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36.手紙の中身
しおりを挟む籠を持つヴォルさんが異様に景色から浮くという感覚を抱きながら、私は先生として前に立つヴォルさんを見つめる。
気持ちの切り替えって大事だよね。
「前回は形状を変形させることを教えたと思うが…」
「あ、はい!お義母さんにも教えて貰って、少しだけだけど出来るようになったよ!」
ヴォルさんに教えてもらうようになってから夜はなるべく魔法玉ではなく、自分自身の魔法を使って灯りを灯すようになった。
そして食べて寝るまでの間はお義母さんに魔力のコントロールを見てもらい、夜は少しだけ自分の魔力で作りだした光の球を動かして見たり、形を変えてみたりとしていたのだ。
その甲斐あって、最初の頃よりも魔力のコントロールも上達できていると自分自身でも感じている。
ちなみにレインはあっさりと余裕な感じで出来て、私は本当に羨ましく思った。
私はすぅと息を吸いこんでから、私とヴォルさんの間に光の球を生み出す。
そして、続けて形を変化させた。
丸だった形を徐々に変化させて、薄く板のような長方形に形を変えてみせると「ほぉ」とヴォルさんが見開いた。
「たくさん練習したんだな」
「あ、…うん……、もっといろんなこと教えて貰いたいと思って」
一度生み出した魔法は、魔力がなくなると勝手に消えてしまう。
留まらせるためには魔力を送り続けるか、定期的に補充する必要があるのだ。
今回生み出した魔法には魔力をそこまで込めていなかった為すぐに消えた。
「魔法と言えば攻撃魔法がすぐに思いつくものが多いが、アレンには防御魔法を先に覚えてもらいたい」
「は、はい!」
「では、俺の手に手を重ねてくれるか?」
こくりと頷いた私は大きなヴォルさんの手の甲に重ねると、ヴォルさんは「魔力の流れを感じてくれ」と囁いてから魔法を展開させた。
ヴォルさんの言う通りに、目の前に展開されている魔法よりも、手から流れ出る魔力の流れに意識を集中させる。
ちなみに自分の魔力がわかるようになってから、他の人の魔力もわかるようになった。
といっても、町の人たちの魔力がみえているわけではなく、相手に触れると漠然とした感覚でわかるという、曖昧な感覚である。
そんな私でも感じ取れるほど、とても多くの魔力が常に流れ込まれていることに気付き、驚いてヴォルさんを見上げた。
「この状態を維持することが出来れば、どのような状態でも身を守ることが出来る」
「どのような状態でも…」
「人や魔物と向かい合って対戦するのであれば攻撃をされた時のみ魔力を込めればいいが、いつ攻撃されるかわからない、もしくは周りが危険な状態になっている場合は常に大量の魔力を注ぎ込まないと防御出来ない」
ヴォルさんが水の盾のような物に手を伸ばすように促す。
恐れることなく手を伸ばしてみると、それは本当の盾が存在しているかのように私の手を通過させることがなかった。
ヴォルさんから流れ続けている魔力量にも驚きだが、確かにこれなら魔力が尽きない限り身を守れるかもしれないと、私はわくわくした。
それと私が早く魔法を使っていたら、魔物に襲われそうになったあの時、記憶をなくすことなくいられたのかもしれないと、ほんの少しだけ思った。
けれど、そうなると今みたいにお義母さんやお義父さん、レインやヴォルさん、コクリ君やお店の人たちにも会えていなかったと思うと、記憶をなくしても悪いことなんてなくて、寧ろ良い出会いばかりで私は恵まれているなと感じた。
(こんなこと、心配してくれている皆には言えないけど…)
「アレン、手はそのまま見ていてくれ」
「?はい」
盾の内側に私の手があるとすると、ヴォルさんは空いている手を盾の外側から触れる。
すると私の手のように止められることなく、通り抜けるヴォルさんの手に驚いた。
「え!?どうして!?」
「これは私の魔力によって作られている魔法だからだよ。
勿論特定の魔力だけを防ぐことも出来るが、かなり難易度が高い。アレンが望むなら教えることも出来るが……、その前に防御魔法の基礎を固めないといけない」
「わぁ!魔法って凄いんですね!」
可能性が無限に広がっているような、そんな感覚をもたらせてくれる魔法に私は感動してヴォルさんを見上げると、思った以上に近い場所に顔があってびっくりした。
思わず重ねていた手を離して一歩、いや、それ以上に離れる。
そうだよね。
ヴォルさんの魔力の流れを感じる為に、隣に立って手を重ねてるんだから、近くて当然だよね。
ヴォルさんへの恋心を自覚してから、なるべく意識しないようにしてきたけれど…
ちらりと目だけでヴォルさんの様子を伺うと、ヴォルさんも顔と耳を赤くし、下唇の少し下部分をいじっていた。
たまにするヴォルさんの仕草だ、と盗み見する。
「ヴォルさん、私頑張るから!」
「ん?あ、ああ。私も付き合うよ」
頬を染めながらにこりと微笑むヴォルさんに、休憩を促されるまで私は教えて貰った防御魔法を取得するまで練習したのであった。
■
「アレン、それは手紙か?」
「あ、そうだった。朝ヴォルさんに会う前にスーツみたいな服を着た人に貰ったの」
