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3、古豪の嘲笑
他人の欺瞞⑴
しおりを挟むここは、名家【榑林】が保有する御屋敷の内の一つ。
美しい花々、生い茂る木々。周囲の森には、多種多様の生き物たちが共存する。
そして異国の庭園を彷彿とさせる敷地内は、御屋敷に勤めます人員が手入れをしております。
ですが、季節柄の悪天候がこの場所を襲っておりました。
豪雨、落雷、強風。三種の影響により、被害を蒙る御庭。
薔薇のアーチは、物の見事に花弁を吹き飛ばし、噴水は雨水で濁り出す。
森から吹き飛ばされてきた小枝が巻き散ると、その内の一本が、駐車してございます一台の車へと衝突すると、大きな傷を残しました。
「―――――貴女いったい何様ですの!?」
屋敷の外が悪天候で被害を蒙っている最中、
昨日から宿泊してございます榊原 静香様の怒号が屋敷内で響き渡った。
早朝から客間に出現した黒い彼奴の所為で、騒然とした現場。
今彼等は、新たなる客人【イルマ】を交えた事により、開かずの間であったダイニングルームへと移動していた。
広々とした室内に、十数人は余裕で会食が出来るであろう規模の大テーブル。
上座に御着席して御座いますのは、榑林の御曹司で御座います【天真】と【蒼真】。
彼等は、静香嬢を騙す為に、順を入れ替わって御座います....。
そして、対に座って御座います榊原 静香。その背後に控えて立つのは、燕尾服を御召になられてございます執事の【イルマ】だ。
静香専用のヘルシーな朝食は、この場に移されていた。
屋敷の主人等の前には、彼等専用のもの。
「蒼真さん?そちらの女性は、何故御膳を共にしていらっしゃるのかしら?」
それは高圧的な睨みを加えた貴女。
目先では、下女が主人の御膝の上に抱えられている絵図。
上座の天真に捕まってしまった夏芽は、今にも気絶してしまいそうな程に、顔面は蒼白とし視線は定まらない。
御嬢様は、夏芽を追い払おうと致しますが、天真は何食わぬ顔でそれを往なした。
客間で逃げそびれたメイドは、そのまま連行され高貴な場に居座る。
ですが、夏芽の争奪戦を制したのは、弟君。
敗北した兄は、隣から弟を睨むが、その膝の上に座る夏芽を一目視界へと入れると、表情は緩む。
「御嬢様、朝から騒々しいですよ。」
「貴方は黙ってなさい。これは忌々しき事態ですのよ?」
何故、一介の下女がこの場に....。
彼女が知りたい事は、そんな事と、あんな事。
上流階級では日常茶飯事とされている火遊び。
でも、そのリスキーな遊びも、闇の中に葬られる事で御座います。
普通なら、このような待遇は有得ないことなのです。
「静香さん、この子は特別なんですよ。」
そして見せつける様に、夏芽の肩に顎を乗せた天真は、高圧的な御嬢様に挑む。
心の中では、『黙れ、糞女。』と言い放つ。
榑林の御曹司が、堂々と振舞う姿を目にした執事は、この修羅場とも呼べるこの場を見渡すと、密かに舌舐めずりをした。
旨い、実に美味い。性根がひん曲がった執事は、この場の誰の味方なので御座いましょうか。
事を辿れば、何故夏芽が客間に、あの様な状況に陥っていたのか。
給仕の手伝い。彼女は人目に触れない筈だったのだ。
榊原の部屋へと朝食を届けたのは、その他メイドが一名。そして夏芽は、部屋の目の前までは運ぶ手伝いをしていた。
「夏芽ちゃん、有難うね。」
「いえ、こちらこそすみません。こんな身形なもので....。」
我儘な御嬢様のオーダー通りに、ヘルシー且つ栄養満点なサラダをメインとした健康的な食事。
品目は榑林の料理人の腕が鳴る。売られた喧嘩は買うらしい。
先輩メイドが無事に配膳を終えて、丁寧に頭を下げて客間から立ち去る。
傍らで見守っていた夏芽は、呆然とその姿を眺めて、先輩が安堵すると、自身も同じく息を吐いた。
カートを押しながら、その場からバックヤードへと戻る二人。
だがしかし、背後から密かに聴こえてきた悲鳴とも思える声に、夏芽は瞬時に気付き振り返った。
「ん?どうしたの?」
夏芽が立ち止まった事に、先輩メイドが気付き声を掛けた。
「いや....なんですかね。ちょっと様子を窺ってきます。」
「え....夏芽ちゃん?」
「先に戻っててください。直ぐに戻りますので。」
彼女が気付かなければ、きっと彼奴に遭遇して、部屋から出れない状況には陥らなかったであろう。
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