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とりあえず隠せ!
⑶
しおりを挟むこんなに早く気付かれるなんて、予想外だった。それに、律儀に鍋蓋を使ってるなんて…。気が動転して、今度は一人で転げた。
そして後頭部を強打した私は、脳震盪により意識が朦朧とし始める。
「…大丈夫か!?」
遥か彼方から天の声が降ってくるが、私の命もここまでか…。おチン討伐に失敗した勇者トーコ・コヤナーギは、戦場で敗れ天に召された。
小柳 透子。三十二歳。元恋人に裏切られ、何とか死守した我が城にて、夜盗の襲撃により、勇者の盾『シルバ』を奪われ、勇者の剣『オッタマーン』で交戦しようと試みたものの、敵の不意打ち攻撃を食らった後に戦死…。
――――「…いったいこれはどういう構造なのだろうか。魔法石が動力ではないのか?」
死者蘇生。チート系の魔術が存在するのだとすれば、たぶんそれが行使されたのだろう。
死んだ筈だったのに、瞼を開く事が出来た。そして一番初めに目に入った景色は、真っ白な天井である。
そして、背中はふかふか…。ゆっくりと腰を起こせば、外は明るい。
「あれ…私いつの間に寝てたんだ?」
窓の外には、お隣さんとを隔てる生い茂った木々が見える。どうやらリビングのソファーで寝落ちしてしまったらしい。
虚ろな目で辺りを見渡すと、足元にお玉が転がっていた。それを拾い上げれば、背中に激痛が走る。
「痛ててててっ」
「あっ、やっと目覚めたか。」
一人暮らしの筈なのに、知らない男の声が聞こえてきた。二日酔いによる幻聴だろうか…。
頭は痛いし、なんなら全身筋肉痛だし…。昨日飲みすぎて、こんな場所で寝てしまったから、寝違えでもしたのだろう。
さあ起きて、顔を洗って、朝食を食べて、一仕事して、昼寝して、買い物に出かけて~今夜の晩酌用の肴の支度をしなくては…。
地に足ついて、さあ立ち上がれば、私の目の前に壁が出現した。
「そなた、体は大丈夫か?昨日は夜分にすまなかった。」
「…はへ?」
何かの見間違いか?そして聞き間違いか?正面の壁は、肌色で…そしてキノコが生えてると来た。
デジャブ!!いや、見覚えがある!!
恐る恐ると、見上げれば…そこには異国のイケメンの顔。
「昨日は怖がらせて申し訳なかった。それと…着るものを拝借しようとして、部屋を徘徊してしまったのだが、何も見当たらなくてな…差支えなければ、またあの盾を借りてもよいだろうか?」
とても堂々としたその姿を前に、私は思考停止中。
どうして幻の男が居るのだろうか…まだ夢の中なのか?
夢ならば…と思い切って、目の前のシックスパックへと手を伸ばすと、ペタペタと触りまくった。
「随分と生々しい壁だな。」
「貴女は腹筋が好みなのか?」
「…なぜ、壁が喋ってんだ?う~ん。」
「壁ではない。私だ…。」
「そうか、夢だもんな。ものが喋ったって何ら可笑しくはないか…あっはっは~。」
「壁では無い。我が名は、アルフォンス・ノルン・プルタニアだ。」
「…。」
――――な、なんだって!?
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