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第3章 シュルトーリア

ファイアアント殲滅③

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「落ち着いたか?」

出入口を塞いでホッと一息ついた俺にベルグさんが後ろから近づいて声をかけてきた。

「はい。とりあえ…ずは……。」

振り返ってベルグさんを見るとそこには目が笑っていない笑顔のベルグさんが腕を組んだ仁王立ちでこちらを見下ろしていた。

「それじゃあ説明してくれるよな。今お前がやった非常識行動について。」
「え、えぇ?なにか変な所でもありましたか?」

有無を言わせぬ剣幕だが正直心当たりはない。俺がやったのは時限式の爆発術式を樽に刻んで魔石で起動してから巣穴に落としたぐらいだ。

「……本気でわからねぇって感じだな。いいだろう、説明してやる。」

そういうとベルグさんはドスンと俺の前に胡坐をかいて座った。

「まずはお前さん、樽に何か刻んでたな。巣穴に放りこんでから爆発したところを見ると爆発系の魔法術式だな?」
「そうですけど。」
「まずそれが異常だ。魔法術式は魔法が使えるからと言って簡単に刻めるものじゃない。少しでも歪めば発動しないか暴走して暴発する可能性がある。その手の職人だってきちんとした設備で素材の形状と術式の内容を計算したうえで下書きを書いて刻むんだ。」

そういうことか。俺はそんなのお構いなしのスキル任せでいきなり刻んだからな。

「それと術式の起動に使った魔石、あれはなんだ。道具も使わずに魔石の形を変えたな。それも切ったり削たりせずに元の大きさより明らかに小さくなっていた。余計な部分はどこに消えた。」
「それは余計な部分を取り除いて形を整えたんじゃなくて圧縮して形を作ったので。」
「圧縮だぁ?そんなもん錬金術ギルドの連中が専用の機械を使ってやってる独占技術だぞ!それをなんの設備もなくやってのけたのか!」

余りの剣幕にガルドが間に割って入ろうとするが俺はそれを止める。

「ガルド、大丈夫だから。」
「(む、そうか?)」

ガルドが渋々俺の後ろに下がり、俺はベルグさんに向き直る。

「まぁ、ちょっとスキル頼りでやっただけですよ。」
「フリーハンドで魔法術式刻んだり設備や道具無しで魔石を圧縮したりってどんなスキルだよ。そもそもお前はテイマーだろ。なんで生産系のスキルを持ってんだよ。」
「それは、ほら、従魔用に装備を作りたくて。うちの従魔は3人とも俺が作った特殊効果を付与したアクセサリーを着けてるんですよ。」
「付与までできるのか……。本当にいったいどんなスキルだ。」
「スキルについては詮索しないでください。ベルグさんも面倒事は嫌でしょう?」

女神との契約の対価に強力なスキルを貰ったなんて言えないし、契約の内容が知られたら異端狩りみたいなのにあうかもしれない。

「たまたまいいスキルを持ってるだけですよ。」
「それだけのスキルがあれば生産職で魔道具やらなんやら作って大成功するだろうに、生産職をメインにする気はないのか?」
「ありませんね。俺としてはいろんな所に行ってテイムするモンスターを増やしていきたいんですよ。生産系になったらそれも難しそうですし。基本的に自分たちが使う物を自作するだけにするつもりです。」
「そうか、つまり冒険者を止めるつもりはないと。それじゃあ次にファイアアントの巣に爆弾を投げ入れたのはなんだ?」
「あぁ、あれは別に爆弾ってわけじゃなくて油が詰まった樽なんですよ。その樽に爆発の術式を刻んで巣の中で爆発するようにしました。爆発すると引火しながら油が飛び散って広範囲に燃え広がるようになってるはずです。なので爆発よりも火を焚くことが目的の物です。」
「ファイアアントに火は効かないと何度も言ってるはずだが。」

ベルグさんはため息をつきながら一度俯くと顔をあげてギロリとこちらを睨みつけた。正直怖いんで止めてもらいたいが説明せずにベルグさんを無視して実行した俺が悪いので甘んじて受けておく。

「べつにファイアアントを燃やして倒そうっていわけじゃなくて。巣の中で火を焚くことで酸素をなくして窒息させるのが目的です。」
「サン、ソ?サンソってなんだ?」

ん?酸素がわからない?この世界ではそこまで文明というか常識というか教育というかそういう物が進んでいないのか。

「酸素ですね。酸素というのは空気に含まれてる成分のうちの1つのことです。人は呼吸しないと死んじゃいますよね。」
「当然だろ。」
「しかし、呼吸で吸っている空気のなかで必要なのは空気に含まれる酸素です。たとえ呼吸できても空気に酸素が必要なだけ含まれていないと同じように死んでしまいます。これは生き物であればほぼ変わりません。」
「……それが巣の中で火を焚くのと何の関係がある。」
「酸素は生き物の呼吸だけじゃなくて火が燃える時にも使われます。当然酸素は使われると減っていきますのでこうして出口を塞いで密封した場所で火を焚けば酸素はどんどん使われて減っていき、呼吸に使う分がなくなっていきます。」
「いくら息を吸ってもその酸素ってのなければ意味が無くて死んじまうってわけか。」
「そういうことです。」

俺は大きく頷いてた。

「お前はそんな知識をどこで学んできた。俺は今までこんな話は聞いたことがない。知っているのは高位の研究者くらいだろ。」
「……それも詮索しないでください。」
「はぁ~、まぁいい。問題を起こさずに真面目に依頼をこなすなら目を瞑っておいてやる。」
「ありがとうございます。」
「それで、いつまで待ってればいいんだ?」

そういわれて俺も油の燃焼時間や酸素がなくなるまでの時間に心当たりがないことに気が付いた。

「……さぁ?」
「おいおい……。」
「と、とりあえず、巣に戻ってくるファイアアントを倒しながら時間を潰して、昼ごはん食べてから開けてみましょうか?」
「しょうがねぇ、そうするか。」

こうして俺達は巣に戻ってくるファイアアントを狩りながら昼まで時間を潰した。
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