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 私たちの家も半分は燃えてしまったけど、半分は残った。
 祖父母は重度の火傷を負って、死ぬまで入院生活が続くそうだ。

 祖父母のお見舞いに行った時、ろくに話すこともできない二人を見て、母は何も言わなかった。
 だから母が病室を去ってから、私が代わりに言ってあげた。

「さっさと死んでくださいね。おじい様、おばあ様」

 幸いなことに夜中の火事は、事故として処理された。
 まさか誰も六歳の少女が起こした放火だとは思うまい。
 私には追悼の言葉だけが永遠と並べられた。

 祖父母は母が結婚詐欺師に騙された時に、自分たちの財産は他に移していたので、家の財政状況が傾くことはなかった。 
 入院している祖父母に代わり母がそれらの所有権を引き継ぎ、領地管理も始めた。
 今まで苦しんだ分、母はとても楽しそうに毎日を過ごしていた。

 それ以来母はあの言葉を言わなくなった。
 痩せこけていた頬もすっかり元に戻り、体の傷も跡形もなく消えた。
 私も十五歳になって、貴族学園に入学した。

 全てが上手くいっていた。
 しかし私はなんでこうなったのかをしっかりと理解していた。
 それは私が行動をしたからだった。
 望む未来に向けて、手段を問わず、行動したからだった。

 学園に入って、私が最初に目を付けたのは同じ伯爵家の男性だった。
 私が思わせぶりな態度をとると、すぐに彼は私に惚れこみ、貢ぐようになった。
 私はそれを受け取ったり拒否したりしながら、彼を婚約者の候補とすることにした。

 次に目を付けたのは、公爵家の男性だった。
 彼は大人しい性格で警戒心が強かったので、少々強引に攻めた。
 すると最初の彼同様に、私に惚れて、婚約者候補となった。

 二人もいれば安心だった。
 暴力的ではない人を見極めたし、これからの人生が穏やかに過ごせるような、温厚な人を選んだから。
 しかしレオン王子を見た時、私は彼が欲しくなった。
 もし彼と関係を持つことができれば、二人よりも強固で安心した未来が遅れると思った。

 私はすぐに行動を開始した。
 王子にさりげなく接触し、側妃という立場に選ばれることに成功した。
 なぜか正妃に選ばれているティアは真面目な女で、とても王子の好みではなさそうだったから思っていたよりも簡単だった。

 私が側妃に選ばれてから、ティアは学園に来なくなった。
 王子は彼女が心配なようで、家に行こうとしていたから、私は助言をしてあげた。

「レオン王子、きっとティアさんは今頃体調が悪くて寝込んでいるのです。だから行かない方がいいと思いますよ」

 王子はあまり納得していないようだったが、渋々頷いた。

 結局ティアが来たのはそれから二週間後だった。
 憔悴しきった顔をしていて、何かがあったのは明らかだった。
 だから私は少し油断をし過ぎていたのかもしれない。

 最初に婚約者候補となった男性と空き教室で抱き合っていると、外で何かを落とす音がした。
 慌てて扉を開けてみると、そこには床に落とした教科書を拾うティアがいた。
 瞬間、私は絶望に染まった。
 
「ティアさん……見ました……よね?」

 ティアはゆっくりと立ち上がると、私におぼろげな目を向けた。
 その目が昔の母と重なり、胸が締め付けられた。

「モリア……王子にはあなたが必要なの。だから彼を悲しませないでね」

 激昂して殴られると思った。
 しかしティアはそれだけ言うと、足早に階段を降りていった。

「なにそれ……」

 私の心臓は、祖父母の家を燃やした時くらい、激しく音を立てていた。
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