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私の言葉に焚きつけられたレオン王子は、人が変わったように努力を始めた。
相当に私が正妃なるのが許せないらしく、学園を卒業するまでに、立派な男になると意気込んでいた。
最初はおぼつかなかった剣術も、訓練をするごとに上達していき、今まで適当に教えていた訓練兵も本腰を入れるようになった。
しかし元から怠け癖があるレオン王子なので、時折、私は彼の元を訪れてあげる。
「レオン王子。前よりは随分とマシになったようですが、まだ素人の域は出ませんね。この前見た弟様の剣術は、もっと鋭く素早く、豪快でした」
「なんだと!? このクソ女生意気言いやがって……くそっ……」
とても王族とは思えない悪態をつきながらも、王子は悔しそうに訓練に戻っていく。
その様子を見つめながら、私は一人微笑んでいた。
……そんな日々が長く続き、レオン王子の剣の腕は弟を超えるものとなっていた。
なので今度は勉強について焚きつけてみると、王子は案の定悔しそうな顔をして、勉学に励み始めた。
最初は悪党のような悪知恵が働く王子だと思っていたが、どうやらそれは私の勘違いだったらしい。
レオン王子といえどまだ子供、子供らしく悔しがったり悪態をついたり、努力したりするのだ。
その後もレオン王子は、剣術のように勉強が得意となり、今度はマナーを学び始めた。
その頃には焚きつける言葉なんて無くても、彼から先回りして行動するようになっていて、それに従い周囲の王子に対する目も変わっていった。
もちろん私のレオン王子に対する印象も変わっていた。
最初彼を無能だと言ったのは本心からだったが、今の彼にはその言葉は似合わなかった。
十五歳になる頃には彼は有能な王子となっていて、次期国王としての才能を発揮し始めていたのだ。
「ティア。お前は散々僕のことを馬鹿にしたが、どうだ? 今の僕をまだ馬鹿にすることができるかな?」
翌日に学園の入学式を控えたその日、私たちは王宮の中庭にいた。
レオン王子は少年のような無邪気な笑みを共に、私にそう言うと、鼻を鳴らす。
私は目を細め、笑った。
「いえ……残念ながらもう馬鹿にすることはできませんね。レオン王子は立派に努力を続けてきました。そして私の予想よりも遥かに素敵な男性へと成長致しました。これで私の役目も終わりでしょう」
「え?」
私の役目は初めから決まっていた。
父にレオン王子の正妃となることを告げられた時、この縁談には王子を教育する意味合いも込められているのだと知った。
だからこそ私が選ばれたのだ。
「ティア? お前、何言ってるんだ?」
あんなに私のことを嫌っていた王子の顔はどこか苦しそうだった。
私の言いたいことを察したらしい。
「レオン王子。今までありがとうございました。もうあなたは自分の理想の女性を正妃にすることができるでしょう。私はたくさん王子に無礼な行為をしてきましたので……不敬罪で婚約破棄を致しましょう」
「な、なんで……」
レオン王子は泣きそうな顔になっていた。
それを見ていたらこっちまで泣きそうになるが、私は何とか涙を堪える。
「王子だって言っていたではありませんか。可愛くて元気で話すのが楽しい人と……」
「まだだ」
「……え?」
レオン王子は覚悟の籠ったような目をした。
「ぼ、僕の目標はお前に勝つことだ。僕を馬鹿にしたお前をその……悔しがらせることだ! ま、まだそれは達成されていない! だから婚約は破棄しない! お前は正妃のままだ!」
「しかし……」
「しかしもくそもあるか! 僕は王子だぞ! お前は僕の命令に従う義務がある! 分かったな!」
そう言われては反論することもできない。
本心ではそうは思わなかったが、私はそう思うことにした。
「分かりました。学園の入学試験では私が一番でしたものね。ではこれからも楽しみにしています。ふふっ」
「ふん……生意気言っていられるのも今の内だ! 覚悟しておけよ!」
