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第1話 新入生と珍しい校則 〜1年C組 潮田美玖の場合〜

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「──というわけで、これで校則の説明は終わりです。何か質問のある子はいるかな?」

 入学式の後のクラス活動の時間。優しそうな若い担任の先生が、御清水学園の校則について説明してくれた。

「……誰も質問はなさそうだから、それじゃあ、あとはみんな早くお友達作りたいだろうし、自由時間にしちゃおうかな?」

 先生がそう言うとクラスは一気に賑やかになった。

「美玖ちゃん、同じクラスで良かったね!」

 後ろから幼馴染みの樹音ちゃんが話しかけてきた。

「そうだね、樹音ちゃん……」

「美玖ちゃん? どうかしたの?」

「えっと、その……」

「もしかして、美玖ちゃん、校則のことでちょっと不安になってるんじゃない?」

「……っ!?」

 図星を突かれて、つい変な声が出ちゃう。

「美玖ちゃん、そういえばおトイレ近いもんね」

 樹音ちゃんは笑ってそう言うけれど、私にとってトイレが近いことはこの学校では死活問題かもしれない。

 変わった校則があるとは聞いてたけど、まさか1日2回までしかトイレが使えないなんて……。

 昔から、休み時間の度にトイレに行かないと次の授業が終わるまで我慢できなくなっちゃうことが多いくらい、私はトイレが近い。そのせいで中学校の頃は何回もお漏らししちゃって、他の子にからかわれることの多かった私は、樹音ちゃんと一緒にたくさん勉強してこの学校に通うことにした。

 それなのに、お漏らししちゃうことが増えちゃったら、またこの学校でもからかわれちゃう……。

「美玖ちゃん?」

 樹音ちゃんに名前を呼ばれて、はっと我に返る。

「そんなに気にしなくても、美玖ちゃんがお漏らししちゃったときは私が守ってあげるね」

 笑顔でそう言う樹音ちゃんを見て、私は少し安心できた。

 次の日。

「それじゃあ、今日からトイレに行くときはこれを忘れないようにね~」

 先生はそう言って、私たちの机の上に2枚ずつコインを置いていく。

 そっか、本当に1日2回しかトイレに行けないんだ……。

 やっぱり不安な私は、なんだかいつもよりおしっこが溜まるのが早い気がして、2時間目の後の休み時間でコインを使いきってしまった。午前授業だからあと2時間頑張ればなんとか大丈夫だけど、私は不安な気持ちが大きかった。

 そして、4時間目の途中、私の不安は現実になってしまった。おしっこがしたい。トイレに行きたい。今までは先生にそう言えばトイレに行けたし、学級活動の時間だから優しそうな担任の先生に「トイレに行きたい」と言うことは、今までの私ならできたはずだ。

 でも、もう私はトイレに行けない。

 あと10分。それだけ耐えたら、今日の授業はおしまい。そうしたら、学校のすぐ外にあるトイレに行ける。

 そう思ったのも束の間、私の身体に今日一番の尿意が押し寄せた。

「……ぅ、あぁぁ……」

 出ちゃう、と思うよりも前に、私のお尻はおしっこに包まれた。びちゃびちゃとおしっこが床にこぼれる音が響いて、クラス中の視線が私に集まるのが分かる。

「潮田さん、大丈夫!?」

 先生が心配そうに私に駆け寄ってくる。そのまま先生に連れられて、私は保健室に行くことになった。

 まだ誰とも仲良くなれてないのに、入学2日目でいきなりお漏らししちゃった……。

 恥ずかしさと他の子からどう思われてるかの不安で、私は保健室で泣いちゃった。

「大丈夫、大丈夫だよ。潮田さん、確か入学前の健康診断の時に、問診票にトイレが近いって書いてくれてたでしょ。そういう子、毎年何人もいるの。この学校の校則に慣れなくてお漏らししちゃう子も結構いるから、気にしなくていいのよ。ちゃんとそういう子のための救済措置もあるからね」

 保健室の先生が慰めてくれて、私は少しだけ落ち着いた。

 着替えを済ませて、担任の先生が私の荷物を持ってきてくれることになり、それを待っている間、保健室の先生が、

「はい、これも持っていって」

と、10枚のコインをくれた。

「……え……? こんなに、いいんですか……?」

「無理に我慢するのは身体に悪いし、今日みたいになっちゃうのも嫌でしょ? だから、お漏らししちゃった子にはコインをあげるって決まってるの」

 その時ちょうど担任の先生が私の荷物を持ってきてくれて、私は保健室を出た。

「潮田さん、この後ちょっと時間ある?」

 担任の先生に言われて、私は頷く。

「せっかくだから、名簿順でやってる個人面談、先にしちゃおっか」

 そう言われて、私は誰もいない教室で先生と2人きりになった。授業のこととかを少し話した後、

「潮田さん、今日のことは気にしなくていいからね。みんなには、校則のこともあるから我慢できなくなっちゃっても仕方ないからって言っておいたからね」

と先生が言った。

「……先生……」

「どうしたの、潮田さん?」

「……私、ずっとトイレが近くて……この学校でうまくやっていけるか不安です……」

 もしもこのままお漏らしが続いちゃったらと思うと、私は不安でいっぱいだった。

「……あのね、潮田さん。実は、去年も潮田さんみたいな子が私のクラスにいたの。それでね、その子も潮田さんみたいに入学してすぐの時にお漏らししちゃってね、その次の日から、クラスのみんながその子を助けてあげるようになったの。だから、潮田さんもきっと、みんなが助けてくれるんじゃないかな?」

 先生がそう言ってくれて、すぐに樹音ちゃんの顔が浮かぶ。そういえば、樹音ちゃんは丸1日トイレに行かなくても平気なんだっけ。そういう子が他にもいるのかな、みんな助けてくれるのかな。そう思うと、なんだか少し楽になる気がした。

「……それにね、これはみんなには内緒なんだけど、実は、先生もトイレ、結構近いの……。だから、克服できるように、一緒に頑張ろうね!」

 先生がにこりと笑う。

 次の日、教室に入ると、私のところに樹音ちゃんと何人かの女の子がやってきた。

「美玖ちゃん、これ、私昨日使わなかったからあげるね!」

「私も! はじめましてだけど、これからよろしくね、潮田さん!」

「そういえば、他にもコインが足りなくなっちゃう子がいるんじゃないかな?」

「確かに。……そうだ! みんなが余った分を他の子がいつでも使えるように募金箱みたいなの作ろうよ!」

「それ名案じゃん! 先生にも提案してみるね!」

 なんだかみんな楽しそうに話してて、私のお漏らしをからかう子は誰もいなかった。

「……あ、あの……」

 隣から小さな声が聞こえて、その方を振り向くと、そこには眼鏡をかけた大人しい子がいた。

「……実は、私も昨日、おトイレ危なくて……もしよかったら、仲良くなれたらいいな、なんて思ってて……」

 私が頷くと、その子は嬉しそうな表情に変わった。

 私のお漏らしがきっかけで、なんだかクラスがいきなりひとつにまとまったような気がして、私の不安は一気に消え去った。

─────────

今回の話は以上です!
今作も不定期更新ですが応援していただけるとありがたいです!
感想お待ちしています!
それではまた次回!
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