上 下
78 / 108
第3章 シュルトーリア

続・環境整備③

しおりを挟む
「ふぅ……。」

大型化したコンロを前に大きく息を吐く。

魔力補充の腕輪と魔石の検証を終えた俺はコンロの大型化に取り組んでいた。大型化と言っても今ある一口コンロの要領で三口コンロとそこに乗せる大型の鉄板を用意しただけだ。

三口でこの鉄板を熱して一気に肉を焼けば食事を用意する負担も少しは軽くなるだろう。

「ホント、料理人がほしい。」

風呂用にお湯を出す魔道具も作らないといけないし、ガルドの服と鎧、ついでに剣も新調しないといけない。依頼を受けてくれた冒険者と顔合わせが済んだら明日からでも講習が始まるだろうし。

「そういえば、ウェルズで受けたランクアップの指名依頼で倒した盗賊の持ち物もなんとなくでしか把握してないな。なるべくそれも活用していきたいし、一度しっかり確認して異空間収納の中身の目録を作らないとな。」

本当にやることがあり過ぎて追いつかない。

「小説みたいにポンポンと解決できればいいんだけど上手くいかないもんだな。異世界で人手と言えば奴隷が定番だけど、ここまで仲間は従魔しかいないし今更奴隷っていうのもなぁ~。そもそも奴隷がいるかも分からないし。手先が器用な魔物でもテイムできれば料理を仕込んでみるか。」

これから作る物の順番やこれからの予定を考えながらさっそく作った三口コンロで鉄板を火にかける。解体したばかりのオーク肉から脂を切り出し鉄板に乗せて溶かす。

その間にオーク肉を皿に乗せやすいサイズに切り出しておく。脂が溶け、香ばしい匂いが辺りに漂うと森の方からガサガサと木を揺らし、こちらに向かってくる足音が聞こえてきた。

「匂いに釣られて魔物が来たかな?」

慌てて火を止めて、武器を手に取る。

「(この匂いはガルドさんですよ。)」

傍で日向ぼっこをしていたロアが首を持ち上げ、足音のする方に鼻を向けると匂いを確認してまた頭を降ろす。そしてすぐにロアが言い当てた人物が念話を飛ばしながら森から姿を現した。

「(戻ったぞ。いい匂いだな。)」

森から姿を現したガルドは剣を片手に持ち、何やら背中に担いでいる。

「もう昼だからな。すぐに飯するよ。その背中の奴は?」
「(ブレードファングボアだ。)」

そう言ってガルドが背中から降ろしたのは前世で知っている物の倍程の大きさのイノシシだった。その口元からは湾曲した大きな牙が伸びていた。その牙はブレードファングの名にふさわしく、円錐形の牙ではなく薄く、鋭利でまさに良く研がれたブレードのようだった。しかし、その立派な牙の片方は真ん中の辺りで折れてなくなっている。

「(目が合ったとたんに走ってきたのでな、こう、剣を当てて動きを逸らしたのだ。」

ガルドは手に持った剣を斜めに振り下ろすと風圧で体がわずかに後ろに押される。

「しかし、そのまますぐに失速して倒れてしまってな。勢いは良かったので楽しめると思ったのだがいったいどうしたというのか……。」

ガルドの話を聞いてブレードファングボアを調べるとグニャグニャと頭がありえない方向まで曲がる。

「これは首の骨が折れてるんじゃないか?ガルドの剣を受けて頭がヘンな方に曲がったのか、剣を受けた衝撃を首が支えられなかったのかは分からないけど。」
「(むぅ、そうか。手加減が必要か。)」

どちらにせよガルドの腕力で振るった剣の衝撃がブレードファングボアの首を支える力を大きく上回ったのは確実だ。

「ガルドは進化したばかりでレベルが1だけどステータスが筋力重視で伸びてるし、筋力を上げる装備も付けてるからな。」

俺はガルドと解体班のオーク達にブレードファングボアの血抜きを指示して肉を焼く作業に戻る。鉄板を再び火に掛け、切り出した肉の片面に塩胡椒を振ってから鉄板に並べられるだけ並べて焼いていく。片面が焼けた所でまだ焼いていない面にも塩胡椒を振ってからひっくり返してさらに焼く。

