上 下
43 / 108
第2章 成長

急な出発

しおりを挟む
審判の開始宣言と同時に俺が左腕を一番前にいる大楯を構えた男に向けるとバラムは砲身を伸ばして圧縮した酸弾を飛ばした。

「ぐぁぁ!」

酸弾は盾を貫通すると男の太ももまでも貫き、男はバランスを崩して倒れた。バラムはさらに酸弾を男の両肩に打ち込み盾を持てないようにした。

男の絶叫が響くとガルドとロアが相手に向かって駆け出した。

ロアは剣士の脇を抜け、魔法使いに詰め寄ると爪を立てた前足を横に振り抜く。
魔法使いにロアの一撃を躱せるわけもなく振りぬいた前足は魔法使いの杖と一緒に杖を握っていた右腕を引き裂いた。

ガルドは背負った大剣を引き抜きながら魔法使いの方に気を取られていた剣士詰め寄り、それを一気に振り下ろす。
大剣は剣士がとっさに構えた剣で受け止め、僧侶の子が何かしらの補助魔法を使ったのか剣士の体に薄い光の膜が張られる。
しかし、大剣の重さとガルドのSTRの前に受けた剣は耐えきれずに砕け、剣士の左腕が切り落とされた。

俺は右腕を僧侶の子に向けて突き出すとショックの魔法で僧侶の子を包んで気絶させた。

「そこまで!」

審判の宣言を聞き、俺はロアとガルドを下がらせる。

「(ご主人様、もういいんですか?)」
「(あぁ、審判が決着を宣言したからな。)」

あまりに一方的な結果に試合を見ていた周囲から様々な視線が向けられ、よく聞こえないがコソコソの何かを話しているのが聞こえる。
俺はガルドとロアをディメンジョンルームに戻すと入り口を閉じて、ケガの具合を確認する審判に近づくと命に別状がないこと、俺の勝利に間違いないことを確認して治療の完了を待たずに訓練場を出た。

俺はそのまま総合カウンターに向かい、以前聞いたランクB以上の魔物が出る国の反対側へのルートを確認した。

「それでしたらこちらの地図をお使いください。」

受付嬢がカウンターに置いたのは地形も何も書いていないただ白地図に何か所か点マークが打たれたものだった。

「白地図はギルドで銅貨5枚で販売している物です。こちらの白地図は今朝ギルドマスターからタカシ様にお渡しするように預かったものです。こちらのマークはギルド支部がある街を指しています。」
「ありがとうございます。ですが貰っていいんですか?」

地図や街の位置は重要な情報のはずだ。ギルド支部がある街ならそれなりの規模の街だろう。

「このくらいでしたら問題ありません。位置を示してるだけで地形や道は書き込まれていませんから。それらの書き込みはご自由ですが紛失にはお気を付けください。」
「わかりました、ありがとうございます。すぐに次の街に向かうことにします。」
「すぐですか?旅の支度はきちんとした方がいいですよ。」
「必要なものは少しずつ買って異空間収納に蓄えてありますから大丈夫ですよ。それにさっきの試合でちょっとやり過ぎたので。お互い合意の試合とはいえ逆恨みも怖いですしね。急な出発になるのでお世話になった人に挨拶できないのが心残りですけど」
「そうですか。冒険者宛てでしたらこちらで伝言を預かることもできますよ。」
「それでしたらスコルピオというパーティに伝言を頼めませんか?」
「スコルピオですね。かしこまりました。伝言内容をどうぞ。」
「『ちょっと騒ぎを起こしてしまって居心地が悪くなりそうなので急ですが街を出て予定していた旅に出ます。これまで良くしていただいてありがとうございます。お世話になりました。』とお願いします。」
「……はい、承りました。」
「よろしくお願いします。じゃあ俺はこれで失礼します。」
「はい、お気をつけて。」