なぜだか、王子との絆が一段深まった気がした。
相当に私が正妃なるのが許せないらしく、学園を卒業するまでに、立派な男になると意気込んでいた。
最初はおぼつかなかった剣術も、訓練をするごとに上達していき、今まで適当に教えていた訓練兵も本腰を入れるようになった。
しかし元から怠け癖があるレオン王子なので、時折、私は彼の元を訪れてあげる。
「レオン王子。前よりは随分とマシになったようですが、まだ素人の域は出ませんね。この前見た弟様の剣術は、もっと鋭く素早く、豪快でした」
「なんだと!? このクソ女生意気言いやがって……くそっ……」
とても王族とは思えない悪態をつきながらも、王子は悔しそうに訓練に戻っていく。
その様子を見つめながら、私は一人微笑んでいた。
……そんな日々が長く続き、レオン王子の剣の腕は弟を超えるものとなっていた。
なので今度は勉強について焚きつけてみると、王子は案の定悔しそうな顔をして、勉学に励み始めた。
最初は悪党のような悪知恵が働く王子だと思っていたが、どうやらそれは私の勘違いだったらしい。
レオン王子といえどまだ子供、子供らしく悔しがったり悪態をついたり、努力したりするのだ。
その後もレオン王子は、剣術のように勉強が得意となり、今度はマナーを学び始めた。
その頃には焚きつける言葉なんて無くても、彼から先回りして行動するようになっていて、それに従い周囲の王子に対する目も変わっていった。
もちろん私のレオン王子に対する印象も変わっていた。
最初彼を無能だと言ったのは本心からだったが、今の彼にはその言葉は似合わなかった。
十五歳になる頃には彼は有能な王子となっていて、次期国王としての才能を発揮し始めていたのだ。
「ティア。お前は散々僕のことを馬鹿にしたが、どうだ? 今の僕をまだ馬鹿にすることができるかな?」
翌日に学園の入学式を控えたその日、私たちは王宮の中庭にいた。
レオン王子は少年のような無邪気な笑みを共に、私にそう言うと、鼻を鳴らす。
私は目を細め、笑った。
「いえ……残念ながらもう馬鹿にすることはできませんね。レオン王子は立派に努力を続けてきました。そして私の予想よりも遥かに素敵な男性へと成長致しました。これで私の役目も終わりでしょう」
「え?」
私の役目は初めから決まっていた。
父にレオン王子の正妃となることを告げられた時、この縁談には王子を教育する意味合いも込められているのだと知った。
だからこそ私が選ばれたのだ。
「ティア? お前、何言ってるんだ?」
あんなに私のことを嫌っていた王子の顔はどこか苦しそうだった。
私の言いたいことを察したらしい。
「レオン王子。今までありがとうございました。もうあなたは自分の理想の女性を正妃にすることができるでしょう。私はたくさん王子に無礼な行為をしてきましたので……不敬罪で婚約破棄を致しましょう」
「な、なんで……」
レオン王子は泣きそうな顔になっていた。
それを見ていたらこっちまで泣きそうになるが、私は何とか涙を堪える。
「王子だって言っていたではありませんか。可愛くて元気で話すのが楽しい人と……」
「まだだ」
「……え?」
レオン王子は覚悟の籠ったような目をした。
「ぼ、僕の目標はお前に勝つことだ。僕を馬鹿にしたお前をその……悔しがらせることだ! ま、まだそれは達成されていない! だから婚約は破棄しない! お前は正妃のままだ!」
「しかし……」
「しかしもくそもあるか! 僕は王子だぞ! お前は僕の命令に従う義務がある! 分かったな!」
そう言われては反論することもできない。
本心ではそうは思わなかったが、私はそう思うことにした。
「分かりました。学園の入学試験では私が一番でしたものね。ではこれからも楽しみにしています。ふふっ」
「ふん……生意気言っていられるのも今の内だ! 覚悟しておけよ!」
なぜだか、王子との絆が一段深まった気がした。
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