上 下
8 / 11

8話

しおりを挟む


当時の私が嫌いだったものは、婚活よりも勉学を取った娘が気に食わない両親と、認められたいが為に一位を目指しているのに手強く首席に居座る公爵家令息だった。


「———・・・ねぇ、あの約束は本当なのよね⁉︎」


大嫌いなコルセットを締めて、咽せ返る様な入り混じった香水の臭いに堪える。隣の男の堂々っぷりは、やはり育ちを感じるものだ。

眉間をぴくりとも動かさない。その一方で私は、羽付の扇で口元を隠しながら隣のエレノアと会話していた。

「嗚呼、僕は嘘は吐かない。」
「分かったわ、信じる。」
「・・・ありがとう。」


先日、憎き首席のモテ男『エレノア』から舞踏会のパートナーに誘われ、拒もうとした時に提案されたのが・・・。

「君の両親を欺くにも、僕はぴったりの相手じゃないだろうか?」

それはぐうの音も出ない。願ったり叶ったりな事ではある。

だが両親の思う壺にはなりたくないので、絶対に高位貴族とだけはお近付きにはない。その気持ちに偽りはなく、難色を示す私に後押しをしてきた。

それは、今年度末のテストで首席を譲ってくれるという私にとって最も魅力的な誘惑だったのだ。

なんでも、エレノアは後期末から家業の方の手伝いで忙しくなるらしいので、その隙に頑張れば「僕なんて余裕で越せるだろう。」などと言うものだから、賢い私は一瞬だけ考えて二つ返事で了承した。


そして今、例の舞踏会に参加する為に、寮舎まで迎えに来た生粋の貴公子にエスコートされながら、学舎に併設された大ホール会場へと足を踏み入れた訳だが・・・何せ周囲からの視線を痛く感じるのだ。

隣の男は飄々とし、繕う微笑は尊敬しかない。これが公爵家?否、貴族を全うする者か・・・。


「さあレミリア・・・互いの悪い虫を蹴散らそうか。」

それは曲が変わるタイミングでのこと、ホールの中心で立ち止まったエレノアが、私と向かい合うと対の手を差し出してきた。

周りには羨望の眼差しを向けた令嬢たち。そして今宵の私の容姿に魅了され鼻の下を伸ばした令息共。

エレノアの言葉の真意を掴んだ私が「えぇ・・・」とその手を取れば、ぎゅっと腰に手を回されて彼の胸板が目の前に来た。

ふわりと薫るエレノアの香水は、不思議と外野を遮断してくれて、緊張が解れた私は彼に導かれるが儘に踊った。

その一夜以降、学園では私たちを噂する生徒が大半を占め始め・・・「で、どうだい?次は僕の恋人役
になるかい?」

「冗談にしては笑えない提案ね・・・」


気付いた時には私たちは、互いの為に互いを利用する仲になっていた。

そこに恋があったのか問われれば友情と即答出来る。それはノアも変わらないだろう。



「どうして二位なんだ・・・」
「知らないわよ!私は満点を取ったのに、アンタが特別加点を取るからじゃないっ!」


あの後、後期末テストで手を抜いたらしいエレノアだったが、彼の学力は手を抜いたところで揺るがなかった。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす

まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。  彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。  しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。  彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。  他掌編七作品収録。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」  某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。 【収録作品】 ①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」 ②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」 ③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」 ④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」 ⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」 ⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」 ⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」 ⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

塩対応彼氏

詩織
恋愛
私から告白して付き合って1年。 彼はいつも寡黙、デートはいつも後ろからついていく。本当に恋人なんだろうか?

私の部屋で兄と不倫相手の女が寝ていた。

ほったげな
恋愛
私が家に帰ってきたら、私の部屋のベッドで兄と不倫相手の女が寝ていた。私は不倫の証拠を見つけ、両親と兄嫁に話すと…?!

ある国の王の後悔

黒木メイ
恋愛
ある国の王は後悔していた。 私は彼女を最後まで信じきれなかった。私は彼女を守れなかった。 小説家になろうに過去(2018)投稿した短編。 カクヨムにも掲載中。

(完)なにも死ぬことないでしょう?

青空一夏
恋愛
ジュリエットはイリスィオス・ケビン公爵に一目惚れされて子爵家から嫁いできた美しい娘。イリスィオスは初めこそ優しかったものの、二人の愛人を離れに住まわせるようになった。 悩むジュリエットは悲しみのあまり湖に身を投げて死のうとしたが死にきれず昏睡状態になる。前世を昏睡状態で思い出したジュリエットは自分が日本という国で生きていたことを思い出す。還暦手前まで生きた記憶が不意に蘇ったのだ。 若い頃はいろいろな趣味を持ち、男性からもモテた彼女の名は真理。結婚もし子供も産み、いろいろな経験もしてきた真理は知っている。 『亭主、元気で留守がいい』ということを。 だったらこの状況って超ラッキーだわ♪ イケてるおばさん真理(外見は20代前半のジュリエット)がくりひろげるはちゃめちゃコメディー。 ゆるふわ設定ご都合主義。気分転換にどうぞ。初めはシリアス?ですが、途中からコメディーになります。中世ヨーロッパ風ですが和のテイストも混じり合う異世界。 昭和の懐かしい世界が広がります。懐かしい言葉あり。解説付き。

もう一度だけ。

しらす
恋愛
私の一番の願いは、貴方の幸せ。 最期に、うまく笑えたかな。 **タグご注意下さい。 ***ギャグが上手く書けなくてシリアスを書きたくなったので書きました。 ****ありきたりなお話です。 *****小説家になろう様にても掲載しています。

どうやら旦那には愛人がいたようです

松茸
恋愛
離婚してくれ。 十年連れ添った旦那は冷たい声で言った。 どうやら旦那には愛人がいたようです。

処理中です...