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⑦虐げ……られているかもしれません
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◇
掃除と洗濯を教わってから一ヶ月が経ちました。
お義母様が宣言した通り、私が一通り慣れた頃から掃除と洗濯は私一人の担当となりました。
朝早くに起きて洗濯を行い、掃除をします。
私の実家よりも広い屋敷では当然、今まで通りの時間に起きては処理しきれず、私はやむを得ず早く起きるしかなかったのです。
それでも最初の頃はモップ等の道具を使うなと、口煩く注意されていたのですが、最近ではお義母様達は外出するようになり、私は遠慮なく道具を使って作業ができるようになりました。
それでも広い屋敷を一人で綺麗にし終える頃には太陽が沈み、空が真っ黒に染まってしまいますが。
そして当初使用人の管理を任せていた者から、今日の出費や今後必要になりそうなリストを確認するために書面を受け取り、自室へと戻ろうとしていた時でした。
「あの、奥様…?」
「……どうしたの?」
何故かアルベルト様の資金で買い物をするお義母様達に痛む頭を押さえながら、私は後で注意をしようと問題を先送りにします。
そうでないと、今の仕事も満足にできていないことを逆に指摘され、有耶無耶にされる未来が見えるからです。
そして辺りをキョロキョロと確認するような仕草をしたあと、一人のメイドが私に近寄るその行為を不思議に思いつつ、用件を尋ねました。
確か名前はマルシェ、だったはず。
「……あの、体調が悪いのでしょうか?
顔色が……、それに汗ばんでいる様子です」
ヒソヒソと小声で話すマルシェに顔を近づけました。
「体調はそうね、流石に今までやったこともないことをしているから疲れが出ているのかもしれないわ。
それにずっと動いているからかしら?なんだか暑く感じるのよ、…あ、もしかして私臭いかしら?」
「いえ!そんなことありません!」
慌てて否定するマルシェに私はくすりと笑いました。
「心配してくれてありがとう。……そろそろお義母様達が帰ってくるころね。湯船の用意とかあるんじゃないの?
私は大丈夫だから戻りなさい」
「………、はい。失礼します」
パタパタと走り去るマルシェを見送り私は仕事に戻りました。
□
ある日のことです。
流石に疲れもたまり、睡眠不足もたたっているため私は吐き気を抑えながら自室へと向かっていました。
ちなみに自室というのはアルベルト様と初夜を過ごしたお部屋でも、その隣接しているお部屋でもありません。
洗濯場、そして掃除道具が近いという理由で新たに設けた私の二つ目のお部屋です。
そのお部屋は屋敷の端にあり、必要な物以外なにもない殺風景な部屋ですが、私はよろよろとふらつきながら向かっていました。
そんな時お義母様とミレーナ様が帰宅した様子が聞こえてきました。
キャハキャハと騒ぐ声は、屋敷の土地が広いため大丈夫だとは思いますが、それでも深夜遅く帰宅した人が発する声量ではありませんでした。
普通に近所迷惑です。
そんなお二人に私は挨拶をするため立ち止まります。
踵を返し、そしてお二人のもとに向かわなければなりません。
ですが…
「………」
足が動きませんでした。
それでも無理矢理一歩二歩と足を動かしました。
そしてやっとお二人の声がはっきりと聞こえるところまでやってこれたのです。
ですが私はそこで聞いてしまいました。
お二人と一人のメイドの会話を。
「ねぇベルッサ~。あの女はぁ~、まだやっているの~?」
声からすると、ミレーナ様がベルッサに尋ねているようです。
ミレーナ様の言うベルッサという人は、元は掃除や洗濯などの仕事を任せていたメイドの一人で、私が担当することになった為代わりにミレーナ様とお義母様のお世話係を担当されました。
専属の従者、に近いかもしれませんね。
それにしてもいつもと違うミレーナ様の口調から、相当お酒を飲んでいるのだろうと伺えました。
とても楽しそうに、そして上機嫌でベルッサに尋ねている様子が伝わってきます。
「はい。そのようです」
「なんだ~、もう音をはいた頃だと思ったのにぃ~」
「あー、つまんな~い」といいながら声が少し遠ざかりました。
私はというと、まだ挨拶が済んでいない為、汗ばむ額を袖で拭いながら足を進めます。
そんな私に気付くことなく三人は話を続けていました。
「ご安心ください。今日はより一段と顔色が悪く、そろそろ限界も近いと見えましたので」
「あら~、それは良い情報だわぁ~!」
「それよりもベルッサ、ちゃんと手は打っているでしょうね?」
私は首を傾げました。
お義母様の言葉もそうですが、ベルッサの言葉にも疑問を抱いたからです。
この屋敷の中では私以外体調不良の使用人はいません。
シェフも庭師も他のメイド達も、私は毎日顔を見合わせていますが顔色が悪いようには見えませんでした。
(………もしかして、私の話をしているの?)
