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町へ……

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 無精髭ぶしょうひげを生やし、掴みどころのない雰囲気をかもし出している男性は、僕の横に立つと髪飾りを手に取った。

「なんかさ、ずっと見てるからさ」

 ニッと笑うと、ポケットから柔らかい布を取り出し、髪飾りを磨き始める。
 男性の手の中で輝きを増していく髪飾りに目を奪われながら、僕は感嘆の溜息を漏らす。

「はい。素敵な髪飾りですね。値札が付いてないという事はサンプルですか? これを作った職人さんは腕がいいんですね。華美な作品ではないのに、人を惹きつける。特にここの細工の繊細さが美しすぎて、感服いたします」

 僕の言葉を聞き、嬉しそうにくしゃっと笑った男性は、楽しげに話し出した。

「これ、俺が作ったの。そこ、特にこだわったの」
「へぇ……触れると折れそう……この繊細さを表現するのは難しかったと思います。この儚げな美しさに心が揺さぶられます」
「君、わかってるじゃーん。嬉しい事、言ってくれるねぇ。そうなの。そうなの。その繊細さを出したくてさぁ。こだわったんだよねー」
「……本当に言葉が出ないくらい、素晴らしい作品です」

 上機嫌に喋る目の前の男性が、この髪飾りを作った職人だと思うと尊敬の眼差しをむけてしまう。
 男性はクスッと笑い、ジェスターと雑貨を見ている義姉さまに視線をむける。

「そんなに気に入った? あそこにいる彼女へのプレゼント?」
「えっ……あ……」

 突然、義姉さまの話を振られ、戸惑った僕は返答に窮してしまった。

「彼女も触れちゃうと壊れちゃう?」
「!?」

 彼の口から発せられたその言葉に驚き、目をこれでもかというほど見開く。彼は、何事もなかったような飄々ひょうひょうとした様子で、磨き終わった髪飾りを元の場所に置いては満足そうに頷いていた。

 僕は視線を逸らす。

 きっと、この人に他意はない。
 どういう意味で言ったのかは、わからないけど。
 僕達の関係、知らないはずなんだから。

 でも……

 胸の奥にある誰にも言えない切なさをつつかれたような気がして、心がざわめく。

 触れると壊れる……

 心臓がキュッと締めつけられた。
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