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3、古豪の嘲笑
他人の欺瞞⑷
しおりを挟む榑林の屋敷内の内装が薄い筈はないのだが、ここは執事。時に、主人に代わり危ない橋も渡る。
そんな経験を経た彼の耳は、何処かの国の民族並の聴覚を保持していると思われる。
「.....ぃやっ、だめっ....そんな、ぁあああっ」
明らかに、女性の淫らな声が聴こえてくると、入間はゴクリと喉を鳴らす。
中でいったい何が起こっているのだろうか。妄想を繰り広げれば、浮かんでくる夏芽と榑林の“あんな事や”“こんな事”の数々。
あのメイドを特別扱いしているとは思っていたが、まさか....そのまさかだ。カラダにまで手を出しているなんて....。
「....いい子にしないと俺のをあげないぞ?」
「それは嫌ですっ....早く、欲しいですっ....。」
嗚呼、何をやっているんだ。こんな真昼間から。
入間は妄想で、夏芽の裸体を思い浮かべて、乱れる様子が延々流れ続け、にやけ出す顔を押え付けると、顔がくしゃりと強張っていた。
着飾らない有りの儘の美。化粧気が無くとも、彼女が美人なのは見て分かる。だがしかし何か鎧を纏っている様な感じが、彼女の内なる可能性を打ち消す。
無表情の夏芽は、とても近寄り難いが。
少しでも表情を変えれば、それは彼女の硬いイメージを払拭していた。
――――あれは化けるぞ。と妄想の夏芽は、入間好みのナイスバディへと変貌を遂げるが....その妄想とやらに登場する夏芽は、本人の体型と瓜二つなのである。
主人からの命令は、あのメイドを榑林から引き離す事だ。
自分の容姿には自身が有る。今まで数々の使用人たち並びに、財界の重鎮からお声が掛かったことか....。
女を落とす方法は、これと言って正解が分からないが、自分に迫られて落ちない女は居ないであろう。
そんな自信で一杯の入間。
今回この屋敷には、御嬢様を迎えに来るだけの筈だったが、これはとんだ儲けものだ。
普段は仕事柄、女性と戯れる暇さえ与えられていない。
これは仕事という名の休暇なのだろうか。
一人の女を落とせば良い。そしてあわよくば、その女を好きにしていいのだ。
性欲は多い方だ。現に、彼は夏芽の声だけで興奮状態である。
他の男が鳴かせた雌。もしも自分が鳴かせる番が来たら、どうしてしまおうか。
「....ぁっ、ひどいっ....坊ちゃまのバカっ....。」
もう駄目だ。聴いてるだけで頭が可笑しくなってくる。
こんな美味しい案件を出した御嬢様には感謝したいものだ。
普段は我儘で、自分の事を只の駒として見ている女だが、この時ばかりは、さっさと手籠めにしてやるだけやって、欲を消費し切ったら、さっさとずらかろう。
御嬢様の目的は、メイドが居ない内に既成事実でも作るおつもりなのだろう。
それはそれ、これはこれ。別に彼女が成功するか否かは関係ない。
自分が成功すればそれでいいのだ。
もしも、榑林が御嬢様を否定しようとも自分には関係ない。
入間に言い渡されたのは、夏芽という存在を榑林から遠ざけて、気持ちを薄れさせる事だ。
....そろそろいいかな。
入間はニタリと笑みを浮かべると、態とらしく大声を上げて、夏芽の救出へと繰り出した。
豪華な室内が視界に映る。
大型液晶テレビ
充分な大きさのテーブル
広々と足を伸ばせるソファー
そして天蓋付きのキングサイズのベッド
「藤さん!!だいじょ....ぉぶ、で....すか?」
勢い任せに開いた扉
思わず肩から力が抜けていく
目の前で繰り広げられている光景は
衣類が肌蹴ていない彼女の姿
その子はテーブルの上に座らされ
正面には、双子のどちらかが手を着いて包囲していた
「ほら、欲しいんだろ?」
榑林の手には、洋菓子が摘ままれており
それを夏芽の口元に運ぶと
左右に揺さぶりを掛ける。
「何か用か?」
入間の入室に気が付いたもう一方の男が
威嚇する様な低い声で出迎えた
あれ?見誤ったか。
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