練習を中断し休憩をとる私たちはお昼ご飯を食べる為、用意していたシートを広げて並んで座る。
食べようとしたところで、籠の中にあった封筒に気付いたヴォルさんが尋ねたのだ。
「見てもいい?」
「アレンへの手紙だから、俺に許可をとることはないよ」
「ありがとう」
今迄申し訳ないくらいに手紙の存在を忘れてしまっていたけれど、思い出したら中身が気になる。
ヴォルさんが隣にいるのにと、申し訳なく思ってしまったけれど、ヴォルさんも特に気にせず読むことを進めてくれたため、私はぐちゃぐちゃにならないように丁寧に封筒を開けて手紙を取り出した。
「えっと…」
手紙を広げて書かれている綺麗な文字を読んでいく。
私はサーシャ・ヌーアニア。ヌーアニア侯爵の令嬢です。という手紙の主の自己紹介から始まる文字を目でおっていく。
サーシャって方の趣味や特技、そしてヴォルさんの素晴らしいとサーシャさんが思う部分が書かれ、最後に私と会って話したいから、侯爵家の別荘に招待するという内容がかかれていた。
なんの話をしたいのかが手紙から全く感じ取れなく、私は首を傾げる。
そんな私を見たヴォルさんも、心配そうに尋ねた。
「アレン、なにか嫌なことが書かれていたのか?」
「ううん。嫌なことというよりも、よくわからないというか……、とりあえずサーシャさんっていうヌーアニア侯爵の娘さんが私に会いたいって手紙に書いてるの」
「ヌーアニア…、ああ確か王都に住んでいる貴族だな」
「貴族……、ヴォルさん知り合い?」
「知り合いという程じゃない。俺が王都にいたときに護衛を頼んできた中の一人だ。
それにしてもここは王都ではないのに、何故アレンと…?」
「私もよくわからなくて…」
「見せてもらえるだろうか?」
そう尋ねたヴォルさんに、ヴォルさんの事をたくさん書いている手紙を勝手に見せてしまってもいいのだろうかと思ったが、悪く言っている事等一つも書かれていないからと、手紙を差し出した。
けれど手紙を差し出してから、じっくりと読むヴォルさんをみて、少し不安になってくる。
こんなにヴォルさんを褒めちぎる内容の手紙を見せて、この女の人に興味を示したらどうしようって。
「侯爵家の別荘か……、確かにそれならここから近いな」
「…あ、あの…結構ヴォルさんのこと書いてると思うんだけど、何も感じない?」
恐る恐る尋ねる私に、ヴォルさんはわからないとばかりに首を傾げる。
「確かに俺の業務態度が細かく書かれているが…、それがどうした?」
「へ?」
「それにこういう手紙はよく騎士団に届いているんだ。
騎士団の中にも役割があり、貴族の護衛は配属先の団長が決めた騎士に任せるのがルールで指名制はない。
……なのだが、近頃は名前を出し遠回しに人物指名する手紙が多いんだ。
この令嬢からも以前護衛を頼まれたこともあるから、アレンと俺が接触していることを知り、どうにか融通してもらおうということだと思うが…。
もし良いなら、俺にこの件は任せてもらえないだろうか?」
「へ?」
「アレンを利用するつもりなら、俺は許せない。
それにルール上でいうと、ここイヴェール地域の騎士に護衛依頼することは出来ないんだ」
「………」
(もしかして…)
もしかすると、ヴォルさんはとんでもない鈍感さんなのかもしれないと私はこの時思った。
でも同時にホッとする。
付き合っているわけではないけれど、ヴォルさんの特別な存在が私だってことに、前よりももっと思えるようになった。
(だからこそ、ヴォルさんの隣に立っても自分に自信が持てるように、もっと頑張らないと!)
「ううん。侯爵家の別荘ってここから近いんだよね?
私宛の手紙だから私が行くよ。だけどヴォルさんにその人の別荘?まで一緒に行って欲しいんだけど…」
「勿論構わない」
「ありがとう。嬉しい。…あ、でも明日って書いているけれどお仕事大丈夫?」
「問題ない。明日は重要な打ち合わせもないから」
「よかった」
安心したけれど、目の前のヴォルさんはいまだに不安そうな顔をしているから、私はつい口元を緩ませてしまう。
面白がっているわけではなくて、でもまるでワンちゃんのように可愛らしく思えてしまったのだ。
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ」
「だが、貴族という者は_」
「ヴォルさんも貴族なんでしょ?私はヴォルさんみたいな優しい貴族しか知らないから、だから会って自分の目で確かめたいの」
「…アレン。理不尽なことを言われたら、教えてくれ。俺が駆け付けるから」
「約束するよ」
ヴォルさんと約束した私は、魔力温存の為に今日はもう防御魔法の練習はいいからと、練習を切り上げて町に戻ることにした。
ヴォルさんと練習をした日は少し疲れたって感覚はあるけれど…。
それでも翌朝にはすっかり元気に戻っているから心配しなくてもいいんだけど、と思いながら、気遣ってくれるヴォルさんの優しさが嬉しく感じて、私はニコニコと笑いながらヴォルさんと共に帰路についた。
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