「(むっ、戻ってきたな。)」

第一弾が焼きあがる頃には討伐班全員が各々狼やら兎やら獲物を手に提げて戻ってきた。

「(主君、奥方様。ただいま帰還致しました。成果は御覧の通りです。)」
「(うむ、よくやった。獲物は解体班の指示に従って血抜きをしておけ。)」
「(はっ。)」

目の前に並べられた獲物は全員で食べれば1食分にしかならない量だが売れる物を売れば店で買う時の足しにはなるだろう。そもそも全員が獲物を手に持って帰ってきたのだからこれ以上の成果は持ち帰れないだろ。

「もっと大量に獲物を持ち帰ってもらうためにカバンも用意しないとな。またやることが増えた……。」

俺は第二弾の肉を焼く手を止めずに大きくため息をついて肩を落とした。




焼いた肉の一部を昼飯としてツェマーマン達に差し入れをしてから食事を済ませた俺はガルドを残して討伐班に再び狩りに向かわせる。解体班は午前中に引き続き解体作業だ。

討伐班を見送るとガルドの大剣を作業用の木箱に乗せる。

「もともと両手で振ってたし、片手で振れる今のままだと軽くて物足りないだろ。」
「(うむ。重さだけでなく剣身ももう少し長い方いいのだが。しかし、これ以上の大きさの物などそうないであろう。)」
「そこは俺がどうにかするから。とりあえず、これに手を加えるけどいいよな?」

ガルドの承諾を受けて、大剣に手を添える。まずはこの大剣に付与術エンチャントをいくつ重ね掛けできるかの確認だ。付与する術をイメージしながら魔力で剣身を包み込んでいく。最初に付与するのは切れ味を上げるシャープネス。剣身を包んでいた魔力が剣身に吸い込まれて問題なく付与が完了する。

次に、硬くして強度を上げるハード。剣身をぼんやりと光が包み、先ほどに比べて若干の抵抗を感じながらもその光は剣身に吸い込まれていく。

次が物体の重量を重くするヘビーウェイト。ガルドは重量感のある方が好みなので普通なら重量を軽くするライトウェイトを付与するところだが今回はヘビーウェイトを付与する。強い抵抗を感じつつも力を込めて押し込むと何とか付与が完了した。

もうこれ以上入らないとは思うがもう一つ付与してみる。触れたものを滑らせるスムース。大剣は幅広だから両断出来なくて刃が食い込んだ後に引っかかることもあるだろ。これを欠けておけば両断出来なかった時にすんなり大剣が抜けるはずだ。魔力が剣身を包むが一切入っていかない。

「この大剣に付与するのは3つが限界か……。次は大きさの調整だな。」

生産の極みで魔力を流し、剣身を薄く、刃の部分はさらに薄くして切れ味が上がるように。薄くした分剣身の長さと幅を広げて形を整える。

「うん、加工しても付与術エンチャントはちゃんと剣身に残っているみたいだ。」

鑑定で剣身にエンチャントが掛かっていることを確認してから柄に巻かれた滑り止めの革を外す。むき出しになった柄に鉄のインゴット加えて両手で持てるように長さを伸ばす。長さを伸ばした分滑り止めの長さが足りなくなってしまったので代わりに柄に格子状の溝を刻んでおく。
ついでに柄の根本の大きさを広げ、魔石を嵌める穴を空ける。付与した術が常に発動するように柄から鍔を通して剣身に微量の魔力が流れるように溝を彫る。オークの魔石を加工して穴に嵌め、固定すればとりあえず形になった。

「よし、軽く振ってみてくれ。」

大剣をガルドが両手で握ると振り下ろし、薙ぎ払い、切り上げるように振るう。剣身が薄くなった分、今までの豪快な音ではなく鋭い風切り音が鳴る。

「(うむ。剣身の長さはちょうど良いな。しかし見た目のわりに重量はあるがまだ軽い。それに薄くなった分強度が心配だな。)」
「ハードを付与してあるからそれなりの強度はあるはずだけど……。重量のこともあるからもう少し手を加えるか。剣をこっちに戻してくれ。」

