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 モースの目には、全ての悪を滅そうとする強い誓いのような色が見えていた。
 私はごくりと唾を呑み込むと、勇気を振り絞る。

「私はペトリをいじめてなどおりません。むしろ誰かをいじめていたのはペトリの方です。学園時代から彼女の悪評は女学生の間で轟いておりました」

「酷い! 何てこと言うんですか!?」

 すかさずペトリが大きな声を上げた。

「お義父様! 騙されないでください、嘘をついているのはダイヤさんの方です」

「そうですお父様! どうか僕達を信じてください」

 オリビンとペトリは、モースに懇願するように言う。
 モースは二人をじっと一瞥すると、再び私に目を向ける。
 葬式よりも重たい空気が応接間に流れ、緊張が全身を伝う。
 そのまま数秒が過ぎた時、モースはそっと口を開いた。

「私はダイヤを信じる」

「「は?」」

 オリビンとペトリが同時に驚きの声を上げた。
 モースは二人を見て、低い声で説明をする。

「お前とダイヤの結婚が決まる前、私はダイヤのことを入念に調べていた。確かに彼女は孤立しがちで他人に遠慮のない所があったが、悪い噂は一つも聞かなかった。人として間違った行為は決してしなかったんだ」

 モースの言葉に救われたような気持ちになった。
 孤独を貫くこの道は、本当に幸せなのか、いつも疑問に思っていた。
 しかし、自分の道を信じてよかったと、今は心の底から思える。

「そ、そんなの情報の誤りです!」

 オリビンの声には焦りがはらんでいた。
 モースはそれを敏感に感じ取ったように、ギロっと目を尖らせる。

「私が集めた情報にケチをつけるのか?」

「あ、いや……決してそんなことは……」

 威圧的なモースの態度にさすがのオリビンも怖気づいたらしく、急に体を縮こまらせた。
 モースはペトリに目を向けた。

「ダイヤのことを調べていると、たまたま君のことも耳に入ってきたよ。随分と男遊びが激しかったみたいだな。その男たちとは今も関係を続けているのか?」

「え……」

 ペトリの顔面が真っ青に染まる。
 オリビンは聞いていないと言いたげに、ペトリを睨みつけていた。
 
「全く……この私を騙そうなど百年早い。オリビン、お前はもう私の息子ではない。爵位も取り上げる。これからは平民として生きていけ」

 氷のように冷たい声だった。
 オリビンはよほど衝撃的だったのか、口をぽかんと開けて、その場に固まった。
 
「ペトリ、君にも後程慰謝料を請求させてもらう。もちろんダイヤ宛のな」

「はい……」

 ペトリはすっかり諦めたらしい。
 モースの言葉に小さく頷くと、俯いた。
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