俺は一度宿に戻り、連泊を解約するとそのまま街を出た。

門から少し離れたところでディメンジョンルームを開いて3人を外に出す。

「(それじゃあ、次の街に向かうぞ。とりあえず道沿いにずっと行く。)」

俺はバラム、ガルドと一緒にロアに乗ると手綱をしっかりと握る。

「(それじゃあ行きますよ。しっかり捕まっててくださいね。)」

ロアは少しずつ速度を上げて街道を走る。すぐに隣村が見え、そのまま通り過ぎると盗賊討伐で森に入った辺りまで来た。空を見上げると太陽がちょうど真上に来ている。

「(ここらでお昼にしよう。)」
「(わかりました。)」

ロアが少しずつ速度を緩めてゆっくりと止まる。ロアから降りると前々から少しずつ準備しておいた敷物やテーブル替わりの木箱、食器を収納から取り出していく。

「(お昼は宿で少しずつ作り置きしておいたオークステーキだ。)」
「(わーい!)」
「(ふむ、干し肉も買い溜めしていたと思ったが。そちらでなくていいのか?)」
「(あぁ。そっちはいざ食糧が足りなくなった時とか、この間の盗賊の時みたいに保護した人に分け与える用だな。)」

俺は皿にオークステーキを取り出して配膳を済ませるとガルド、ロアと一緒に食事を始めた。ガルドは今では器用にナイフとフォークを使い食事を取れるようになった。

「(うむ、うまいな。)」
「(ただ焼いただけだけどな。)」
「(妻の手作りだということが重要なのだ。)」

食事をしながらガルドのこっぱずかしいセリフに思わず苦笑いする。

「(俺が作ったってだけじゃなくて本当にうまいと思ってもらえるように少し手の込んだものにも挑戦するかな。)」

前世では一人暮らしだったし自炊もしていたから宿や食堂の料理ほどではないがそれなりに料理はできるだろう。

「(それは楽しみだ。)」
「(僕も食べたいです。)」
「(じゃあ、大きな町についたら食材を買い込んで料理してみるか。)」

俺達は食休みを挟んでから移動を再開し、2日目の昼に次の街に辿り着いた。


============================================
あとがき

悩みつつ、勢いで書きつつやっていたら急展開で街を出ることになってしまいました。
正直自分でも書きながら話の展開に戸惑っていますがこれからも読んでいただければ幸いです。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】溺愛される公爵令嬢は鈍すぎて王子の腹黒に気づかない

かぐや
恋愛
公爵令嬢シャルロットは、まだデビューしていないにも関わらず社交界で噂になる程美しいと評判の娘であった。それは子供の頃からで、本人にはその自覚は全く無いうえ、純真過ぎて幾度も簡単に拐われかけていた。幼少期からの婚約者である幼なじみのマリウス王子を始め、周りの者が シャルロットを護る為いろいろと奮闘する。そんなお話になる予定です。溺愛系えろラブコメです。 女性が少なく子を増やす為、性に寛容で一妻多夫など婚姻の形は多様。女性大事の世界で、体も中身もかなり早熟の為13歳でも16.7歳くらいの感じで、主人公以外の女子がイケイケです。全くもってえっちでけしからん世界です。 設定ゆるいです。 出来るだけ深く考えず気軽〜に読んで頂けたら助かります。コメディなんです。 ちょいR18には※を付けます。 本番R18には☆つけます。 ※直接的な表現や、ちょこっとお下品な時もあります。あとガッツリ近親相姦や、複数プレイがあります。この世界では家族でも親以外は結婚も何でもありなのです。ツッコミ禁止でお願いします。 苦手な方はお戻りください。 基本、溺愛えろコメディなので主人公が辛い事はしません。

西谷夫妻の新婚事情~元教え子は元担任教師に溺愛される~

雪宮凛
恋愛
結婚し、西谷明人の姓を名乗り始めて三か月。舞香は今日も、新妻としての役目を果たそうと必死になる。 元高校の担任教師×元不良女子高生の、とある新婚生活の一幕。 ※ムーンライトノベルズ様にも、同じ作品を転載しています。