掃除と洗濯を教わってから一ヶ月が経ちました。
お義母様が宣言した通り、私が一通り慣れた頃から掃除と洗濯は私一人の担当となりました。
朝早くに起きて洗濯を行い、掃除をします。
私の実家よりも広い屋敷では当然、今まで通りの時間に起きては処理しきれず、私はやむを得ず早く起きるしかなかったのです。
それでも最初の頃はモップ等の道具を使うなと、口煩く注意されていたのですが、最近ではお義母様達は外出するようになり、私は遠慮なく道具を使って作業ができるようになりました。
それでも広い屋敷を一人で綺麗にし終える頃には太陽が沈み、空が真っ黒に染まってしまいますが。
そして当初使用人の管理を任せていた者から、今日の出費や今後必要になりそうなリストを確認するために書面を受け取り、自室へと戻ろうとしていた時でした。
「あの、奥様…?」
「……どうしたの?」
何故かアルベルト様の資金で買い物をするお義母様達に痛む頭を押さえながら、私は後で注意をしようと問題を先送りにします。
そうでないと、今の仕事も満足にできていないことを逆に指摘され、有耶無耶にされる未来が見えるからです。
そして辺りをキョロキョロと確認するような仕草をしたあと、一人のメイドが私に近寄るその行為を不思議に思いつつ、用件を尋ねました。
確か名前はマルシェ、だったはず。
「……あの、体調が悪いのでしょうか?
顔色が……、それに汗ばんでいる様子です」
ヒソヒソと小声で話すマルシェに顔を近づけました。
「体調はそうね、流石に今までやったこともないことをしているから疲れが出ているのかもしれないわ。
それにずっと動いているからかしら?なんだか暑く感じるのよ、…あ、もしかして私臭いかしら?」
「いえ!そんなことありません!」
慌てて否定するマルシェに私はくすりと笑いました。
「心配してくれてありがとう。……そろそろお義母様達が帰ってくるころね。湯船の用意とかあるんじゃないの?
私は大丈夫だから戻りなさい」
「………、はい。失礼します」
パタパタと走り去るマルシェを見送り私は仕事に戻りました。
□
ある日のことです。
流石に疲れもたまり、睡眠不足もたたっているため私は吐き気を抑えながら自室へと向かっていました。
ちなみに自室というのはアルベルト様と初夜を過ごしたお部屋でも、その隣接しているお部屋でもありません。
洗濯場、そして掃除道具が近いという理由で新たに設けた私の二つ目のお部屋です。
そのお部屋は屋敷の端にあり、必要な物以外なにもない殺風景な部屋ですが、私はよろよろとふらつきながら向かっていました。
そんな時お義母様とミレーナ様が帰宅した様子が聞こえてきました。
キャハキャハと騒ぐ声は、屋敷の土地が広いため大丈夫だとは思いますが、それでも深夜遅く帰宅した人が発する声量ではありませんでした。
普通に近所迷惑です。
そんなお二人に私は挨拶をするため立ち止まります。
踵を返し、そしてお二人のもとに向かわなければなりません。
ですが…
「………」
足が動きませんでした。
それでも無理矢理一歩二歩と足を動かしました。
そしてやっとお二人の声がはっきりと聞こえるところまでやってこれたのです。
ですが私はそこで聞いてしまいました。
お二人と一人のメイドの会話を。
「ねぇベルッサ~。あの女はぁ~、まだやっているの~?」
声からすると、ミレーナ様がベルッサに尋ねているようです。
ミレーナ様の言うベルッサという人は、元は掃除や洗濯などの仕事を任せていたメイドの一人で、私が担当することになった為代わりにミレーナ様とお義母様のお世話係を担当されました。
専属の従者、に近いかもしれませんね。
それにしてもいつもと違うミレーナ様の口調から、相当お酒を飲んでいるのだろうと伺えました。
とても楽しそうに、そして上機嫌でベルッサに尋ねている様子が伝わってきます。
「はい。そのようです」
「なんだ~、もう音をはいた頃だと思ったのにぃ~」
「あー、つまんな~い」といいながら声が少し遠ざかりました。
私はというと、まだ挨拶が済んでいない為、汗ばむ額を袖で拭いながら足を進めます。
そんな私に気付くことなく三人は話を続けていました。
「ご安心ください。今日はより一段と顔色が悪く、そろそろ限界も近いと見えましたので」
「あら~、それは良い情報だわぁ~!」
「それよりもベルッサ、ちゃんと手は打っているでしょうね?」
私は首を傾げました。
お義母様の言葉もそうですが、ベルッサの言葉にも疑問を抱いたからです。
この屋敷の中では私以外体調不良の使用人はいません。
シェフも庭師も他のメイド達も、私は毎日顔を見合わせていますが顔色が悪いようには見えませんでした。
(………もしかして、私の話をしているの?)
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