グリム・リーパーは恋をする ～最初で最後の死神の恋～

遭逢 ―ソウホウ―

9

　死神の仕事を終わらせ、部屋に戻った僕はソファーにドスンと座り込み、大きな溜息をつく。

　疲れたな……

　何もない宙ちゅうを見つめながら、思い浮かべるはあの子の笑顔。ハンカチを胸ポケットから出し、ギュッと握りしめた。

　――毎日、恋焦がれるくらい大切な人を見つけなさい。

　ああ、これが父上が言ってた恋焦がれるという感情か。

「お茶の用意をしますか？」

　専属侍従のエバンの声で我に返り、闇の仕事の前に終わらせる予定だった溜まっている書類を眺める。あともう一踏ん張りしなきゃと僕は立ち上がった。

「そうだな」
「かしこまりました」

　エバンはお茶の準備をしながら、ハンカチをちらりと見て、そのハンカチの模様は何ですか？　と不思議そうに聞いてくる。

「なんだと思う？」

　ハンカチをじっと見つめ、頭を右に左に動かし、見る方向を変え、やっと思いついたのか顔を上げた。

「イガグリですか？」

　僕は思わずぷはっと吹き出し、片付けていた書類を落としそうになる。

　本当だ。君は僕に笑顔をプレゼントしてくれたね。

「薔薇だよ」
「えっ！？」

　びっくりするエバンに僕はクスッと笑う。

「僕にはとても綺麗な薔薇に見えるよ」

　子供の頃から無感情の僕が笑った事に驚きながらも、エバンは嬉しそうに微笑んだ。

「左様ですか。きっと素敵な薔薇なんですね」
「うん……綺麗でかわいくて素敵な薔薇だよ」

　僕はオレンジ色の刺繍を見つめ、僕の世界に色をくれた大切な君の笑顔を思い出す。