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仕事で……

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 ほどなくして、屋敷に着き、執事のディールが出迎えてくれた。

「お帰りなさいませ。旦那様、ミカエル様」
「ただいま。屋敷内で変わったことは?」
「いえ、特には。いつも通り……ああ、クラリス様にお客様が……」

 ディールの報告に、僕はピタリと動きを止め、耳をそばだてた。

 義姉さまにお客?
 誰だろう?

 王族のアルベルトは祈りに入っているし、ジェスターもシトリン家の仕事で3日間は忙しいはず。
 僕が留守にする事も言ってなかったから、抜け駆けしようなんてできなかったと思うけど……?

 ローザかリーズル?
 いや、あの2人だったら、義父さまにわざわざ報告する事では……

「ああ、彼か……」
「左様です」

 義父さまが思い出したように言うと、ディールはしたり顔で頷く。

 えっ? 誰? 誰? 誰なの?
 しかも、今、とか言わなかった?
 男? 男なの!?

 義父さまに質問しよう口を開いた時、屋敷の奥から楽しそうに話す義姉さまと男の声が近づいてきた。

「お父さま、ミカエル、おかえりなさい!」

 僕達の姿に気がついた義姉さまは、一旦、お喋りを止め、タタタッと満面の笑みでこちらに走ってきて、一緒にいた男は義姉さまの行動にクスクス笑い、ゆっくりと僕達にむかって歩いてくる。

「ただいま、クラリス。ああ、彼だね?」
「はい。お父さまがご紹介してくださった方です」

 は? 義父さまが紹介した?
 
 その人物はプラチナブロンドの髪をかき上げ、目を細め、深々と丁寧にお辞儀をした。

「公爵様がお留守中に失礼致しました」
「いやいや、こちらこそ、すまなかったね」

 僕はその人物に見覚えがある。

 バード・ハミルトン。

 ハミルトン伯爵家の長男。
 僕らより2歳年上の彼は、社交倶楽部で誰かに紹介され、挨拶ぐらいは交わした気がする。

「ミカエル様、お久しぶりです」

 深いエメラルド色の美しい瞳がニコリと愛想よく微笑んだ。
 
「バード様、ご無沙汰しております……えっと、我が屋敷にいらっしゃるのは、何用で?」

 不躾ぶしつけかな……とは思ったものの、気になってしょうがない。

 なんで、義姉さまと一緒にいるの?
 
「ふふっ、少しお話を。ね? バード様」

 義姉さまは、すっかり仲良くなったのか、親し気にバードに話しかける。

「はい。公爵様、昨日はクラリス様と話が弾みまして、こちらに泊めていただいて……」
「は!?」

 バードの台詞に誰よりも先に反応し、思わず声が出てしまった。

 昨晩?
 泊めて?

「昨日、話をまとめるのに時間かかっちゃって……遅くなっちゃったの。私から、宿泊のご提案をしたの。いけなかったかしら?」
「構わないよ。バード君もクラリスに付き合ってもらって悪かったね」

 …………まって!!
 義父さま、まって!
 なんでそんなにおおらかなの!
 男が泊ったんだよっ?
 大事な娘が男と一緒にいたんだよ?
 これ構わなきゃいけない案件でしょう!?

 バードの隣でニコニコしている義姉さまを見て、僕は旅の疲れとは別の疲労を感じ、クラクラと目眩めまいがした。

 僕がいない間に男が泊まっていたなんて……誰が予想できた!?
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