台の上に戻された大剣を見つめて課題を纏める。

「問題なのは重量が軽いことと強度面で不安なこと。他に何かあるか?」
「(そうだな。柄がもう少し太くがなると良いな。)」
「わかった。」

柄の方は簡単だ。鉄のインゴットを追加して柄を太くし、その上から滑り止めに格子状に溝を刻み直せば元の太さより二回りほど太くなった。

「問題は重量と薄さか。これはインゴットを足して厚みを持たせるしかないか。けどただ足すだけだと芸がないよな……。」

何か単純に質量を持たせるよりも良いアイディアが浮かばないかと辺りを見渡す。

「ん?」

そしてある物が目に留まった。

「……これだ!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺は成人してるんだが!?~長命種たちが赤子扱いしてくるが本当に勘弁してほしい~

アイミノ
BL
ブラック企業に務める社畜である鹿野は、ある日突然異世界転移してしまう。転移した先は森のなか、食べる物もなく空腹で途方に暮れているところをエルフの青年に助けられる。 これは長命種ばかりの異世界で、主人公が行く先々「まだ赤子じゃないか!」と言われるのがお決まりになる、少し変わった異世界物語です。 ※BLですがR指定のエッチなシーンはありません、ただ主人公が過剰なくらい可愛がられ、尚且つ主人公や他の登場人物にもカップリングが含まれるため、念の為R15としました。 初投稿ですので至らぬ点が多かったら申し訳ないです。 投稿頻度は亀並です。

束縛系の騎士団長は、部下の僕を束縛する

天災
BL
 イケメン騎士団長の束縛…

強制結婚させられた相手がすきすぎる

よる
BL
※妊娠表現、性行為の描写を含みます。

ゲームの世界で美人すぎる兄が狙われているが

BL
 俺には大好きな兄がいる。3つ年上の高校生の兄。美人で優しいけどおっちょこちょいな可愛い兄だ。  ある日、そんな兄に話題のゲームを進めるとありえない事が起こった。 「あれ?ここってまさか……ゲームの中!?」  モンスターが闊歩する森の中で出会った警備隊に保護されたが、そいつは兄を狙っていたようで………?  重度のブラコン弟が兄を守ろうとしたり、壊れたブラコンの兄が一線越えちゃったりします。高確率でえろです。 ※近親相姦です。バッチリ血の繋がった兄弟です。 ※第三者×兄(弟)描写があります。 ※ヤンデレの闇属性でビッチです。 ※兄の方が優位です。 ※男性向けの表現を含みます。 ※左右非固定なのでコロコロ変わります。固定厨の方は推奨しません。

愛されなかった俺の転生先は激重執着ヤンデレ兄達のもと

糖 溺病
BL
目が覚めると、そこは異世界。 前世で何度も夢に見た異世界生活、今度こそエンジョイしてみせる!ってあれ?なんか俺、転生早々監禁されてね!? 「俺は異世界でエンジョイライフを送るんだぁー!」 激重執着ヤンデレ兄達にトロトロのベタベタに溺愛されるファンタジー物語。 注※微エロ、エロエロ ・初めはそんなエロくないです。 ・初心者注意 ・ちょいちょい細かな訂正入ります。

宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている

飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話 アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。 無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。 ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。 朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。 連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。 ※6/20追記。 少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。 今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。 1話目はちょっと暗めですが………。 宜しかったらお付き合い下さいませ。 多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。 ストックが切れるまで、毎日更新予定です。

運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…

こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』  ある日、教室中に響いた声だ。  ……この言い方には語弊があった。  正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。  テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。  問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。 *当作品はカクヨム様でも掲載しております。

超絶美形な悪役として生まれ変わりました

みるきぃ
BL
転生したのは人気アニメの序盤で消える超絶美形の悪役でした。

処理中です...