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第3章 シュルトーリア

給湯の魔道具

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「はい、受注済みのすべての依頼達成を確認しました。報酬を用意致しますので少々お待ちください。」

ギルドで狩ってきた物を解体してもらい、納品も含めて受けていた依頼の完了報告を全て済ませると受付嬢がカウンターから報酬を取り出して並べていく。

「お待たせいたしました。合計で金貨2枚と大銀貨1枚です。」
「ありがとうございます。」

分かってはいたが盗賊の売値に比べたらはるかに少ない報酬に少しがっかりする。それでも依頼を纏めて受けたのでランクC冒険者としては1日の稼ぎは良い方だろう。それでも従魔達の食事を考えるとランクC以下の依頼だけで賄うのは無理がありそうだ。

報酬を受け取ってギルドを出ると商店に寄り、盗賊のおかげて潤った懐にものを言わせて今まで買うのを控えていた調理器具と調味料類や食材を大量に、さらに魔道具や武器を作るためにインゴットや木材等を仕入れる。

さらにすっかり忘れていたオティリオ商会に向かった。引き取りに来るのが遅くなったことを謝り倒して、残金を払ってから作ってもらった特大マットレスを受け取った。

そんなこんなでいい時間になったのでツェマーマンの工房に向かった。工房に入り、ディメンジョンルームを開くとすぐにツェマーマンから声が掛かった。

「おう、もう時間か。」
「はい。そうだ、盗賊のおかげでツケにしてもらった分も払えるようになりました。」
「そいつはいい。こっちも明日には完成予定だ。」

そう言って浴室の方を見るツェマーマンの視線を追うとそこにはもう完成しているんじゃないかという様な壁が取り付けられた一角があった。中に入るための階段もしっかりとした作りの物が取り付けられている。扉が付けられた壁とは別の壁際には立派な流し台とコンロを設置するための台が設置されている。

「もう完成してるじゃないですか。まだ手を加える所があるんですか?」
「あぁ、後は内側に撥水と防腐用の塗料を塗って乾燥させれば完成だ。」

そうなると俺も水とお湯を出す魔道具の開発を急がないと。

「わかりました。そうだ、その撥水塗料を売ってくれませんか?」
「在庫はあるし構わんぞ。しかし、なんに使うんだ?」
「水を出す魔道具の開発に必要で。」

今考えている給湯の魔道具は鉄製だ。そのままでも使えるがすぐに錆びるだろう。

「魔道具の開発?……風呂に設置する魔道具の当てって自分で作る気か!」
「えぇ、まぁ。」
「魔道具なんて素人が簡単に作れるもんじゃないぞ。」
「大丈夫です。ちゃんと見込みがあってのことなので」
「そうか。まぁ、こっちの仕事は浴室を作るまでだから、魔道具については口を挟まん。それと撥水の塗料は売ってやる。」
「ありがとうございます。」

ツェマーマンに失敗することも考え多めの量を伝え、代金と引き換えに瓶に詰められた塗料を受け取った。さらについでに持っていけと塗料を塗るための刷毛も付けてくれた。

お礼を言ってツェマーマン工房を出ると、いつもディメンジョンルームを開くときに使っている空き家の陰に移動する。辺りを見渡し誰もいないことを確認してディメンジョンルームに潜った。

時間も良い頃合いなのですぐに夕飯にする。今日は買ってきた食材と調味料で鍋を作る。土鍋はないし量が量なので大型寸胴鍋を使う。中に水と骨付き肉から肉を削ぎ落して残った骨を入れ、出汁を取るためしばらく煮込む。出汁が取れたら骨を取り出し、そこに切った肉と野菜類を入れ、醤油の様な調味料をベースにいくつかの調味料を入れて煮込んでいく。

できた醤油鍋を器に盛りつけいつも通り俺達が先に食事を済ませる。次に残りのオーク達に各自でよそって食べるように指示を出してから俺は作業に移る。

給湯の魔道具の開発だ。買ってきたインゴットを直径30cm、高さ15cmの寸胴容器に変形させ、魔石を嵌め込む窪みを作っておく。

「ちょっと大き過ぎか?でも一度にそれなりの量のお湯を作らないといけないからな。一応ゆとりを持って作った方がいいだろ。」

追加でインゴットを取り出し同じ寸胴容器をもう一つ作る。ただし底は水を排出するパイプを繋げるので直径20cmの穴を開けて、穴の方へ僅かに傾斜をつけておく。

二つの寸胴容器の内側にツェマーマンから買った塗料を塗りつける。

「乾かさないといけないし、今日のところはここまでかな。」

それからバラムの食事のためにガルドに搾り取ってもらって休むことにした。




翌日も同じように朝からギルドで大量の依頼を受けて森で狩りを行った。ただし、今日はほとんどが討伐系の依頼だ。俺も討伐に参加し、手分けをして午前中のうちに依頼の魔物の討伐を終えると以前解体に使った川へ向かった。

昼頃に川へ着くと食事を済ませ、解体ができるオークには解体を指示して残りは自由にさせた。俺はその間に給湯の魔道具の続きを行う。

昨日の寸胴容器に塗った塗料が乾いていることを確認すると底がある方を手に取る。それに水を生み出すウォーターの魔法を寸胴のそこから水が湧くイメージで付与する。

試しに魔石を窪みに嵌めてみればの寸胴の底から結構な勢いで水が湧きだした。

「とりあえず水を出すのこれで良し。あとはこれをお湯にするわけだけど。」

底に穴が開いた方の寸胴容器を手に取り対象の温度を上昇させるヒートを内側の物を加熱するように付与する。

「あとはウォーターを付与した鍋をひっくり返して繋げて、ずれないように追加のインゴットで溶接。これで給湯の魔道具はできたかな?水が必要な時は上だけ、お湯が必要な時は上下両方に魔石をセットすればいいはず。」

俺は試しに空の樽を取り出し、その上に給湯の魔道具を落ちないように設置する。

「まずは水だけ。」

上部の水を作る部分にオークの魔石を嵌めると下部の穴から水が排出された。

「よしよし。次にお湯。」

そのまま下部のお湯にする部分にオークの魔石を嵌めると1~2秒してお湯が出るようになった。

「よし!成功だ。」

俺は軽くガッツボーズを取り、その出来に満足した。上下どちらも水と火の初歩的な魔法のため消費魔力は微々たるものでオークの魔石でも十分使える。

俺は樽がいっぱいなる前に魔石を外し、作った給湯の魔道具を異空間収納にしまった。
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