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1、双極の戯言

下女の剣幕⑵

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榑林家が保有する財産のほんの一部、本家屋敷とは別に、複数の別荘がございます。


北は北海道、南は沖縄、離島まで....


ここは、何処でしょうか。周りには森が広がり、集落は近隣には御座いません。




そんな辺鄙な土地ですので、毎日毎日、この榑林家には物資を配送するトラックがやって来ます。



屋敷の主で御座います、蒼真坊っちゃま、天真坊っちゃま、お二人分では到底消費し切れぬ程の食料品に、趣味の洋服集め、そしてよく分からぬ謎の段ボールが一点紛れ込む。


はて、その中身が何なのか、使用人達は疑問を抱くものの....




送り元が、大層な名家からとなると、プライベートな事ですので、おほほほほ....





榑林の次期当主の居場所を突き止めたらしい、何処ぞやの御令嬢様は、執拗に彼等を射止めにやって来る模様。






「なんですか、この怪しい段ボール。」



「ダメよ~夏芽ちゃん。私たち使用人はノータッチ。それ坊っちゃまにしっかり渡してちょうだいね。」





ただのメイドは、その怪しげな段ボールを抱えながら、坊っちゃま方のお部屋へと向かうのだった。





夏芽の背丈は、女性の平均そのもの。少しばかり痩せ細ったフォルムながら、胸部はまあまあ大きい。



「クッソっ....」



米俵でも担いでいるかと思う程の重量感と箱の大きさに、自身の巨乳を恨んだ。



まともに前が見えずに、階段を登り廊下をちまちまと進む。



坊っちゃま付きになると言うことは、つまり彼等....(蒼真のみの筈)の身の回りのお手伝い、お世話などを引き受けなければならない。




「坊っちゃまお荷物です。」



何処ぞやの御令嬢だか知らないが、夏芽は容赦無しに床へとそれを勢いよく落とした。



すると、中からガッシャンッ‼︎と、中身が割れた様な異音が響き渡った。





「お前、昼飯取りに行くのに何時間待たせる気だよ....って、俺の飯は⁉︎」



テレビの前でソファーに座りながら、大人しく夏芽を待っていたであろう天真。


やっと帰って来たかと思えば、その腕に抱えられていたのは、大きな段ボール。


そして、それを放り投げたかの様にも取れる夏芽の動作....



「あー、すみません。うっかり忘れてました。」


「え、嗚呼....。そうか。」


「とりあえず今から戻って、作ってもらって来ますね。」


「ちょっ....?」




何事も無かったかの様に来た道を引き返していった夏芽。



何を考えているのでしょうか....




「何だこれ....。」



夏芽が持ってきた段ボールの側に寄った天真は、贈り主を見るや否や顔色が青褪めていった。




国内外に名を轟かすお金持ち【榑林】とお近付きになりたい御家は数多く居る。


本家の血筋を持つ蒼真と天真となれば、引く手数多の御令嬢達が、彼等にアプローチを仕掛け、あわよくば婚姻を結びたい限りなのだ。



彼等がこの屋敷で暮らす理由とは?






唯一無二の淑女を見定める為に、とは建前で、ただ御令嬢達の魔の手から逃れたかったと言うのが正しいであろう。




何処からか戻ってきた蒼真は、室内で青褪める天真を見つけると、その視線の先、即ち足元に大きな段ボールを見つける。




「どうした?」



「....榊原が来る。」




それは嵐の前の静けさか、夏芽という新しい玩具を見つけた彼等の前に立ち塞がるのは、榑林までとは行かないが、そこそこ以上の名家の御令嬢からの贈り物でありました。



蒼真は、無言でその箱の封を切ると、中には大々的に破損した花瓶が入っていた。





「なんだ、割れてるじゃないか。」


榊原が贈るとなれば、それなりに高価な品物で間違いのであろうが、ものの見事に原型は留めておらず。




「あの女が割った。」


「....ハハッ‼︎マジか。」




蒼真は盛大に笑い、その悪行を責める事なく、内心では出来した!などと一泡吹く。



そんな事などつゆ知らず、夏芽はキッチンで彼等の昼食の準備に取り掛かりながら、涎を垂らしていたのである。





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