異世界王子のシェアライフ

とりあえず隠せ！

⑴

　私の名前は小柳 透子。つい先日、婚約中だった男に浮気された挙句、呆気なく別れを切り出された可哀想な三十路越えの女である。

　新婚生活の為に、私が・・購入した一軒家を危うく奪われそうになったが、被害者である私は、当たり前なのだが慰謝料としてこの城を手放さずに済んだ訳だ。

　この際なので住もうと決めた私は、先週からお一人様ライフを始めたのだったが…。

　元婚約者への積もった鬱憤を晴らす為に、自棄酒をしていたら、夜も更けた時間だというのに、窓ガラスを叩き、叫ぶ全裸の男が見えた…


「あーこれ、幻か。飲み過ぎで酔っ払ってるんだな…うん。とりあえず飲もう。」

　
　ゴクりと喉を鳴らしてレモン酎ハイを飲み込めば、その爽快感に浸る。

　最近、そういう桃色的なアクションが無かったから、欲求不満なのだろう。元彼との体の相性が良くなかったから、きっと願望が妄想となって、あんな…


「お、おいっ！無視するでない。」


　未だに消えないムキムキボディ…金髪白人系の色男。チン◯が立派だ。うんうん…あんなの挿入されたらきっと、壊れちゃう。

…じゃ、なくて。「ちょっと、これ絶対に現実リアルでしょ‼︎」


　私は缶をテーブルに置くと、キッチンへと走った。

　戸棚から鍋蓋と…武器になりそうなものを手にすると、リビングを突っ切り窓の前で威嚇した。

「さっ…さと！出て行きなさい‼︎この露出狂っ！」

　今の私に怖いものがあるとすれば、元彼よりも、その元カレの今カノよりも…得体の知れない人間の方が数百倍怖いものさ。


　一枚のガラスを隔てるが、私よりも遥かにデカい身長と…チンちょ…いやいや、今はソコを見ちゃ駄目だ‼︎

　いや、ソコとアソコを掛けてる訳じゃーない！


「頼む、とりあえず開けてくれ‼︎追われてるんだッ‼︎」

　そりゃそうだろ。こんな住宅街に全裸なんて、通報されない筈がない。

「出て行け！この変態っ！さもなくば…」

　さもなくば、と勢い任せに窓の鍵を解除する。そして、この…この…。右手に握り締めた…出刃包丁で…私は手元へと視線を向ける。

　てっきり包丁を握った筈が、「なんで、お玉なのよ～‼︎」


　私が施錠を解いた刹那、外の露出狂が窓を開けて、雪崩れ込んできた。

　そのまま私を巻き込み、押し倒されてしまった。

　強打し背中を襲う激痛に、声にならない叫び声をあげる。

「…どこに逃げた。この辺にまだ潜んでるかもしれない…。」

　外から聞こえてきたのは、複数の男の声と走り去る足音。

　そして、今し方私の上から退かない露出狂を見て、恐怖の余り涙が溢れた。


「す、すまない。…今退く。」


　床に手を突いて起き上がった男。そして見下ろされて、その男の顔を見て…そのまま視線が降下していく…。


「ち、ち、ち、ちちちんこここここっ‼︎」

　左手で握った鍋蓋を振り上げて、男の局部を覆い被せると、男は「あ、すまない。」と私の手から鍋蓋を奪い去り、自らソコを隠し始めたのだった。