上 下
27 / 41

㉗夢を見ました

しおりを挟む
■(視点変更 ⇒メアリー)


夢を見ました。
とても幸せで、美しい夢を。





夢の中で私は一人いました。
白いワンピースをきて、白い空間に一人ぼっちでいました。
誰もいない、何の音もしない、何も見えない、ただただ白だけが広がる世界に私は一人でいました。

ですが、白い世界に二人の男女が現れました。

男女はシルエットだけでどのような容姿をしているのかわかりません。
ですが、お互いに手を取り合い、唯一確認できた口元は笑みを浮かべていて、とても幸せそうに見えました。

私はそのお二方をじっと見つめていました。

するとおもむろに男性が両腕を前に向かって伸ばしました。
私は不思議に思いながら眺めていると、どこからとりだしたのか男性の手に剣が現れたのです。
そして素振りをする男性を、女性はじっと眺めていました。

暫くすると男性は汗をかいたのか、素振りを中断し女性の隣へと戻ります。
女性は立ち上がり、剣のように突然現れた布を男性に手渡しました。
笑みを見せる男性に、女性は頬を赤らませます。

そんな二人の間に、今度は一人の赤ん坊が現れました。
女性の腕の中で静かに眠る赤ん坊を、男性は覗き込みます。

愛おしい。

そんな感情が伝わってくるようでした。

私は羨ましいと、そう感じていました。
そして三人の様子を一人で眺めているのが辛くもありました。

いつの間にか私の目からは涙が流れ、頬を伝っていました。

手で顔を覆い私は涙を流しました。
なぜ私は一人なのか、一人でいるのは辛いと、心が叫んでいました。

シクシク泣いていると、ふと近くに人の気配を感じます。

私は止まらない涙を流しながら顔をあげました。

やはりシルエットだけで、確認できるのは口元だけの不思議な三人が私の目の前にいました。
恐怖はありませんでした。
それよりも、私を迎えに来てくれたのかと、そう私は期待していたのです。

女性は男性に赤ん坊を預けると、私に手を伸ばしました。
私は躊躇うことなくその手を掴みました。

『********。**********』

手を掴んだ私に女性はいいました。
私は女性の言葉を聞いて、後ろを振り返りました。
流れていた涙は止まり、そしてやっと笑えたのです。

一人だと思い込んでいた私は、本当は一人ではなかったことに気付けたのです。






目を覚ますとここ一月で“見慣れた”天井が視界に入りました。

「あれ…私…」

いつもより怠さが消えている体を起こし、辺りを見渡します。

「確か、ミレーナ様に叩かれ、倒れて……気を失ったはず……。いつ、部屋へと戻ってきたの…?」

ひとまず“仕事”をしなければとベッドから降り、ハンガーラックに掛けていたメイド服に着替える為に場所を移動しようとすると、トントントンとノック音が聞こえてきました。
私は着替えるのをやめ、扉までいき、自ら開けます。

「目を覚ましたんですな」

そういって微笑むのは、白衣をきたおじいさんでした。
といっても見覚えがない人物に、私は首を傾げつつも名を名乗ります。

「初めまして、私はメアリー・デルオと申します」
「……これはご丁寧にありがとうございます。
私はデルオ公爵家の主治医、イルガーと申します。
この度は奥様の診察の為に伺わせていただきました」
「まぁ、デルオ公爵家の主治医ということはアルベルト様のご実家の…、わざわざお越しいただきありがとうございます」
「いえいえ、構いませんよ。
アルベルト様も家を出ていますが、公爵家の一員であることは変わりません。そしてそれはアルベルト様の奥様であるメアリー様も同様です」

