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お見舞いに……
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僕ら3人は新たに淹れてもらった紅茶を飲み、ひと息ついた。
「焼き上がりましたので、温かいうちにどうぞ」
セリナがほんのり温かいスコーンを持ってきて、テーブルの中央に置くと、義姉さまの目がキラキラ輝き出す。
「わぁぁ、スコーン!」
「クラリス様がお好きですから」
「セリナ、ありがとう! 美味しいのよ。セリナのスコーン」
穏やかに微笑みを浮かべるセリナも、昨日から義姉さまの事をずっと心配し続け、やっとホッとしたのだろう。小さい頃から義姉さまの好きなスコーンをたくさん作ってしまったらしい。
満面の笑みでスコーンを手に取り、義姉さまは幸せそうな顔で口を大きく開け、パクリと頬張った。
公爵令嬢とは思えない……
たぶん同じ言葉が頭をよぎった僕とジェスターは、同時にクスッと笑ってしまう。
僕もスコーンを手に取り、クロテッドクリームとベリージャムをのせて、一口食べる。
あ、ホント、美味しいな。
「ねぇねぇ! 今度、このスコーン作ってもらって、お散歩行きません? もう少ししたら木の葉も赤くなって、きれいだわ」
義姉さまは2個めのスコーンを手にし、クロテッドクリームをたっぷりのせながら、はしゃいだ声での提案に僕達は同時に微笑んだ。
「いいね」
「うん、楽しみだね」
ああ、また、ジェスターと被った……
「アルベルト様にも声かけなきゃ」
義姉さまの口からアルベルトの名前が出ると、僕は一気に現実に引き戻され、真顔に戻る。
同じく、笑顔がスッとなくなり、ジェスターもピタリと動きを止めた。
ああ、やっぱり、知ってたよね。まぁ、シトリン家なら当然か。
僕達2人が無反応になった事に驚きつつ、ピリッとした空気は感じたのか、義姉さまは僕とジェスターを交互に見た後、口つぐむ。
『クラリスはどう思ってるんだ?』
『昨日の今日なんだよ? 聞いてないよ』
『ふーん……で?』
『渡さないよ』
『僕もだ』
目をチラチラ合わせ、なんとなくお互いの意思を確認し合い、僕とジェスターは同じタイミングで溜息をつく。
ああ、やっぱりね。
結局、恋敵は1人も減らないって事ね。
ジェスターはコホンと咳払いをして、緊張感があった雰囲気を穏やかなものにし、義姉さまに本題を切り出した。
「……クラリスとアルベルトの婚約が内定したと小耳に挟んだんだけど」
「へっ?」
……
……
……
……
……
義姉さまの動きが止まる。
「!!!!」
時間が動き出したと思ったら「あっ」と何かを思い出したように一言つぶやき……義姉さまはテーブルの上に突っ伏した。
えっ?
……まさか……まさか……まさか?
義姉さまの一連の動作を目の当たりにして、僕はある1つの単語が頭に浮かぶ。
…………忘れてた?
「焼き上がりましたので、温かいうちにどうぞ」
セリナがほんのり温かいスコーンを持ってきて、テーブルの中央に置くと、義姉さまの目がキラキラ輝き出す。
「わぁぁ、スコーン!」
「クラリス様がお好きですから」
「セリナ、ありがとう! 美味しいのよ。セリナのスコーン」
穏やかに微笑みを浮かべるセリナも、昨日から義姉さまの事をずっと心配し続け、やっとホッとしたのだろう。小さい頃から義姉さまの好きなスコーンをたくさん作ってしまったらしい。
満面の笑みでスコーンを手に取り、義姉さまは幸せそうな顔で口を大きく開け、パクリと頬張った。
公爵令嬢とは思えない……
たぶん同じ言葉が頭をよぎった僕とジェスターは、同時にクスッと笑ってしまう。
僕もスコーンを手に取り、クロテッドクリームとベリージャムをのせて、一口食べる。
あ、ホント、美味しいな。
「ねぇねぇ! 今度、このスコーン作ってもらって、お散歩行きません? もう少ししたら木の葉も赤くなって、きれいだわ」
義姉さまは2個めのスコーンを手にし、クロテッドクリームをたっぷりのせながら、はしゃいだ声での提案に僕達は同時に微笑んだ。
「いいね」
「うん、楽しみだね」
ああ、また、ジェスターと被った……
「アルベルト様にも声かけなきゃ」
義姉さまの口からアルベルトの名前が出ると、僕は一気に現実に引き戻され、真顔に戻る。
同じく、笑顔がスッとなくなり、ジェスターもピタリと動きを止めた。
ああ、やっぱり、知ってたよね。まぁ、シトリン家なら当然か。
僕達2人が無反応になった事に驚きつつ、ピリッとした空気は感じたのか、義姉さまは僕とジェスターを交互に見た後、口つぐむ。
『クラリスはどう思ってるんだ?』
『昨日の今日なんだよ? 聞いてないよ』
『ふーん……で?』
『渡さないよ』
『僕もだ』
目をチラチラ合わせ、なんとなくお互いの意思を確認し合い、僕とジェスターは同じタイミングで溜息をつく。
ああ、やっぱりね。
結局、恋敵は1人も減らないって事ね。
ジェスターはコホンと咳払いをして、緊張感があった雰囲気を穏やかなものにし、義姉さまに本題を切り出した。
「……クラリスとアルベルトの婚約が内定したと小耳に挟んだんだけど」
「へっ?」
……
……
……
……
……
義姉さまの動きが止まる。
「!!!!」
時間が動き出したと思ったら「あっ」と何かを思い出したように一言つぶやき……義姉さまはテーブルの上に突っ伏した。
えっ?
……まさか……まさか……まさか?
義姉さまの一連の動作を目の当たりにして、僕はある1つの単語が頭に浮かぶ。
…………忘れてた?
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