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とりあえず隠せ!

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 こんなに早く気付かれるなんて、予想外だった。それに、律儀に鍋蓋を使ってるなんて…。気が動転して、今度は一人で転げた。

 そして後頭部を強打した私は、脳震盪により意識が朦朧とし始める。

「…大丈夫か!?」

 遥か彼方から天の声が降ってくるが、私の命もここまでか…。おチン討伐に失敗した勇者トーコ・コヤナーギは、戦場で敗れ天に召された。


 小柳 透子。三十二歳。元恋人に裏切られ、何とか死守した我が城にて、夜盗の襲撃により、勇者の盾『シルバ』を奪われ、勇者の剣『オッタマーン』で交戦しようと試みたものの、敵の不意打ち攻撃を食らった後に戦死…。

 





――――「…いったいこれはどういう構造なのだろうか。魔法石が動力ではないのか?」

 死者蘇生。チート系の魔術が存在するのだとすれば、たぶんそれが行使されたのだろう。
 
 死んだ筈だったのに、瞼を開く事が出来た。そして一番初めに目に入った景色は、真っ白な天井である。

 そして、背中はふかふか…。ゆっくりと腰を起こせば、外は明るい。

「あれ…私いつの間に寝てたんだ?」

 窓の外には、お隣さんとを隔てる生い茂った木々が見える。どうやらリビングのソファーで寝落ちしてしまったらしい。

 虚ろな目で辺りを見渡すと、足元にお玉が転がっていた。それを拾い上げれば、背中に激痛が走る。

「痛ててててっ」

「あっ、やっと目覚めたか。」

 一人暮らしの筈なのに、知らない男の声が聞こえてきた。二日酔いによる幻聴だろうか…。

 頭は痛いし、なんなら全身筋肉痛だし…。昨日飲みすぎて、こんな場所で寝てしまったから、寝違えでもしたのだろう。

 さあ起きて、顔を洗って、朝食を食べて、一仕事して、昼寝して、買い物に出かけて~今夜の晩酌用の肴の支度をしなくては…。

 地に足ついて、さあ立ち上がれば、私の目の前に壁が出現した。


「そなた、体は大丈夫か?昨日は夜分にすまなかった。」

「…はへ?」

 何かの見間違いか?そして聞き間違いか?正面の壁は、肌色で…そしてキノコが生えてると来た。

 デジャブ!!いや、見覚えがある!!

 恐る恐ると、見上げれば…そこには異国のイケメンの顔。

「昨日は怖がらせて申し訳なかった。それと…着るものを拝借しようとして、部屋を徘徊してしまったのだが、何も見当たらなくてな…差支えなければ、またあの盾を借りてもよいだろうか?」

 とても堂々としたその姿を前に、私は思考停止中。

 どうして幻の男が居るのだろうか…まだ夢の中なのか?

 夢ならば…と思い切って、目の前のシックスパックへと手を伸ばすと、ペタペタと触りまくった。

「随分と生々しい壁だな。」

「貴女は腹筋が好みなのか?」

「…なぜ、壁が喋ってんだ?う~ん。」

「壁ではない。私だ…。」

「そうか、夢だもんな。ものが喋ったって何ら可笑しくはないか…あっはっは~。」

「壁では無い。我が名は、アルフォンス・ノルン・プルタニアだ。」

「…。」



――――な、なんだって!?



  
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