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「あのつまらない女はもういなくなった。今日から君が僕の婚約者だ、ララ」
アナシアを毒づきながら、僕は応接間でララを抱きしめた。
ララが嬉しそうな声を上げる。
「ふふっ、私のために待っててくれてありがとうエンド。あなたと結婚すればよかった」
「今からでも遅くない。たくさん幸せな時間を過ごそう」
……ララと出会ったのは僕が六歳の時。
ララの家族が隣の家に引っ越してきて、僕達はすぐに仲良くなった。
お姫様のような金色の髪に金色の瞳。
顔のパーツは綺麗に整っていて、性格は明るく、悪い所は何一つない。
それが僕が最初に持った、彼女の第一印象だった。
それからララと僕は毎日のように遊ぶようになった。
ララの家は伯爵家で僕よりも爵位は低いが、僕はそんなこと気にしなかったし、ララも気にしていなかった。
「エンド。今日は何して遊ぶ?」
敬語を使うこともなく、僕達は対等な関係だった。
このままずっと彼女の隣で生きていけたら……恋人や夫になることができたら、どんなに幸せだろうか。
そんなことを考えてしまう自分がいて、僕はこれが恋なのだと気づいた。
しかし、事は僕の願い通りにはならなかった。
十二歳のある日、ララは僕に言った。
「あのねエンド。私……結婚相手が決まったの。だからもう今まで通りには遊べないかもしれないの……勉強しないといけないことがたくさんあるらしくて」
「え……」
色づいた世界が途端に真っ白になった。
僕はショックで言葉が上手く出ず、唯一出来たのは情けない笑顔だけだった。
「そ、そうなんだ……」
少し遅れてそう言うも、理解なんて全然していなかった。
ララが自分ではない人と結婚するなんて、考えたくもないし、夢だと信じたかった。
しかしそれを表に出す勇気もなく、僕はただ愛想笑いを浮かべることしかできない。
「ごめんね、エンド」
ララは申し訳なさそうに言う。
もし涙でも流してくれたのなら、少しだけ僕は勇気を振り絞れたかもしれない。
しかし、彼女の顔を見ていると、僕の恋は片思いであったのだと気づかされる。
「き、気にしないでよ。僕達は貴族だしさ……そ、そういうことも当然あるわけで……ははっ……お、おめでとうララ」
自分の口からこんな言葉が出ているなんて信じたくなかった。
あれほど彼女のことが好きだったのに。
「そうだよね。そういうものだよね。話聞いてくれてありがとうエンド、私、頑張るね」
「ああ、頑張れ」
本当に僕は馬鹿だ。
好きな女の子に想いを告げることもせずに、自分ではない奴との結婚を応援するなんて。
走り去るララの背中が急に遠く感じた。
……それから僕は、虚無のような人生を送っていた。
ララは結婚を機に引っ越しをしてしまい、彼女の住んでいた家は僕の父が買い取った。
もうララはいないのだと分かっていても、僕は時折、彼女の部屋だった場所を訪れていた。
その度に涙を流し、自分を責めた。
ララが正式に結婚したと聞いて、お祝いの品を持っていった。
久しぶりに見た彼女は美しい大人の女性になっていたが、隣には不釣り合いな男がいた。
こんな奴に僕のララを取られたのだと思うと吐き気がした。
だが、そんな僕を勇気づけるように、ララと夫の仲があまり良くないという噂が耳に入った。
いっそのこと離婚でもしてくれればいいのに……と願っていると、ある作戦を思いついた。
僕が抱えている問題を全て解決する作戦である。
僕は探した。
条件に合うような女を。
そしてアナシアという男爵令嬢を発見し、無事に五年間の結婚を果たし離婚した。
ララは夫と離婚し、僕の求婚を受け入れた。
全ては上手くいっている。
僕は全てを手に入れたのだ。
アナシアを毒づきながら、僕は応接間でララを抱きしめた。
ララが嬉しそうな声を上げる。
「ふふっ、私のために待っててくれてありがとうエンド。あなたと結婚すればよかった」
「今からでも遅くない。たくさん幸せな時間を過ごそう」
……ララと出会ったのは僕が六歳の時。
ララの家族が隣の家に引っ越してきて、僕達はすぐに仲良くなった。
お姫様のような金色の髪に金色の瞳。
顔のパーツは綺麗に整っていて、性格は明るく、悪い所は何一つない。
それが僕が最初に持った、彼女の第一印象だった。
それからララと僕は毎日のように遊ぶようになった。
ララの家は伯爵家で僕よりも爵位は低いが、僕はそんなこと気にしなかったし、ララも気にしていなかった。
「エンド。今日は何して遊ぶ?」
敬語を使うこともなく、僕達は対等な関係だった。
このままずっと彼女の隣で生きていけたら……恋人や夫になることができたら、どんなに幸せだろうか。
そんなことを考えてしまう自分がいて、僕はこれが恋なのだと気づいた。
しかし、事は僕の願い通りにはならなかった。
十二歳のある日、ララは僕に言った。
「あのねエンド。私……結婚相手が決まったの。だからもう今まで通りには遊べないかもしれないの……勉強しないといけないことがたくさんあるらしくて」
「え……」
色づいた世界が途端に真っ白になった。
僕はショックで言葉が上手く出ず、唯一出来たのは情けない笑顔だけだった。
「そ、そうなんだ……」
少し遅れてそう言うも、理解なんて全然していなかった。
ララが自分ではない人と結婚するなんて、考えたくもないし、夢だと信じたかった。
しかしそれを表に出す勇気もなく、僕はただ愛想笑いを浮かべることしかできない。
「ごめんね、エンド」
ララは申し訳なさそうに言う。
もし涙でも流してくれたのなら、少しだけ僕は勇気を振り絞れたかもしれない。
しかし、彼女の顔を見ていると、僕の恋は片思いであったのだと気づかされる。
「き、気にしないでよ。僕達は貴族だしさ……そ、そういうことも当然あるわけで……ははっ……お、おめでとうララ」
自分の口からこんな言葉が出ているなんて信じたくなかった。
あれほど彼女のことが好きだったのに。
「そうだよね。そういうものだよね。話聞いてくれてありがとうエンド、私、頑張るね」
「ああ、頑張れ」
本当に僕は馬鹿だ。
好きな女の子に想いを告げることもせずに、自分ではない奴との結婚を応援するなんて。
走り去るララの背中が急に遠く感じた。
……それから僕は、虚無のような人生を送っていた。
ララは結婚を機に引っ越しをしてしまい、彼女の住んでいた家は僕の父が買い取った。
もうララはいないのだと分かっていても、僕は時折、彼女の部屋だった場所を訪れていた。
その度に涙を流し、自分を責めた。
ララが正式に結婚したと聞いて、お祝いの品を持っていった。
久しぶりに見た彼女は美しい大人の女性になっていたが、隣には不釣り合いな男がいた。
こんな奴に僕のララを取られたのだと思うと吐き気がした。
だが、そんな僕を勇気づけるように、ララと夫の仲があまり良くないという噂が耳に入った。
いっそのこと離婚でもしてくれればいいのに……と願っていると、ある作戦を思いついた。
僕が抱えている問題を全て解決する作戦である。
僕は探した。
条件に合うような女を。
そしてアナシアという男爵令嬢を発見し、無事に五年間の結婚を果たし離婚した。
ララは夫と離婚し、僕の求婚を受け入れた。
全ては上手くいっている。
僕は全てを手に入れたのだ。
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