方がなかった。
そんな時、僕は街でレベッカと出会った。
噴水の前に佇む彼女は、まるで天使のような美しさを放っていた。
僕よりもブサイクで位の低そうな貴族二人に絡まれていて、僕は反射的に彼女を助けていた。
二人組は僕が公爵令息だと知ると、真っ青になって去っていった。
僕はレベッカに微笑みかける。
「大丈夫だったかい?」
「は、はい……助けていただいてありがとうございました……」
服は所々汚れていたが、上等な繊維で作られていた。
礼儀作法をわきまえているようで、頭の下げ方がエリーの百倍美しい。
「もしよかったら、僕の恋人になりませんか?」
考えるよりも先に口が開いていた。
彼女は驚いたように目を見開いたが、すぐに嬉しそうに微笑んだ。
こうしてレベッカは僕の浮気相手になった。
よくよく話を聞いてみると、彼女は幼馴染の女と一緒に隣国から逃げてきたらしい。
幼馴染の女は大して綺麗でもなかったので、家の侍女として雇うことにした。
そして僕は日を追うごとにレベッカにのめりこみ、彼女こそ自分の妻に相応しいと考えるようになった。
エリーに婚約破棄を告げ、勢い余って谷に突き落とした時も、後悔はなかった。
あの一件は事故として処理され、僕は悲しみに暮れるフリをした。
婚約者の痛ましい死に、皆が同情してくれた。
それから半年がたち、レベッカが正式に妻になった。
全ては上手く進んでいた。
僕は最愛の人との幸せを手に入れたのだ。
しかしレベッカと夫婦となってちょうど一年。
彼女に僕は応接間に呼び出された。
そこにはレベッカと彼女の侍女の女がいた。
「レベッカ。それで、話ってなんだい?」
二人が座るソファの向かいに僕は座った。
レベッカはどこかいつもとは違う冷たい瞳を僕に向けていた。
「フィル様。私と離婚してください」
「……は?」
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