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懸念 ―ケネン―

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 今頃、クラリスは王宮に行ってるのだろうか。

 胸ポケットから出した懐中時計に目をやった。

 あの無表情で威圧感半端ないザラと対面して、心細い思いをしているかもと思うと、クラリスが心配でたまらない。それに……

 僕は自分の胸を押さえた。

 昨日からの胸のざわつきがずっと続いている。何がと言えないが、得体のしれない不安が僕を襲っていた。

 暗部騎士が僕の前に現れ、刈りの時間だとひざまずく。僕はチラリと確認し、眼鏡を外した。黒いローブに袖を通し、フードを目深く被る。

「行くぞ」
「御意」

 とにかく死神の仕事は最優先だ。仕事を終わらせなければ、自由に動けない。

 僕は気持ちを切り替え、大鎌を顕現させた。


「Aクラス魔道士の誘拐、監禁、オークション……」

 薄暗い刈場で暗部騎士に囲まれている男を見下ろし、罪状を口にする。縛られ、身動き一つできないにもかかわらず、反省の色は1ミリもない下卑げびた笑いで僕を見ている無精髭の男。

 まぁ、反省という言葉を知ってたら、僕の元に送られてこないわけだが。

 それにしても……他国の魔道士誘拐組織は徹底的に調べたつもりだったが、漏れてたか……やはり全世界を把握するのは、シトリン家といえど無理があるな。

「おい、ここはうちの国じゃないんだろう? この国では俺は犯罪者じゃないぞ」

 男はニヤリと正論を得意げに言い、勝ち誇ったような顔をした。この状況下でこんなにふてぶてしい態度が取れるなんて、ある意味尊敬してしまう。

 たしかに罪人は罪を犯した国で罰せられるという世界的なルールがある。

 表社会は、だ。

 この男は、誘拐、闇オークションに手を出した時点で闇社会の人間になった。法を犯したくせに、今更法に守ってもらおうなんて片腹痛い。
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