物腰柔らかそうにそういわれ、私はほっと胸を撫で下ろしました。
白衣を着て、片手に鞄を持っていることから、清潔にしなければいけないようなお仕事をしている方というあたりをつけていましたが、それでもデルオ公爵家の主治医であることは考えもしなかったからです。
そして部屋の前に立つ、シェフのコニー・レンズにも声を掛けて、私は部屋にイルガー先生を通しました。
私がレンズの名前を知っていたのは、彼が毎食夜遅くまで待ってくれていた人でもあるからです。
私が"仕事"をしていた中、一番顔を合わせて話をしていたからこそ、名前を間違えて覚えていないか、唯一尋ねさせていただきました。

「…あの、私の診察とは…」
「ああ、はい。といっても既に済んでいますので、結果からお伝えしましょう。
まず奥様の体の状態ですが___」

そうしてイルガー先生から説明を受け、私はとても驚きました。

なんとなく体が熱っぽい、だるさを感じていると思っていましたが、それがまさか新しい命を宿していることが原因であると思ってもいなかったからです。

そして妊娠しているということよりも驚いたのは、私が少しの間とはいえ、全ての記憶を失っていたという事。
その状態でアルベルト様にお会いし、傷つけたというのですから、心臓が止まるほどに驚きました。



しおりを挟む
感想 40

あなたにおすすめの小説

彼が愛した王女はもういない

黒猫子猫(猫子猫)
恋愛
シュリは子供の頃からずっと、年上のカイゼルに片想いをしてきた。彼はいつも優しく、まるで宝物のように大切にしてくれた。ただ、シュリの想いには応えてくれず、「もう少し大きくなったらな」と、はぐらかした。月日は流れ、シュリは大人になった。ようやく彼と結ばれる身体になれたと喜んだのも束の間、騎士になっていた彼は護衛を務めていた王女に恋をしていた。シュリは胸を痛めたが、彼の幸せを優先しようと、何も言わずに去る事に決めた。 どちらも叶わない恋をした――はずだった。 ※関連作がありますが、これのみで読めます。 ※全11話です。

婚約者が実は私を嫌っていたので、全て忘れる事にしました

Kouei
恋愛
私セイシェル・メルハーフェンは、 あこがれていたルパート・プレトリア伯爵令息と婚約できて幸せだった。 ルパート様も私に歩み寄ろうとして下さっている。 けれど私は聞いてしまった。ルパート様の本音を。 『我慢するしかない』 『彼女といると疲れる』 私はルパート様に嫌われていたの? 本当は厭わしく思っていたの? だから私は決めました。 あなたを忘れようと… ※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。

【取り下げ予定】お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。

ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの? ……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。 彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ? 婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。 お幸せに、婚約者様。 私も私で、幸せになりますので。

嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜

みおな
恋愛
 伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。  そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。  その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。  そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。  ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。  堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

この雪のように溶けていけ

豆狸
恋愛
第三王子との婚約を破棄され、冤罪で国外追放されたソーンツェは、隣国の獣人国で静かに暮らしていた。 しかし、そこにかつての許婚が── なろう様でも公開中です。

(完)貴女は私の全てを奪う妹のふりをする他人ですよね?

青空一夏
恋愛
公爵令嬢の私は婚約者の王太子殿下と優しい家族に、気の合う親友に囲まれ充実した生活を送っていた。それは完璧なバランスがとれた幸せな世界。 けれど、それは一人の女のせいで歪んだ世界になっていくのだった。なぜ私がこんな思いをしなければならないの? 中世ヨーロッパ風異世界。魔道具使用により現代文明のような便利さが普通仕様になっている異世界です。

言いたいことはそれだけですか。では始めましょう

井藤 美樹
恋愛
常々、社交を苦手としていましたが、今回ばかりは仕方なく出席しておりましたの。婚約者と一緒にね。 その席で、突然始まった婚約破棄という名の茶番劇。 頭がお花畑の方々の発言が続きます。 すると、なぜが、私の名前が…… もちろん、火の粉はその場で消しましたよ。 ついでに、独立宣言もしちゃいました。 主人公、めちゃくちゃ口悪いです。 成り立てホヤホヤのミネリア王女殿下の溺愛&奮闘記。ちょっとだけ、冒険譚もあります。

処理中です...