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あのあと、当初の予定通り投稿し終えた私は、ドレスショップへと足を運んだ。

以前仕立てた頃よりサイズが変わっていないか確認の為、採寸し、ドレスの形やアクセサリーを選ぶ。
色は白と統一されている為、比較的早く終わった。
だけど、精神的な疲労が大きかったのか、疲れた私はリリーに馬車を手配してもらい、日が暮れるころ馬車に揺られて帰宅した。


「お嬢様って、結構有名なのですね」

「どうして?」

「私はお嬢様の作品を知らないですが、今日あったあの男性、お嬢様の作品だってわかっていそうだったじゃないですか。
しかも少ししか見えていないのにも関わらず」

「そ、そうね……」

「私も、お嬢様の作品見てみたいです!」

「お、ホホホホホホホホホ!いやね、リリーったら随分前だけどみせたじゃない!」


ちなみにリリーに見せたのは、漫画ではなくイラストだが。
勿論今よりももっと子供の頃にかいたものだ。

流石に今の作品はまともであっても見せることはできない。
何故なら応募先が知られている以上その出版会社の発行している出版本の絞り込み、そして私の絵柄で何を書いているのか突き止められてしまうからだ。

誤魔化すように笑った私を見て、リリーは口を尖らせる。
でも考えてみて。
例え腐的なアレでなくても、私は作品を見せることはしないと思うの。
だってプロではない私は、知り合いに作品を見られるよりも、赤の他人に見られる方が気にならないもの。



家に着いた頃には空は黒く染まっていたが、それでも夕食の時間には早く、だけど湯あみの時間が然程取れない為、部屋で休むとリリーに伝えた。
ドキドキといまだに落ち着かない私は部屋に戻ると、引き出しにしまってある手紙を取り出す。
この手紙は私が初めて投稿した作品に、反応してくれた読者の方から頂いた手紙だ。

プロではない私が手紙を貰えるとは思わなかった。
だからこそ、初めて貰ったこの手紙はどんな大きな宝石よりも一番の宝物なのである。

癖のない綺麗な文字がつらなっているそれは、いつも私に元気を与えてくれた。

『はじめまして。べるべるんと申します。
温かい作風に、とても心が和みました!癒しをありがとうございます!
これからも活動していただけると嬉しいですが、でも無理はしないでください。
応援しています!』

『こんにちわ。べるべるんと申します。
今回の作品も二人が可愛らしく、何度も読み返しては癒されています!
初恋に振り回される乙女みたいだった〇〇君が、どんどん攻めっぷりを高めていく…。
全年齢なのに表情もエロくて、見ている私の方まで鼓動が高まりました!
これからも応援しています!頑張ってください!』

最初の作品だけでない。
作品が掲載されるたびに手紙をくれるべるべるんさん。
感想が単純にうれしいというのもあるけれど、私の作品を通して、誰にも告げられなかった腐の私を肯定してくれたような、そんな気持ちにさせてくれる手紙をくれたべるべるんさんが、いつしか私の支えになった。

(ふぅ……、落ち着いたわ)

走った時に早まった鼓動ではない。
私の事を知っていそうな男性と、そしてリリーへの腐バレにそわそわしていた気持ちが、今やっと手紙のお陰で落ち着いた。

もうべるべるんさんの手紙は私の精神安定剤のようなものね。と、手紙を再び机の中にしまうと、タイミングよくリリーが駆け込んできた。


「お、お嬢様ーーー!!」

「ど、どうしたの?リリー」

「そ、それが!!!お嬢様にお客様が!」


別に一人も友達がいないわけでもないのに、その反応は…と思ったけれど、この時間に訪ねてくる令嬢の友達はいない。
空はもう闇に覆われていることから、今はもう夜なのだ。
暗くて危険な道を令嬢が選ぶわけがない。
急な用事があったとしても、明日の早朝に訪問したいという手紙を送るくらいだろう。

それでも私を名指しにしたという訪問者に、私はリリーを連れて会いに行くことにした。


「へ?」


私の体は固まった。
何故なら今日ぶつかったあの男性が、再び目の前にいるのだから。

出会った時と変わらない黒のズボンに、白くて清潔なシャツを身に着けている男は、私を見て微笑んだ。
黒い髪の毛は艶があり、でもふわふわと柔らかそうな毛質に思わず手を伸ばしたくなるほどで、赤いルビーのような瞳も光が当たるとまるで宝石のように輝いている。
ただ立って微笑んでいるだけなのに、男が立つあの空間だけが別世界のような、うちのエントランスに似合わないなと思わず思ってしまうくらいの上品さに私の体は岩のように固まった。

え、これはいったいどういう状況?
いえいえいえいえ、どういう状況も何もこの男は私の趣味を知っているし、私の活動も知っている。筈!
何故なら私の偽名を知っているのだから!
そんな人が再び目の前に現れたということは……。

思わずちらりと後ろにいるリリーに視線を向けると、目の前の男はそんな私に気づいたように微笑みながら首を振る。


(え、イケメン…)


思わず胸がときめいた音が聞こえた気がした。
私が男なら確実に恋が始まっていたような微笑であることは断言しよう。
それくらいの破壊力に、今では男性不信気味になってしまった私でも胸が高鳴ってしまった。


「このような時間に訪問し申し訳ございません。
今日はエリーナ嬢にお伝えしたいことがあってきました」

「わ、私に?い、いったいどのような用件でしょうか?」


もしかして私の趣味活の具体的な内容について?
男と男の恋愛模様を書いていることをこの場でいうつもり!?
ちょーっとまって!この場にはリリーの他にも執事や他のメイドもいるのよ!?
待って待って待って!!!
というか貴方さっき首を振ったのは言わないから安心してって事でしょ!?
そうよね!?そうだといって!

変なことは言わないでくれと願いながら男の話を促す。
というか、何故名前を知っているのか。
調べたのか?調べたとしたら今日の今日で、私のことを調べたということ。
いったいどんな人脈をしているのか。
ハイスペックすぎじゃないか。
そんなハイスペックなイケメンなら、こんなところで時間を使うよりも、綺麗め男子を探して口説いていなさい!
そんなことを考えながら私はごくりと唾を飲み込んだ。

男はにこりと笑ってこう言った。


「俺と交際していただけませんか」






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