グリム・リーパーは恋をする ～最初で最後の死神の恋～

邂逅 ―カイコウ―

4

「ジェスター！　どうしたの？　急に…………って、義姉さま？」

　ミカエルが慌てて追いかけてきて、困惑した顔をした。

　アルフォント公爵家の令嬢は魔力量が多いことで話題に上る事もあったが、僕は全く興味がなかった。ミカエルは従姉弟いとこにあたる義姉上あねうえの話題をしたがらなかったし、仲が悪いのかと思い、僕もあまり深く聞く事はしなかったが……

　そうか……君はこんなに近くにいたんだ。

「ミカエル……紹介、してくれ」

　なかなか義姉上を紹介しようとしないミカエルに痺れを切らし、催促をする。仲が悪くても、紹介くらいはしてくれても良いだろう？

「あー……クラリス・アルフォント……僕の義姉。……えっと……ジェスター・シトリン……仲良くしてもらってるんだ……」

　ミカエルは顔を曇らせ、渋々といった感じで紹介した。僕は一歩前に出て、丁寧にお辞儀をする。

「クラリス嬢、お会いできて光栄です。ジェスター・シトリンです」

　スッとクラリスの手を取り、白く可愛らしい手の甲へ挨拶の口づけを落とす。

　彼女の頬に薄紅が差し、照れているように見えた。

　毎日のように恋い焦がれていた少女が、目の前にいる事実に胸の高鳴りが止まらない。

　赤くなった顔を上げた彼女は頬を緩ませ、にっこりと笑った。

「クラリス・アルフォントです。まさか、ミカエルがシトリン侯爵家のご子息と仲良くして頂いているとは……ありがとうございます」
「いえ……こちらこそ」

　僕がクラリスの笑顔に見惚れていると、不満そうな顔をしたミカエルが肘で僕をつつく。

「ジェスター、戻ろ……義姉さま、ごめんね。後で……」
「あ、そうね。ごめんなさい、お邪魔しちゃって。では、私はこれで……」

　僕は平静を装いながら、必死に彼女を引き止める言葉を放った。

「お時間がありましたら一緒にお茶をしませんか？　いいだろ？　ミカエル」
「あー、でも、義姉さまもお忙しい……」

　思いっきり顔をしかめたミカエルがモゴモゴ言い始めたが、クラリスは気がついてないようで嬉しそうに僕を見る。

「ご一緒しても、よろしいのですか？」
「ぜひ」

　僕が頷くと、しまった……と舌打ちが聞こえてきそうな呟きがミカエルの口から発せられた。

　クラリスが手に持っていた綺麗に包装された袋に僕は見覚えがある。町でミカエルが幸せそうに選んでいたお菓子だ。

　僕は察した。

　ミカエルが僕にクラリスの事を話さなかった理由を。
　ミカエルがクラリスに僕の事を話さなかった理由を。


　ミカエルが親友から恋敵ライバルになった瞬間だった。