落ちろと願った悪役がいなくなった後の世界で

黄金 
BL
悪役ツビィロランに異世界転移した主人公は、天空白露という空に浮かぶ島で進む乙女ゲームの世界にきていた。 きて早々殺されて、目が覚めるとお助けキャラのイツズが自分の死体を埋めるのだと言っている。 これは前世で主人公の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界で、悪役が断罪されたところから始まる。 地上に逃げたツビィロランとイツズは、それから十年穏やかに過ごしていたのに……。 ※やっぱり異世界転移(転生)ものは楽しいですね〜。ということで異世界ものです。

こころ・ぽかぽか 〜お金以外の僕の価値〜

かんこ
BL
親のギャンブル代を稼ぐため身体を売らされていた奏、 ある日、両親は奏を迎えにホテルに来る途中交通事故で他界。 親の友達だからと渋々参加した葬式で奏と斗真は出会う。 斗真から安心感を知るが裏切られることを恐れ前に進めない。 もどかしいけど支えたい。 そんな恋愛ストーリー。 登場人物 福田 奏(ふくだ かなで) 11歳 両親がギャンブルにハマり金を稼ぐため毎日身体を売って生活していた。 虐待を受けていた。 対人恐怖症 身長:132cm 髪は肩にかかるくらいの長さ、色白、目が大きくて女の子に間違えるくらい可愛い顔立ち。髪と目が少し茶色。 向井 斗真(むかい とうま)26歳 職業はプログラマー 一人暮らし 高2の時、2歳の奏とは会ったことがあったがそれ以降会っていなかった。 身長:178cm 細身、髪は短めでダークブラウン。 小林 透(こばやし とおる)26歳 精神科医 斗真とは高校の時からの友達 身長:175cm 向井 直人(むかい なおと) 斗真の父 向井 美香(むかい みか) 斗真の母 向井 杏美(むかい あみ)17歳 斗真の妹 登場人物はまだ増える予定です。 その都度紹介していきます。

嘘つき預言者は敵国の黒仮面将軍に執着される

花月
恋愛
『この執着は愛なのか?それとも神々の思惑なのか...』 どうやらわたしは『亡国の皇子』という小説の中の数行で終わるチョイ役の雑魚キャラ――ゼピウス国第二王女マヤに転生してしまった。 預言者だったマヤ王女はその予言内容にどうやら嘘をつきまくっていたらしい。 仇キャラであるニキアス=レオス将軍の婚約者であった彼女は、小説『亡国の皇子』の途中で嘘がバレてニキアスに処女を奪われ殺される運命だった。 分かっていて殺されるのは勘弁して欲しい。こうなったらニキアスに殺されずにすむ道を探すしかないわ…ってそんな簡単にいかなかった。 小説の展開とは全く異なり、ニキアスに執着され始めて…話は別の方向へと進み始めていく。 ――単純な生まれ変わりの展開だと思っていたのに実際は神々の人間の思惑とが絡み合い出して…あら?これって恋愛小説じゃなかったっけ? *この物語はフィクションです。 暴力・流血・乱暴(性)・近親相姦表現等有りますが、決して推奨するものではありません。どうぞ宜しくお願いします。 *なろうにも改稿前のが掲載されています。 こちらにはストーリーは変わりませんが改稿後のを載せています。

転生皇太子は、虐待され生命力を奪われた聖女を救い溺愛する。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

【R18】両想いでいつもいちゃいちゃしてる幼馴染の勇者と魔王が性魔法の自習をする話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 「両想いでいつもいちゃいちゃしてる幼馴染の勇者と魔王が初めてのエッチをする話」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/575414884/episode/3378453 の続きです。 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

自称ヒロインに「あなたはモブよ!」と言われましたが、私はモブで構いません!!

ゆずこしょう
恋愛
ティアナ・ノヴァ(15)には1人の変わった友人がいる。 ニーナ・ルルー同じ年で小さい頃からわたしの後ろばかり追ってくる、少しめんどくさい赤毛の少女だ。 そしていつも去り際に一言。 「私はヒロインなの!あなたはモブよ!」 ティアナは思う。 別に物語じゃないのだし、モブでいいのではないだろうか… そんな一言を言われるのにも飽きてきたので私は学院生活の3年間ニーナから隠れ切ることに決めた。

処理中です...