3 / 11
3話
しおりを挟むとある物書きが綴ったメロドラマは、この世の中で爆発的に流行していた。
なんでも不思議な現象で時が戻り、人生をやり直すだとか・・・。
失敗から得る経験は沢山ある。
あの時ああしていれば、こうしていれば、そんなたらればだからこそ、過去に戻れば良い方向に向くかもしれない。そんな期待を持ってしまうのだと思う。
もしも過去に戻れるのなら、私はどうするのだろうか。
この男と初めて会った時に、良好な関係を築いておくべきだったのか?
そもそも、何故ウィリアムは私が嫌いなのか原因が分からない。気付いたら奴が取り巻きを囲み、私だけを侮辱し始めていた。
初めこそは事実無根と否定してくれた同僚も居たが、そんな彼等もウィリアムが騙る私の人物像によって、次第に敵と化していったのだ。
兎に角この男からは、私の存在が気に食わないとだけ犇々と伝わってくる。
彼を無視し続けたから、次第に膨張していったのだ。
お互いそれぞれの感情が・・・。
「本来この場はめでたい席でしょうが、お父様がそこまで私達の心配をするものですから暴露しましょう。」
ワイングラスに口を付けて一息つく。隣の男が私のドレスの袖を掴んだが、もう知らない。
「お前っ」
「——私たちにカラダの関係は御座いません。白い関係どころか、この男は私をずっと嫌っていたのです。死ねばいいと・・・ですが、私もやっと決心がつきました。」
心に溜まった黒い塊が、すっと煙を立てながら薄くなる。
ずっと無視してきたこの存在が、私の敵なのだと認めてしまおう。
私が要らぬモノはゴミ箱へ。
「・・・そんなに私の事が嫌いなら、喜んで離婚してさしあげましょう。」
今までに浮かべた笑みの中で最高潮に頬が吊り上がっていたに違いない。そもそも笑ったことが殆ど無い。
そんな私を最高に笑わせてくれたこの男には感謝しなくてはな。
掴まれた場所を払い除けて席を立つ。
目の前で顔を真っ赤に染めた両親が、何かを怒鳴っていた気がするが、私の耳には届かない。
もう疲れたのだ・・・何もかも。
この場から退場する際に、私を追いかけようとしてきた夫に向かって、今し方外した指輪を投げつけた。
それは見事に奴の眉間に当たると跳ね返り、甥っ子の居る乳母車へと入っていった。
直ぐに反応を示した兄夫婦が赤子をあやしに行き、私はその場を後にする。
夫が直ぐに追いかけてきたが、次はうんと冷めた口調で諭すのだ。
「待て!レミリア、貴様こんな事が許されると・・・」
「お前みたいなクソ野郎は、こっちもお断りだ。」
親指を立て握り拳を作り、その飛び出た指先で首を裂くする動作を繰り広げた。
この国で離婚するということは珍しく難しい。特に貴族間は・・・片方の意思だけでは認められない。
ほら、これを望んでいたのだろう?
最後に叶えてやるわよ。
嬉しいでしょ?笑いなさいよ。
去り際に見えたウィリアムの目が虚ろに見えた気がした。
18
お気に入りに追加
124
あなたにおすすめの小説
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす
まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。
彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。
しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。
彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。
他掌編七作品収録。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します
「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」
某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。
【収録作品】
①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」
②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」
③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」
④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」
⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」
⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」
⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」
⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」
(完)なにも死ぬことないでしょう?
青空一夏
恋愛
ジュリエットはイリスィオス・ケビン公爵に一目惚れされて子爵家から嫁いできた美しい娘。イリスィオスは初めこそ優しかったものの、二人の愛人を離れに住まわせるようになった。
悩むジュリエットは悲しみのあまり湖に身を投げて死のうとしたが死にきれず昏睡状態になる。前世を昏睡状態で思い出したジュリエットは自分が日本という国で生きていたことを思い出す。還暦手前まで生きた記憶が不意に蘇ったのだ。
若い頃はいろいろな趣味を持ち、男性からもモテた彼女の名は真理。結婚もし子供も産み、いろいろな経験もしてきた真理は知っている。
『亭主、元気で留守がいい』ということを。
だったらこの状況って超ラッキーだわ♪ イケてるおばさん真理(外見は20代前半のジュリエット)がくりひろげるはちゃめちゃコメディー。
ゆるふわ設定ご都合主義。気分転換にどうぞ。初めはシリアス?ですが、途中からコメディーになります。中世ヨーロッパ風ですが和のテイストも混じり合う異世界。
昭和の懐かしい世界が広がります。懐かしい言葉あり。解説付き。
もう一度だけ。
しらす
恋愛
私の一番の願いは、貴方の幸せ。
最期に、うまく笑えたかな。
**タグご注意下さい。
***ギャグが上手く書けなくてシリアスを書きたくなったので書きました。
****ありきたりなお話です。
*****小説家になろう様にても掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる