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懸念 ―ケネン―
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しおりを挟む「おっと……ジェスターじゃないか」
その人影にぶつかりそうになり、足を止める。ニッと僕の顔を見て笑ったその人物は、王国一の剣の使い手、エドワード・ブライトン。
ザラの兄でもあり、僕の剣の師でもある彼の訪れに少しホッとした。エドワードなら死神の事情も知っているし、ザラの様子についても聞けそうだ。
すでに仕事を始めていたザラは、デスクの上に積まれた書類に埋もれている。エドワードは執務室にズカズカ入ると、デスクの上に置いてある繊細な模様が施された小箱を大事そうに手に取った。紫紺色の瞳に優しい色を灯し、小箱を眺めながらザラに声を掛ける。
「魂の回収は終わったのか?」
「終わった」
エドワードとザラの会話に特におかしいところはなく、至って普通だ……けど……え? あんなエドワードの優し気な目、初めて見たんだが。
あの小箱は何なんだろう……あんな小箱、今まであったかな。
小箱なんかには、絶対に興味がなさそうなエドワードの嬉しそうな頬を緩めた顔に、僕は少し困惑する。が、今、直面している問題はアルベルトだ。
ペコリとお辞儀をして、執務室を後にしようとした瞬間、ザラから鋭い声が飛んできた。
「ジェスター、もし王子がクラリスに手を出してたら、ぶっ潰しなさい。その際、魔法を使う事を許可しましょう」
…………はい?
僕はそのまま動きが止まる。
もちろん、邪魔する為に王宮にきたんだけど……ぶっ潰せとは穏やかじゃない。アルベルト、この国の王子だよ? 王位継承権第二位の。しかも、魔法使用の許可まで下りたし。どんだけ異常事態なんだ……
「言っておきますが、もし貴方がクラリスに手を出したら、私自らの手で貴方をぶっ潰しますから。そのつもりで」
アルベルトだけじゃなく、物騒な事象が僕にも降りかかってきたんだけど。そのつもりで……って言われても……そんな心構えしたくないです。
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