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前世 ―ぜんせ― side 美咲

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「お兄ちゃん! 昨日ね、そうちゃんのお祖母ちゃんからサツマイモ貰ったの!」

 ……私の前世、森宮もりみや美咲みさきは17歳の誕生日前日、少し年が離れた兄達に誕生日プレゼントをおねだりすべく、手作りのスイートポテトを自慢げに見せびらかしていた。

「スイートポテト! ね? ね? 食べてみて!」

 ソファーにゴロンと寝転び、テレビを観ていた長兄の天兄てんにいがおっと声を出し、起き上がった。早速スイートポテトに手を伸ばし、ニマッと笑う。

「やっぱり美咲の手作りは旨いな。スイートポテトはいくつでも食べられる」

 一口大のスイートポテトを口に頬り込み、もぐもぐと満面の笑みで食べる天兄を見て、分厚く難しそうな本を読んでいた次兄の雪兄ゆきにいも手を取り、一口かじった。

「うん、美味しいよ、美咲。スイートポテトの自然の甘さがいい」

 淡々と言いながら、もう一つつまむ雪兄。私は褒められた事に気分を良くし、ニコニコしてしまう。

 私の自慢のお兄ちゃん達。
 
 森宮もりみやてん森宮もりみや雪斗ゆきと

 天兄はその世界では知らない人はいないと言われている剣道の達人。天兄が剣を持つと一瞬にしてその場の雰囲気を支配する。達人と呼ばれる人は他にいても場の空気を変えるほどの気迫ある剣が振れるのは天兄しかいない。我が兄ながらかっこいいのだ。

 かっこいいと言えば、雪兄もすごい。子供の時から神童と呼ばれ、学生の頃は全国模試1位を取り続けた天才。各大学、各研究機関から毎年のように声が掛かる。私の勉強はすべて雪兄がみてくれて……すべてってすごくない? 全教科に死角なし。何を聞いても答えてくれる。歩く広辞苑と私は呼びたい。

 幼稚園児の頃、大好きなお兄ちゃん達のお嫁さんになるんだ!って私は本気で思っていた。

「けっこんって、1人としかできないんだよっ。みさちゃん、そんなことも知らないの?」

 同じく幼稚園児だった、隣に住む幼馴染の颯ちゃんに偉そうに言われ、ムッとしたけど。

 間違ってはいない……いないけど、さすが幼稚園児。今の私がその場にいたら「そこじゃない」とツッコミをいれていたところである。
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