1番近くて、1番遠い……僕は義姉に恋をする

桜乃

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お見舞いに……

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「あーー、次世代社交界の花形と呼ばれているだけあるよね。贈り物もお世辞も完璧だね、ジェスター」
「本当に! そんな事、言われると嬉しくなっちゃいますよ? ジェスター様はご令嬢にモテモテでしょうねぇ」

 僕は「お世辞」を強めて、横から口を挟む。
 義姉さまは、大切な人という言葉をやはり本気にせず「さすがだわぁぁ」なんて、とんちんかんな感心をしている。
 
 貴族社会でお世辞は必須スキル。
 お世辞も言えないような奴は、社交界でも相手にされない。
 さすが、シトリン家の教育を受けているだけあるよ、うん。

 もちろん……義姉さまへの言葉はお世辞じゃないことを僕は知ってるけどさぁ。

「ああ、シトリン家は愛する女性を大切にする。贈り物をする時は特別な店に行くからね」
「まぁ、素敵」
「クラリスへの贈り物はその店で、僕が選んでるんだよ」
「あら? もったいない事ですわ」
「義姉さま、良かったね。シトリン家の御用達の店の贈り物なんて、ジェスターの恋人しか本来は貰えないのに、の義姉さまにもいただけるなんて、ジェスターは優しいね」
「ほんとにね。ジェスター様は優しいですわ」
「いや、違……」
「本当にシトリン家はすごいよなぁ。愛する女性の為の御用達のお店があるのだから」

 アプローチしたにもかかわらず、僕が「友人」と強調したのが不快だったのか、眼鏡の奥の深緑色の瞳にチラリと悔しそうな色が灯る。

 僕が誘導しなくても、義姉さまは間違いなく「友人にまで優しいわーさすが社交界の花形!」って思ってるよ。
 僕は背中を押しただけ。

「なんなら、ミカエルにもお店、紹介しようか? アルフォント公爵について仕事してるなら、ご令嬢と会う機会も多いだろ? そういえば、ミカエルを紹介して欲しいって頼まれていたっけな。ナザイル侯爵のご令嬢やネストニーネ伯爵のご令嬢……それから」

 指を折りながら、次々とご令嬢の名前を挙げていくジェスターに僕は焦る。

 まて、まて、や、やめてっ。
 義姉さまの前で変なこと言わないでよ!

「……それをいうなら、ジェスターだって……」

 ジェスターは僕より婚約の話が上がっているはず。なんてったって、あのシトリン家の次期当主。すべての貴族がシトリン家と縁を結びたいは……ず……あれ? そういえば、ジェスターの話は聞かないな。

「ああ、僕? 僕はミカエルほど、もてないよ」

 黒髪をかき上げながら、美しい整った顔が不敵に笑う。

 ウソつけーーーーーー!
 全部、潰してるでしょ?
 義姉さまの耳に入る前に潰してるんでしょ!!

 ああ、どうしよう。
 義姉さま、変な誤解してなきゃいいけど……

 横目で義姉さまを見ると、肘を付きながら僕達の事をにこやかに見ていて……

 えっ……なになに?
 なに、考えてるの?

 僕はおそるおそる聞いてみる。

「なんで、義姉さま、楽しそうなの?」
「いやぁ、本当に仲良しさんだなーって、男性達の恋話を堪能させていただきました。かわいいなって」
「……なっ、かわいいって……」

 か、かわいいって……

 僕は赤くなり口ごもり、ジェスターは額を右手で押さえてうつむき、小さく溜息をついた。
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